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「新たな欲望」
「ねえ、
明日帰らないといけないの?」
「早かっただすなあ。
でも、飛行機は明日だすよ」
「もっといたいなあ」
「うーん、また、来るだすよ」
「本当!」
「うん」
もとえは南半球のきれいな星空を
うっとりと眺めていた。
かおむは
もとえに新たな欲望が生まれてきたことに
まだ気づいてはいなかった。
もとえは日本に帰ると、
ますますきれいになっていった。
健康も完全に回復し、
家事もそつなくこなし、
かおむの妻としても完璧であった。
しかし、
かおむは
なんとなくそれが怖ろしかった。
そして。
かおむともとえがテレビを見ていると、
突然、
「うわーあ。あの子きれいねえ」
もとえはテレビのCMに出てきた
新人タレントを指さしてそう大声をあげた。
「ああ、今売り出し中だすなあ。
あー、名前は忘れただすよ。
でも」
もとえはかおむの言葉を遮ると、
「ダメよ。おだてても。
あんなキレイな子はそうはいないわ。
あたしもあんな風にきれいなら良かったのに...」
かおむが一番聞きたくない言葉をもとえが吐いた。