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バレンタインデーSS 2025

バレンタインデーには遅れましたけどifストーリーでSSを書いてみました。なお、現代日本にちょっと似ている世界の学校でのお話です。


 家庭科調理室のドアの開けようとしたら中からドアが開いてアンソニー先生が出てこようとしていた。

「あらぁ、ローズマリーちゃんも来たのね。これでみんな揃ったのね。じゃ、シンシアちゃんよろしくね」


 アンソニー先生は被服科の先生だけど今日は調理の先生の代わりなのだろう。

ローズマリーは職員室に向かう彼の背をちょっと見送ってからみんなの元に向かった。


「おそーい」

 デボラがちょっと膨れて言うとシンシアがなだめる。


「まだ時間前よ、時間もいっぱいあるし」


 そう言いながらシンシアは調理台に道具を並べている。シンシアは薄いピンクのフリルが付いたかわいいエプロンをつけている。その横でデボラは派手なバラの模様のついた黒いエプロンをつけようとしていた。文句を言った本人もちょっと前に来たのはバレバレだ。


「ローズマリーもエプロンつけて」


 シンシアに言われたローズマリーは祖母からもらった白い割烹着をカバンから取り出す。

小さい頃はからかわれたけど、この二人だけは割烹着を素敵と言ってくれた。


「さて、二人から預かったのは、こっちの冷蔵庫に入れてあるから……」


 先に準備を始めたシンシアは手慣れた様子で材料を取り出す。何しろ彼女は調理研究会とお菓子クラブの両方の部長なのだ、ここは彼女の白と言っても過言ではない。


「デボラはどんなチョコにするの?」

「カイルが発情するような媚薬入りチョコ」


 デボラの本気か嘘かわからない答えをシンシアは受け流す。


「はい却下。だいたい媚薬なんてあるの?」

「えーと、おばあさまの書庫に……」

「ローズマリーは?どんなの作りたい?」


 デボラの言葉をバッサリ切ってシンシアがローズマリーに聞いた。


「やっぱり刀の形かな。もちろんサイズは等寸大で」


 シンシアはにっこり笑ってこちらもバッサリ切る。


「持ってきたチョコレートの数考えなさい。あ、今から買いに行くのはだめよ。もうチョコレートあh店に残ってないから」

「じゃ、アレックス先生のミニサイズ!」

「それも却下ね。だいたい今まで手作りのチョコレート作ったことないんでしょ? だから私になきついてきたんだから。というか妹さん、リリーにも匙投げられるなんて」


 何をしたのかしらという言葉はシンシアの口の中で消えた。


「いや、リリーの道具をいくつか壊しただけだ。ちゃんと新しいのを買ってあげたのにあいつ……」


「いつまで喋ってるのかしら、早く始めましょうよ」


 デボラがフンスと腰に手をやり調理台の前に立っている。


「始めましょうか」


 シンシアがテキパキと道具と自分の分の材料を取り出す。残りの二人は持ち寄った材料を取り出した。


「まずは板チョコを細かく砕いてから……」


 そう言うと直ぐにシンシアは大きな声でローズマリーを止める。


「ローズマリーそんな大きく振りかぶらない、そんなに力入れない、まな板が壊れちゃう。貴女の力なら軽くやっても細かくできるわ」


「デボラ、まだ混ぜない。というかそれは何? ブランデー? あなたこの国ではまだお酒飲めないの。学校の調理室を使わせてもらってるんだからお酒はだめ」


「ローズマリー、弱火って言ったわよね」


「デボラ、今入れたの何? だから変な香辛料を入れないで」


………

………

………


何とか二人が型に溶けたチョコを流し込み、冷蔵庫で冷やし始めたころにはシンシアは息絶え絶えの様子だった。


「大丈夫かぁ、傷は浅いぞぉ」


 とローズマリーがシンシアに声を掛けると、


「当家秘蔵の秘薬をもってきましたわ。これを飲めば大丈夫ですわよ」


 とデボラも言う。


「大丈夫、まだ生きている、秘薬はもうごめんよ、一年生の時でこりごり」

 

