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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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中間登校合宿ー成宮そら(5)

 弓崎なお。彼女とはこれまで関わったことはなかったが、彼女の目立ち具合はヘッドホンを付けていたときから視界に入っていた。時々ヘッドホンを貫通してくる甲高い笑い声や、集団を引き連れて教室を出ていく後ろ姿が印象的だった。休み時間になると廊下に出てほかのクラスの仲の良い生徒と話し、チャイムが鳴り終わった後に急いで教室に入ってきて先生に怒られる。そんな光景を何度も見てきた。

 そらは実際のところ、彼女がどんな風であろうと、自分のことをからかったり、ちらちらと視線を向けて嘲笑するかのように誰かと声を潜めて話したりすることはなかったので、あまり気に留めていなかった。体育祭が終わり、ヘッドホンを外し、クラスの何人かと話すようになってからも、今までと変わらずに特に関わってこなかった。席がこれまで一度も近くなったことがなかったのも原因であろう。


 いや、なんだそれ。うみちゃんに似てるって、、、。

 そらはステージ上でサッカー部がお笑いのネタを完全再現して、体育館を爆笑の渦に包みこんでいるのをぼーっと見ながら、自分の思考回路に少し憤りを感じていた。

 何かあるとすぐうみちゃん、うみちゃんって。結局、私ぜんぜん気持ち切り替えられてないじゃん。

 自然とため息が漏れだす。

「そら?」

 隣からるるの少し心配そうな声が聞こえてはっとした。

「あ、なに?るる」

「つまらん?それとも空気感きつい?」

「え?あ、ううん。ちょっと考えごと」

「ふーん??」

「ほ、本当だよ」

 るるは疑いの目を向けてきたが、そらは押し通した。

「考えごとって、キャンプファイヤー?」

 るるが放った一言に、そらは一瞬反応した。確かにそれは一瞬悩みの種になっていたが、明日が雨だとミサンガの世界で知ってから、その悩みはなくなっていた。

「お、図星?」

「ううん、ハズれ」

「うーん、ムズい」

「別に当ててほしいわけじゃないんだけどね」

 そらは真剣に考え始めたるるをみて、ふふっと笑った。

「あ、女バス来た」

 るるは司会のアナウンスにはっとすると、考え事をしていた顔をステージに向け直した。そらはるるの様子と女バスの先頭で出てくるひばりの姿を見て、女バスのステージに集中するため、一度なおのことを胸の中に閉じ込めるのだった。

 一度考えるのをやめて部活の引退式に意識を向けてみれば、時間が過ぎるのは一瞬だった。各部活が5分以内に次々と出し物を行っていく。特出していたのは、やはりパフォーマンスを主にしているダンス部、吹奏楽部、そして軽音部だった。ダンス部は新部長の葉山ももを先頭に入場してきて、重低音の響く韓流アイドルのようなポップなダンスで会場を大いに盛り上げた。踊っているのは女子ばかりだったが、あちこちから女子生徒からの踊っている生徒の名前を呼ぶ声や、ステージを煽る声が飛び交っていた。吹奏楽部は、今年話題の曲や有名な曲を会場を巻き込んで演奏していた。軽音楽部では、新部長のバンドが入場してきた。バンドは5人おり、そのうち2人はそらも知っている生徒だった。

「あ、にいなとかほだ。あの2人一緒のバンドなんだ」

 るるはステージを指さしながら言った。

 榎田(えのきだ)にいなはドラム、永野(ながの)かほはギターで、こちらも誰でも知っている曲を2曲立て続けに披露した。会場は大盛り上がりを見せ、騒音で近所から苦情は来ないのかと思うほどである。そして毎年恒例だという、3年生のぶっちゃけ本音大会が始まる。事前に匿名で書かれた本音や隠し事などを紙に書いて箱の中に投函する。それを3年の学年主任が持ち、中の紙を取り出して読み、一部の生徒から悲鳴にも近い歓声が起こったり、3年生の間で有名な学校での事件の犯人や真相が書かれていて大爆笑をかっさらったりしていた。フィナーレは3年生の各クラスの担任からの一言と、先生方のパフォーマンス。今年は軽音楽部と被っているが、バンドを組んで会場を大いに盛り上げた。3年生からは笑い声と先生の名前を呼ぶ声が飛び交っていた。


