異世界での生活が始まる
ここは一体どこなんだ⋯
異世界というのはわかっている。
建物も人も文字も前世の物とは全く違っていた。
建物は前世で言うヨーロッパの街並みみたいなものだ。
俺と同じ人間もいるが、獣のような人間、耳が長いエルフ、翼が生えた天使?のような人間と様々いるようだ。
文字に関しては、歴史の授業で見たような訳の分からない文字だ。
しかし、文字は読むことも書くことも出来た。
「文字を読めるし書けるぞ!でも、そんな事より、お金がねぇぇぇぇ」
俺は街の真ん中で叫んでしまった。
すると大勢の人が俺に目を向けた。
俺は恥ずかしくなり、とりあえず走って逃げた。
「はぁはぁ⋯ ここまで来れば誰にもバレないだろう」
走って逃げてきた森で倒れ込んだ。
横になり空を見上げると、きれいな青空だった。
「空はどの世界でも綺麗だな⋯」
前の世界でも、空は綺麗だったのを思い出した。
すると突然、魔物が現れた。
急いで立ち上がり、どうにかしようとしたが⋯
「武器、武器、無い⋯ 魔法は使えるか分からない⋯
どうすればいいんだああああ」
気がつくと魔物が倒れていた。
叫んで倒れたのか?
そんな変な事を思っていると、近くに人がいた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。助かりました。」
「こんな所で寝ていては危険ですからね」
忠告をしてその人は立ち去った。
見えなくなってから俺は名前を聞き忘れた事に気づいた。
それに言葉が分かったことに俺は驚きを隠せなかった。
「来た道を戻って、街に行くか⋯」
俺は街に向かった。
そういえば、さっきの人は冒険者か何かなのかな⋯
街に着いたら、冒険者ギルドに行ってみる事にした。
しばらく歩くと城壁が見えてきた。
もう少しで着くと思ったその時だった⋯⋯
「おい、金目の物出せよ」
いきなりナイフを向けられ、脅された。
俺は恐怖で何も出来なかった⋯
足は震え、体は固まってしまった。
「聞いてんのかぁ!」
「は、はい⋯」
「兄貴が金目の物を出せって言ってんだよ」
「今手持ちが無くて⋯⋯」
「はぁ?少しは持ってんだろうがよ!」
「ほんとに何も持ってないんです⋯」
「兄貴、こんなやつ放っておきましょう」
「おう、そうだな」
首元に付けられたナイフが離れ、体の力が抜け、俺はその場に座り込んだ。
今の人達は、さっき助けてくれた人とは違うな⋯
あれは盗賊か⋯⋯
街までもう少しの所だったのに足が震えて立てないでいた。
「君、大丈夫かい?」
「あ、大丈夫です」
後ろから声をかけられ、情けない声で返事をした。
声の方に振り返ると、魔物から助けてくれた人だった。
俺が座り込んでいるのが見えて、走ってきたらしい。
俺は何があったかを説明した。
「街に戻ろうとしていたら、2人組の男に金目の物出せよと言われまして⋯」
「あぁ、それは盗賊だ」
「盗賊なんて居るんですね」
「容赦なく殺してくるから、絡まれない事が1番だよ」
「こ、怖いですね⋯」
「まぁ、とりあえず街に行こう」
「はい⋯」
俺は手を取って、立ち上がった。
2人で街に向かった。
「あ、自分の名前はヒカルと言います」
「名前を言ってなかったね。俺はオズだ」
「オズさん、2回も助けていただきありがとうございます」
「人が困っていたら助けるのが冒険者ってもんだ」
「やっぱり冒険者さんだったんですね」
「この街は冒険者になるか、商人になるかしかないからな」
「え、そうなんですか」
「食べ物屋、宿、飲み屋もあるが、家族でやってる所がほとんどだ」
「なるほど」
「冒険者ギルドに連れて行って貰えますか?」
「もちろん!俺も今から行く所だ!」
街に入り、俺はオズさんと一緒に冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに着き、俺は緊張しながら入った。
「オズさん、おかえりなさい」
入ってすぐに、オズさんに声をかけてきた女性がいた。
受付嬢かなぁ⋯と思ったが、格好は冒険者のようだ。
「ただいま」
「無事で何よりです」
「俺が負けるわけないだろ」
「そうですよね」
「またイチャイチャしてるぞ」
「イチャつくなら家でやれよな」
「羨ましいぜ」
オズさんと女性の絡みはいつもの事のようだった。
周りがざわざわしているのを見て何となく関係性はわかったが、何も言わないでいた。
「あなたは?」
「ヒカルと言います」
「オズさんとなんで一緒にいるの?」
「あ、森で魔物に襲われたり、盗賊に襲われていた所を助けてもらったんです。そして冒険者ギルドに案内されて来た所です」
「そうだったのね」
「ヒカルくんは登録をしてくるといいよ」
「はい。ありがとうございました」
俺は、オズさんに深々と頭を下げ受付に向かった。
「あの、冒険者の登録をお願いしたくて⋯」
「オズさんに聞いてますよ」
「いつの間に!」
「まずは魔力量と適正を測りますね」
「はい」
「こちらの右の板に手を当ててください」
受付嬢は何か魔法陣のようなものが書いてある板と、何も書いてない板を出して指示をした。
「それではまず、魔力量を見ますね」
「ここに置いておけばいいんですね」
「はい」
1分ほどで、もう1枚の板に表示された。
一般的な魔力量が分からなかったが、これが普通だろうと思っていた。
「あ、あのヒカルさん⋯」
「はい?」
「これは本気ですか?」
「いや、3割くらいですね」
「3割で3000って事は⋯ひぇ」
