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叙勲と求婚そして結婚

 私が忙しくしている間に末っ子の妹デイジーが出奔した。行先は辺境伯領。マックスを追っていったらしい。のちにどうやって行ったのか聞いたらケロッとした顔で、

「辺境伯領に行く行商人に同行させてもらった。剣の腕を見せたら喜んで連れて行ってくれたよ」

 と言われた。


 母上が連れて帰るために辺境伯領を訪問したがすでに辺境伯夫人に気に入られ娘扱いされていた。辺境伯閣下に頼み込まれて一度帰ってから辺境伯様のところでお世話になることになった。辺境伯閣下のところは息子ばかりでさらに孫も男ばかりだから女の子は可愛いみたいだ。夫人とお嫁さん方にだいぶかわいがられているから心配はないだろう。


 溜まった仕事をしながら叙勲の準備。なにしろ叙勲の為に国王陛下の前に出るので女性としてマナーを覚える必要がある。母上が連れてきたマナー講師にビシビシ鍛えられた。普通の令嬢はそんなことないって言うかもしれないけど剣の稽古の方がずっと楽だよ。


 癒しは団長との稽古の時間。団長は大臣が変ったのでこれまた忙しそうにしている。なので、団長が訓練場に現われたら何が何でも団長に稽古をつけてもらう。これは他の団員も邪魔をしないでくれた。


「いや、団長との稽古を代わってもらえ……んなんでもない」


◆◆◆


 叙勲は緊張した。本当に緊張した。あのときの襲撃の護衛の方が楽だったと思えるくらい大変だった。

少しおかしなところはあったかもしれないけど無事に終わることができた。私と団長の他、王太子殿下(元公女殿下)をお守りした団員は全員叙勲されたが数が多いので代表として団長と私が御前に出てた。


 式典のあと短時間だが王妃陛下と王太子殿下とのお茶に招待された。

「娘を護ってくれてありがとうね」

 王妃陛下からお言葉をいただく。


「ところでお願いがあるのだけど」


 そのお願いとは女性騎士の育成について。今まで女性騎士は平民出身の騎士だけで貴族令嬢はほぼいない。王宮での警護はどうしても男性騎士に頼ることになるけどそれはやっぱり不都合が多い。なので、貴族出身の女性騎士を育成したいそうだ。


「あなたの活躍のおかげで希望者も増えてるの。おかげで今までと違った道が開けてね、貴族令嬢にとって素晴らしいことだと思うの」


 お二人からありがたいお言葉を頂いた。


「さーて、なんで『あの』団長なの?」


 王妃陛下に団長のことを根掘り葉掘り聞かれる。王太子殿下はちょっとわかるわぁって顔をしていた。もしかして懸想している方が騎士なのだろうか? でも、うちの騎士団の団員とはあまり交流はなさそうだったけど、もしかして公爵家の騎士? そっちの話を聞きたいけど……結局私の小さい時からのエピソードを全部白状させられた。


◆◆◆


 夜になり夜会が始まる。エスコートは団長だった。未婚女性は家族がエスコートするのが習わしだけど、いいの?

礼服姿の団長を見るのは初めてではないけれど、こうやってエスコートされるとまた違って見えるね。見上げると微かに顔が赤い気がする。緊張しているのかな? 私は叙勲の時とは別なドレス姿。会場にいるデボラとカイル様がにこっと笑いかけてくれた。


 国王陛下の挨拶で夜会が始まる。まずは、団長を始めとした叙勲された人たちが紹介される。私も紹介された。そして、乾杯の後にダンスが始まる。国王・王妃両陛下がまず中央に立ち踊り始める。続いて叙勲された人たちが踊り始める。もちろん私も団長と一緒に踊る。ちょっと団長の足を踏んじゃったけど、大丈夫だよね。


 踊り終わると、次々と貴族が近寄ってくる。みんな王太子殿下との繋ぎを私達に求めているのだろう。中には私に向かって縁談を持ち込もうとする方もいらしたけど、そばにいてくださった団長が睨みつけるとそそくさと消えて行った。


「やぁ、こうやって見ると一段と綺麗だねマリーゴールド嬢」

 カイル様がデボラを伴って挨拶に来た。

「やあね、マリーはいつでも綺麗よ、ね、カルサイト子爵、あ、伯爵ですね。改めて叙勲と陞爵おめでとうございます」

 デボラがお祝いの言葉をかけてくる。

「ありがとうございます、そういえば、婚礼の日が決まったとか。おめでとうございます」

 そうなのだ。カイル様とデボラの結婚の日程が決まったのだ。二人は本当に幸せそうだ。いいなぁ。羨ましい。


 挨拶やら縁談のお断りやらで疲れた顔を見せていたのだろう。団長が気を利かせてくれバルコニーに連れて行ってくれた。外の空気が美味しい。

団長は何やら言いたげにしていたけど、やがて意を決したように私を見つめた後、おもむろにひざまずいた。


「マリーゴールド、私は君のことを娘のように思っていた。だが、先日気がついた。小さい頃の君じゃないということに。そして君が私に向けてくれる思いも子供の憧れじゃないことも知った。だから……」