「いやー、逆に目ぇ覚めたね」

「ね。すごかった」

 部活動引退式か終わると、おなじみの写真撮影会が開かれ、部活をしている生徒や、そうでなくても仲の良い3年生がいる生徒はまだまだ熱気冷めぬ体育館に残っていた。

 そらとるるは特に3年生と関わってこなかったので、足早に体育館を後にしたのだった。


 そらたちが部屋へ戻ろうと廊下を進んでいると、反対側から数人の男子生徒が歩いてくるのが見えた。真ん中を歩く生徒はどこにいても目立つ赤い色の髪をしている。

「げ、、、」

 るるは彼らが誰だか分かった瞬間に苦い顔になってそらの後ろに隠れるように移動した。

「お、成宮」

谷崎(たにざき)、、、」

 そらの眼の前にいる谷崎勝吾(しょうご)は、学校を出て坂を下ったところにあるコンビニまでいかなければ手に入れることはできないアイスを頬張っていた。

「いつ学校から出たの?」

「ふつーに引退式の途中。校門のとこにだれも見張りいなかったからマジで堂々と出てった」

「ふーん」

「お、ほしい?」

「いらない」

「あっそ。じゃ」

「うん。じゃ」

 勝吾はそらに軽く手を振ると、ちらっと一瞬そらの後ろにいたるるに目を向け、他の男子たちを連れて通路を曲がっていった。

「そら、ずっと思ってたんだけど、谷崎と仲良いの?」

 るるは勝吾が通路の向こうに消えた瞬間、そらに顔を向けて聞いた。

「クラス一緒だったとか?」

「ううん、一回もなったことないよ。なんか色々あって喋るようになっただけ」

「へー」

 るるは怪訝そうな顔で勝吾が曲がった角のあたりにもう一度視線を向けた。

「るる?谷崎がどうかしたの?」

「別に、、」

 るるは首を振ると、行こう、と言ってそらの腕をつかんで部屋まで戻る廊下をまた進み始めた。


「あ、おつかれ~」

「野球部相変わらず面白かった~」

「てか最後の先生たちのマジ笑い死ぬかと思った。あれ反則でしょ」

「先輩のぶっちゃけ大会で暴露されてた修学旅行の話、あれウチの部の先輩のことでさー、、、」

 部屋に戻ってしばらくすると、余韻を大いに楽しんだクライメイトが続々と帰ってきた。おそらく明日の午前中までは、引退式の話でもちきりになるだろう。

「あ、帰ってきた」

 そんな中でも一番最後に戻ってきたのは、やり切った顔をしたひばりだった。

「先輩からすべて託されてきた」

 そういうひばりの目元は、うっすらと赤くなっていた。

「部活マジで頑張るから。見てて」

「うん。応援してる」

 興奮が冷め始めたころ、皆一気に疲れがどっと来たのだろう、漫画のような消灯時間後の恋バナもなく、次々に死んだように眠り始めた。

 そらはほかの生徒たちの寝息を聞きながら天井を見上げていた。引退式では入ってくる情報が多く、悩みを閉じ込めて忘れることは簡単だったが、こうして一人でぼーっとしていると自然と悩みが蓋の隙間から溢れてきて、頭の中をじわりじわりと侵食していく。

 きっと明日のキャンプファイヤーがなくても、関君は結局うみちゃんにアプローチするんだろうな。

 雄大はどのようにうみにアプローチをするつもりなのか、そもそもうみはそれをどう受け取るのだろうか、そしてもしうみが受け入れた場合、それをみた結花はどんなアクションを起こしてしまうのか。気になることばかりである。


『んーん。ぜーんぜん』


 ふと、うみの言葉が蘇ってきた。そらがミサンガの世界で恋愛をしたいのか聞いた際に、うみから返ってきた返事だ。そしてミサンガの世界に入って会った瞬間、うみが開口一番に告白をされたことを報告してきたことも思い出した。

 でもそれはあんまり関わってこなかったからであって、関君とは仲良いみたいだったし、もし野田君の時みたいな対応にはならなかったら、、、。

 そらは勝手に色々と考えこみ、また悶々とするのだった。

 前も思ったけど、結局うみちゃんのこと考えちゃってるな。あんだけ自分に言い聞かせてたのに。なんか情けない。

 そらは自分を俯瞰して自嘲すると、一息吐いた。他人の予測できない行動を色々と考えてしまうと自分の中で解決できずに不燃して残ってしまうが、それを自分のせいにすることで色々な可能性を追う必要がなくなり、頭の中をめぐっていた悩みがすっと消えていく感覚があった。

 そっか、、。私が変われば、、、。

 自分の中で解決したと思った瞬間、一気に眠気に襲われた。一瞬だけ、明日のことを考えた。

 まぁ、明日はキャンプファイヤーも雨でなくなるし、ちょっと早く帰れそうだなー、、。

 ミサンガの世界で見たとおり、明日は朝から雨だった。おそらく午後のキャンプファイヤーも中止になるだろう。そうするとキャンプファイヤー実施分の時間が削られて、自然と早く家に帰れると思ったのだ。


 ただ次の日は、そらが思ったようにはいかなかった。

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