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どうしてこう婚約破棄をこんな大勢の前で宣言するのでしょうか?

 目の前の茶番を見ながら私ジンジャー男爵家の長女マリーゴールドは溜息をついた。


 王太子殿下と婚約者様の婚約破棄騒動から始まった糾弾合戦。殿下の横には不安そうにしている可憐な少女。彼女がこの騒ぎの発端となったナルキッソス男爵家の養女メッサリナ。その可憐な容姿に騙される男性は多くその一人が王太子殿下。そして後ろには殿下の御友人たち。皆で揃って殿下の婚約者様を糾弾しようとしているが、殿下側の放つひょろひょろの言葉の矢は婚約者様にばさばさと切り落とされていく。


まぁ、婚約者様の圧勝でしょうね。


 問題なのは王子殿下側に私の婚約者のカルサイト子爵家長男のマックスもいること。年下の甘っちょろい奴だとは思っていたけれどあんな毒婦にころりと堕とされるなんて。鍛え方が足りなかったかな。


「もうよい、そこまでだ。双方退場せよ。せっかくの祝いの席が台無しだ」


 ようやく陛下が止めに入った。さてはあんた面白がっていたでしょ。隣には渋い顔をしている宰相と騎士団長。団長ったら渋い顔も素敵。いかんいかん、婚約者のことを考えねば。


◆◆◆


 結局その日は解散となり、時間が余った私は騎士団演習場に来て一人で剣を振っている。

私の雰囲気に恐れをなした団員たちは近寄ってこない。あぁ、王国一とうたわれる騎士団団員なんだからもっとシャキッとしろ、なさけない。そういえば、マックスも形だけは勇ましかったけれどどうも性根がやわだったな。


「お前、なんでここにいる!」


 後ろから声を掛けられた。振り返ると団長がいた。私より頭二つ大きい背丈。他の団員の追従を許さない筋肉、短く刈り上げた髪。強面だけど笑うと可愛い顔。今日も目の保養をありがとうございます。


「暇になったので!」

「今日ぐらい休んだらどうだ」

「自分はこうやって剣を振るのが休みであります」

「はぁ……」

 

 大きなため息が聞こえた。


 「よし、俺も少しむしゃくしゃしてる、みんなに稽古をつけてやろう」


 周りの団員が声にならない悲鳴をあげている気配がする。ご愁傷様。私にはご褒美だけど。


 くたくたになり剣を持ち上げるのがやっとの頃、ようやく稽古が終わった。水を飲み、更に頭から水を被る。服がびしょびしょで体にべったりくっついてるから着替えないとな。年かさの当番メイドから手ぬぐいを受け取り顔や髪を拭いていると団長が近寄ってきた。


「今後のことで話がある。団長室に来い。あぁ、着替えてから来いよ、そんな恰好じゃ風邪をひく」


  団長の顔がこころなし赤い気がする。団長の方こそ熱があるんじゃないですか? まぁ今日、あんなことあったからなぁ、体調も悪くなるでしょう。


「団長、入ります」

「来たか、まぁ、そこに座れ。茶で良いか?」

「ありがとうございます。お茶を頂きます」

「……」

 当番の騎士がお茶を入れてくれ退室する。その間、団長は黙ったままだった。

 …………


 先に口を開いたのは団長だった。

「愚息がすまん」


 頭を下げながら詫びてくる。


「愚息との婚約は解消とさせてく……」

「わかりました、受け入れます」


 被せるように言うと頭をあげた団長が不思議そうに見る。なので理由を説明した。


「マックスも、自分も、二人は姉弟でしかなかったのですよ。だからこれで正解だと思います」

 マックスの母親、つまり騎士団長の奥様はマックスが生まれた時に亡くなっている。そのため団長の先輩で奥様とも仲のよかったお母さまが幼い頃のマックスを育てた。騎士団に入るまでは私とマックスは姉弟のように育てられたのだ。


「ところで彼の処分は?」

「あっ、ああ、辺境伯閣下が偉く張り切ってな、あ奴を鍛えなおしてみたいと言い出して、辺境伯領に連れて行くそうだ」


 あの爺さん、加減を知らなそうだからなぁ。まぁ、甘っちょろいマックスの性根も叩き直されるだろう。うちの妹たちはマックスを兄のように慕っていたから悲しむだろうけど。

 それにしても、さすがに団長も息子のやらかしがつらそうだ。


「お前にお父さまと呼ばれたかったのだがな」

「絶対に嫌です」

「そんな……、そんなにいやか?」

「私のお父さまはお父さま一人です。団長のように強くはないですが、それでもやっぱりあの人は私の大切なお父さまです」

 とりあえず建前を言っておく。

「そうか……、ところで、息子のやらかしの詫びとはいってはなんだが、なにかして欲しいことはあるか? なんでも聞くぞ」


 キタぁぁぁっ~!


「それでは、団長の妻にしてください」


 …………


「まてまてまて、お前と俺だとほぼ父娘の年の差だぞ。しかも元婚約者の父親、それはまずいだろう」

「何がまずいのですか? お互いに独身で婚約者もいない。血縁関係にあるわけでもない。身分の差も大丈夫。だめな理由はないでしょう」


 ここは押しまくらないと。


「だからと言って……」

「さきほど、何でもするとおっしゃいましたよね。それに息子のやらかしは親が責任をとるとも。でしたら、この年で婚約破棄され良い嫁ぎ先も見込めない私を妻に迎えるのが道理、違いますか?」

「………勘弁してくれ、先輩に殺される」


 先輩とはうちのお母さまのこと。お母さまは王国始まって以来初めて貴族令嬢から騎士になった人。しかも団長がおびえるくらいなので相当強かったらしい。


「大丈夫ですよ、母なら私が説得します。なんなら、今から一緒に行って……」

「やっ、まてまて、まだ準備もできていない、3日、3日待ってくれ」


 団長、もうすでに行くことが既定路線になってること気がついてませんね。さて、どうやってお母さまを説得しようか。まぁなるようになるでしょ。


◆◆◆


 数日後我が家では家族全員揃って団長を迎えていた。


「却下!」


 お母さまが一言で終わらせようとする。それを聞いてほっとした表情の団長。


「なんで? 互いに独身だし婚約者はいないし……」

「はぁ……ここまで頭弱い娘だとは思わなかった。ただでさえマックスのやらかしでアレックスはいろいろ言われる立場なの。そこに息子の元婚約者と結婚なんかしてみなさい、寄ってたかってアレックスを団長から引きずり降ろそうとするわ」


 そう言われると確かにそうだ。ぐうの音も出ない。これは既成事実を作って……


「だから1年待ちなさい」


 私はあんぐり口を開けしばらく固まる。しばらくして我に返ってお母さまに抱き着いた。


「まだはやい。一年あなた方の様子を見せてもらうわ。それで判断する。あなたがアレックスの妻にふさわしいと思ったら許す。そうじゃなかったら私とお父様が選んだ相手と結婚してもらうわ」


 それでもいい。私が振り返ると、お父さまに肩を抱かれて何かあきらめたような団長がいた。


「そうそう、き せ い じ じ つ をつくろうなんて考えたら、アレックスのあれを切り取るからね。そんなこと考えないわよね、マリーゴールド」


 ちっ、お見通しか。とにかく第一関門は突破できたかな。ところで、団長の妻として認めてもらうにはどうすればいいのだろう? 私は小さい頃から騎士になることしか考えてこなかった。今更普通の令嬢と同じことなどできない。まぁ、何とかなるでしょ。


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