 はずかしそうにちょっとうつむいた後、私の目をまっすぐに見つめて言ってくれた。

「どうか私の妻になってほしい」


 えっ、実はこんなすぐに、それも団長から言ってもらえるからなんて思ってもなかったので私は固まってしまった。


「君の父上と母上にはもう話をしている。許可を頂いている。後は君の気持だけだ。どうだろうか」


「……喜んで!」


 ようやく口が動いてくれた。すると立ち上がった団長が私を抱きあげる。えへへ、子供のころ以来だぁ、うれしい!

そのままグルグルと振り回された後、 おろされた私と団長の口が重……


「ちょーっとまったぁ」


 邪魔が入った、声のする方を見ると父上が立っていた。


「いくらアレックスでもそれはまだ許せない。結婚式まで指一本触れるな!」


 そう言う父上を後ろから母上が小突く。


「バカ親! おめでとうマリー」


 えへへ、父上のわがままもうれしい。母上の愛もうれしい。なにより隣に団長、アレックスがいるのがうれしい。


 ◆◆◆


 カイル様とデボラの結婚式は盛大だった。私は婚約者となったアレックスと一緒に出席した。いつもきれいなデボラだったけれど今日は一段と綺麗な気がする。式が終わり、ブーケを持ってみんなに挨拶をする二人。私とアレックスの前に来ると、

「次はあなたたちね」

 そういってブーケを私に手渡した。

「ありがとう、本当にきれい。デボラ様幸せになってね。カイル様、デボラ様を泣かせたら許しませんよ」

「ああ、一生大切にするよ」

 しっかりと力強くカイル様。それを見ていたアレックスもうんうんと頷いていた。


 騎士団に女性小隊が発足して私が小隊長を承って、結婚式の準備と小隊の世話とそれからそれから、忙しくて目が回る。それでも時間は過ぎていく。アレックスとはなかなかデートできないけれど、前だと考えられなかった街での買い物とかカフェでのおしゃべりとか楽しい時間も過ごせた。考えてみたらマックスとはそういう時間もなかったなぁ。そういう時間があったら違っていたのだろうか。


 あの襲撃から一年ようやく待ちに待った結婚式だ。私が騎士服でアレックスがドレスという案は全員一致で否決された。私のドレスはマダムアンソニーがとにかく一世一代のドレスを作ると意気込んで作ってくれた。彼は紳士向けのドレス以外に普通のドレスが似合わない女性向けのドレスショップが立ち上げていてかなり繁盛している。忙しいはずなのに私のドレスにかかりきりで大丈夫なのだろうか。


「マリー様には感謝しているんですよ。だってイロモノと蔑まれていた私のお店がここまで大きくなったのはマリー様のおかげですから」

 

 だから、命削ってもきれいに仕上げるわなどと言わず体は大切にして欲しい。今、ミスターアンソニー、奥様は身重だ。生まれてくる子供のためにも気を付けて欲しい。

 

 結婚式当日はよく晴れたいい日だった。

 カイル様もデボラ様と一緒に来てくれた。デイジーとマックスはまだ王都に来ることが許されていないので来ることはできない。すぐ下の妹のリリーは漸く婚約者が決まりそうだが今日は一人で参加。あれ?あそこにいるのは……まさか……いや、王太子殿下がいるわけないよね? いたよ!!

 まぁ、団員もいっぱいいるから大丈夫か。


 隣に立つアレックスはいつにましてかっこいい。いつもの着崩した騎士服でなくきっちり着た礼服も似合う。少し緊張した表情もちょっとかわいい。

 私の方を見ないのは照れるかららしい。神官様のお言葉を聞きながらチラチラを見あげると額に汗がびっしょり。稽古の時だってこんなに汗ばむことないのに。


「誓いのキスを」


 そう言われてようやく私の方を見てくれた。顔があかい。初めてのキスはちょっと汗の味もした気がする。今までの我慢を取り戻すため長い長いキスをした。離れたとき耳元でアレックスがささやく。

「男を煽るなんて悪い子だ。」

 やりすぎたかな?

 

 ブーケはリリーの勧めもあってみんなにおすそ分けすることにした。階段の上から青空に向けて投げたブーケは青空の中でばらけ白い花が一瞬シンシアの顔に見えた気がする。あなたのことは忘れないからね。もう少し待ってて。


 横を見るとアレックスがいる。私は彼を見あげて微笑んだあと私を抱き上げた。

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