受付嬢は倒れてしまった。
後ろからオズさんが来て、俺の魔力量を見て驚いていた。
「ヒカルくん、これ本気?」
「3割程度ですけど⋯」
「これは国王に知られてはダメだな」
「冒険者としてこの街に居てもらうしかない」
「そうだそうだ」
「今ここにいる奴ら黙っておくんだぞ!」
何故かギルド内が騒がしくなった。
そこまでやばいのかな⋯
受付嬢が起き上がり、話をした。
「とりあえず、登録は出来ました⋯」
「ありがとうございます」
「ランクは最初はDからになります。依頼はいつでも受け付けているのでじゃんじゃん受けてくださいね」
「最高ランクはSですか?」
「そうです!D→C→B→A→Sとなっております」
「分かりました!」
「あ、あと適正を知りたいので裏にお願いします」
「はい⋯」
属性ということか⋯
前世で見ていたアニメのように火、水、風とかなんだろうか⋯⋯
「それではこちらへどうぞ」
ギルドの裏に水晶のようなものが置いてあった。
それに手を当てて属性を調べるらしい。
「この水晶に手を当ててください」
「はい⋯」
さっきの事があるから少し不安だった。
「魔力を少し出して貰ってもいいですか」
「少し⋯少し⋯」
「え!?まさか、全属性が適正!?」
「凄いことですか?」
「凄い所の話じゃないですよ!」
「え⋯そんなにですか⋯」
「国王様には言わないでおきますので⋯」
「あの、国王様はかなりの暴君で⋯」
「あ、なるほど」
「この街からは離れた方がいいかと思います」
「分かりました⋯」
受付嬢にこの街にはいない方が言われ、俺はまた森に行くのかとビクビクしていた。
受付嬢とギルドの中に戻った。
「名前を申し遅れました。私はアンナと言います」
「アンナさん、魔法ってどうすれば出来るんですかね」
「イメージして放つって感じですね」
「なるほど」
「今から近い所に行きますね」
「少しですが、資金にしてもらえれば⋯」
「え!?それは貰えないですよ⋯」
「武器、防具、食料だけでも持って行ってください」
「わ、わかりました⋯」
俺は、アンナさんと話を終えて、オズさんを探した。
「あれ?オズさん居ませんか?」
「オズなら森に向かったぞ」
「ありがとうございます」
アンナさんに少し貰ったお金で、武器と防具を買いに行った。
この街では他にすることも無いから、買ったら近くの山に身を隠そうかな⋯⋯
「いらっしゃい!」
「武器と防具を貰えますか?」
「欲しいのはあるか?」
「短刀があれば助かりますね」
「それなら、これがいいんじゃないか」
「これはいいですね」
「武器と防具はこれで30ベルだな」
「これで足りますかね」
「ちょうどだな!冒険者として頑張ってくれよ!兄弟!」
武器屋を出て、俺は森に向かった。
・・・・・
オズさんを探しに森に着いた。
その時だった⋯⋯⋯
「キャーーーー」
悲鳴が聞こえた。
俺は悲鳴が聞こえた方に走った。
するとそこには、同い年くらい子が倒れていた。
その目の前には魔物が⋯
「岩壁」
彼女を石の壁で囲んだ。
言葉を言うだけで長い詠唱を言わずとも出来てしまった。
俺は魔物の前に行き、氷の槍をイメージして魔法を使った。
「氷槍」
初めて魔法を使ったが、魔物を一突きで倒してしまったのだ。
よく見てみると、氷槍は魔物を貫通して空で爆発していた。
すごい力だ⋯
魔物から何かが落ちた。
赤紫色をした石のようなものだった。
これが何か分からなかったが、俺は彼女の元に駆け寄った。
「怪我はありませんか?」
「ありがとう…ございます」
「自分は人を探してるのでもう行きますね」
「あ、あの⋯」
何か言いたそうだったが俺は先を急いだ。
それにしてもあの子は普通の人間では無いような⋯
俺はそんなことを考えながらも、オズさんを探した。
「オズさーん」
名前を呼んでもこの広い森では届かないであろう。
森の奥の方まで来たようで、少し開けた所に来た。
とりあえず、今日はここに野宿する事にした。
魔物が襲ってきてもいいように防壁を付けておいた。
魔法で家を建てれないかと思い、魔法を使ってみた。
しかし、上手く発動されなかった。
やはり、家を建てる魔法は無いのか⋯と思ったその時、どこからか声が聞こえた。
「建築スキルを取得しました」
「ん?なんだ?」
「ピコン」
「うわっ、何か画面が目の前に⋯」
「初めまして私はアイ。あなたのステータスを管理しています」
「ステータスかぁ⋯全く見てなかったな」
「ヒカル Lv1 全属性魔法 スキル 建築、収納、空間転移、鑑定です」
「Lv1でこのスキルはチートではないか⋯」
「女神様からの力です」
「あの人からの力か⋯すごい力だ⋯」
「まずは、建築のスキルを使い家を建てましょう」
「そうしよう」
この森の奥には誰も立ち入らないらしく、開拓すらされていなかった。
今いる場所は街からもかなり離れている。
誰にも見つかる事がないなら安心だ。
「建築スキルで頑丈で広い家」
こんなざっくりした感じで出来るのだろうか⋯
すると、目の前に大きな家が現れた。
「家の建築が完了しました」
「はやっ!」
すぐ出来たから中は全然だろうと思っていた。
扉を開け、中に入ると、広々とした空間に2階まである家だった。
食器、家具も揃っていた。
すぐに暮らせる状態で出来上がった。
「この家でのんびりスローライフを満喫するぞ」
こうして1日が終わり、これからここで生活していくことになる。
パパになるのがすぐだとは、まだ知らないのであった。