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「化け物と不安」
そこには見たこともない...
生き物がいた。
「かおくーん。
かおちゃーん!
あたしよ!あたし」
その生き物はそう言ったあと、
かおむに鏡を渡した。
かおむは、
小さな手鏡を受け取ったものの、
それを覗く勇気はなかった。
「かおくーん。
かおちゃーん。
あたし...」
「かおくーん。
かおちゃーん。
あたしキレイ?」
かおむは
一度受け取った手鏡を返そうと思った。
しかし、
そのとき、その生き物には目がないことに初めて気づいた。
「かおくーん?
かおちゃーん。
あたしキレイ?」
目のない生き物は何度も同じことを呟いていたが、
どうやらそれ以上の行動をする気はないようだった。
かおむは考えた。
その生き物に目がないということは、
自分にも人間にはある何かが欠けているのではないかと。
見えるから目はあるようだった。
聞こえるから耳はあるようだった。
口は?
鼻は?
手はあるようだった。
足は?
かおむは鏡を見る前に、
右手で自分の身体をそっと触り始めた。