 そう言いながらもシンシアが二人を見る目は暖かい。


「こうやって三人で揃うのは最後かしらね」


 シンシアが言うとローズマリーが答える。


「まだ卒業式もそのあともあるぞ」

「卒業式はいろいろ忙しいですの。私は終わったらおばあ様と食事会がございますし」

「そうかぁ、これで最後って寂しいね。でも卒業しても集まれるよ」

「そうですわね。私も自宅から通える大学ですし。ローズマリーも家から通うのですよね。シンシアは?」


「……そうね」

 ちょっと間をおいてシンシアが寂しそうに答える。


「そういえばシンシアの進学先は?教えてもらってないぞ」

「そうですわ、教えてもらってなかったですわ」

「秘密♡」


 ちょっと可愛らしく言うシンシアだったけどどこか寂しそうだった。

二人は強くは聞きださなかった。


 そのあと、三人で学校の話、部活の話、今の流行りのお菓子の話をしているとタイマーが鳴った。

 

 シンシアが冷蔵庫を開けてトレイを取り出した。

「大丈夫、成功よ、ちゃんとできてる」


「やったぁ!」

「良かったですわ、これから包装してカイル様の所に。待っておいでになられるはずですから生徒会室に……」

 カイルはデボラの年下彼氏。お互いに棘のある応酬をしているので一見仲が悪そうだけどそれは二人の愛情表現。いつもデパートで高級チョコを買って渡していたのだけど、生徒会の後輩から手作りチョコのおすそ分けをもらったらしくて、それで売り言葉に買い言葉、デボラが手作りチョコに挑戦することになったのだ。


「私は家に帰ってからアレックス先生に渡しに行く」


 アレックスは本業の警察の仕事があるから夜にならないと帰らない。ローズマリーは自分の料理の腕をいやというほど妹のリリーとデイジーに思い知らされているので作る気はなかった。のだけどデボラに巻き込まれたのだ。

そして、去年、アレックスの息子のマックスにリリーがあげたチョコを羨ましそうに見ていたアレックスを思い出してしまったので作ることにした。


 片付けが終わるとデボラは調理室を飛び出していった。残された二人はなんとなく去りがたくて残っている。


「そういえば、シンシアのチョコは誰にあげるのだ?」

「えへっ、はい、どうぞ」


 シンシアがチョコを入れた箱のふたを開けてローズマリーの目の前に差し出す。

「えっ、私?」

「そう、ローズマリー。貴女がいなかったら私ここまで頑張れなかったと思うんだ。ねっ、食べて、感想聞かせて」


 そう言われたらいやとは言えない。ローズマリーが箱を受け取りそこから一つ摘まんで口に運ぶ。


「おいしい!、さすがシンシアね。これは良いものをお返ししないとな」


「えへへ、うれしい。私欲しいものがあるんだ」

 そう言いながらシンシアはローズマリーのほっぺたを両手で挟み込んで顔を近づける。


「ローズマリーのキス」

 その言葉を聞いて慌てるローズマリー。

「むむみむむむむむむむむむみむ(わたしたちはおんなどうしだぞ)」

 シンシアは唇が触れそうになるまで顔を近づける。ローズマリーは律義にチョコレートの載った箱をこぼれないように持ったままだ。

 

「ぷぷっ、何その顔。おっかしい」


 そう言うとシンシアはローズマリーから離れて笑い転げた。


「なななななんだ、からかったのか」

「そうよ、いつも王子様なローズマリーが慌てた顔見たかったの。それで十分」


 調理室のカギをかけて職員室でアンソニー先生にお礼を言って、生徒会室で甘いムードのデボラとカイルをちょっとからかって、ローズマリーとシンシアは下校する。


 二人が角で手を振り合って別れた後、ローズマリーはチョコを渡した時の顔を想像しながらうきうきして帰る。

その背中をシンシアはいつまでも見つめていた。



【登場人物】

ローズマリー

 本編のヒロインな女騎士。幼馴染のマックスの父親のアレックスが大好きな脳筋猪娘。

この世界でもアレックス大好きな剣道娘。学校では剣道部部長だった。卒業後は警察官を目指している。


デボラ

 本編ではローズマリーの唯一の同年代の友人。婚約者のカイルとは仲が良いが、カイル<ローズマリー。

この世界ではお嬢様で学校では元生徒会長。現生徒会長のカイルは年下の恋人で二人の応酬は生徒会名物。


シンシア

 本編では次期女王を狙う刺客としてローズマリーに近づいたが、お人好しな彼女に何度も助けられ複雑な気分。最後はローズマリーの腕の中で息絶えた。

 この世界では正論を言っては煙たがれる存在だったけどローズマリーとデボラのお陰で和解。料理の腕は一品で険悪だった調理研究会とお菓子クラブの両方で部長になり仲を取り持つことに。



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