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「声の主」
「かおくーん、どこに隠れているの」
「かおくーん」
「かおくーん」
「かおくーん」
「かおくーん」
「かおくーん」
かおむはたしかに同じ声を聞いていた。
しかし、思い出せなかった。
「かおくーん、どこに隠れているの」
隠れる、隠れる、隠れる...
「かおくーん、どこに隠れているの」
「かおくーん」
「かおくーん」
「かおくーん」
かおむは何度も同じ声を聞くが、
その声の主が思いだせなかった。
そして、周りを見て、ふと気づいた。
諸悪の根源は美を求めすぎることにある。
過大な美への欲望は自らをも自滅させる。
そして、
美への欲望が生まれるのは
その周りにいるものの心に原因がある。
美は周囲に敏感なのである。
「かおくーん」
「かおくーん」
「かおくーん」
「かおくーん」
「かおくーん」
「かおくーん、どこに隠れているの」
かおむは、
「僕はここにいるだすよ」
と精一杯声をあげたが、
その声の主に聞こえるはずはなかった。