中間登校合宿ー成宮そら(3)
「そういえば、みんな明日のキャンプファイヤー参加する?帰る?」
そらがるるとひばりと共に、校舎から出たところにある自動販売機で飲み物を買い、そらがいない間にやっていたクラスレクと学年レクで何をしていたのかを聞いたりしながら会場に戻っている最中、ひばりが思い出したようにそらとるるに聞いた。
「あれ、帰っていいんだ、、」
そらが呟く。
「あー、、。どーしよっかなー」
るるは考えながら視線を空に向けた。
「わ、星きれー」
「え?わ、ほんとだ」
るるとひばりが話そっちのけで空を見上げ始めたので、そらも見てみた。漆黒の夜空いっぱいに星が散らばっており、思わず声が出る。小学生の頃に一度だけ星座観測の授業があったので、有名な星座はなんとなく分かる。
「あれ?どれが夏の大三角だっけ?あれと、あれだっけ?もう一個は?」
「忘れた〜。あ、でもあれだった気がする」
るるとひばりは夏の大三角を探していたが、そらは星座から地面に目を戻した。校舎の中に戻ると、路地の街頭の光が届かなくなり、所々についている電気がぼんやりと道を照らす。
そらは星座を指さしている2人のやり取りを見ながら、一度頭の中を整理しようと考え始めた。
まず関くんがうみちゃんのことが好きで、私に協力はしなくていいよって言ってた。次に、浦田さんが関くんはそう言っていたけどきっと協力してって頼んで来るから、それをしないで、逆に邪魔してって言ってた。
そらはジュースの缶のフチを指でなぞりながら思考を続ける。
そういえば肝試しの時、、、。
そらは肝試しの最中、結花から雄大のことをどう思っているのか、極端に言えば恋愛的に好きなのかどうか、探りを入れられたことを思い出した。そしてそらはその瞬間、ある結論へたどり着く。
浦田さんは、関くんのことが好きなのかな、、。
「そら」
そう思ったところで、るるがそらに声をかけた。そらがるるの方を見ると、彼女はどこか指をさしている。そらはそちらを見た。
薄暗くよく分からなかったが、一組の男女が2学年レクの会場の方向から歩いてくるのが見える。そら達に気づかずに角を曲がって視界から消えた。
「あれもしかして、そういうこと?」
「ど、どういうこと?」
るるが少しわくわくしたように話すので、そらは何が言いたいのか分からずに聞いた。
「まぁまぁ見てなって」
るるはにやにやしながら手招きした。
「もー、、。あたし戻るからね」
ひばりはるるが言いたいことが分かっているのか、ため息をついて会場に戻ろうとした。
「えー」
るるは残念そうにひばりを見送ったが、そらの手首をがっしりとつかんでいる。
「ちょ、るる?えっと、、」
「逃がさないよ、そら。ほら行こ行こ」
そらはるるにぐいぐい引っ張られて一組の男女が向かった方向へと進んでいった。ひばりはその様子を呆れたように見届け、レク会場へと戻っていった。
男女は会場から出て左側の通路の角に消えていったようで、角の先からかすかに声が聞こえた。るるとそらは角のギリギリまで近づき、耳を澄ます。
「好きです。付き合ってください」
そらたちのすぐ向こうで行われているのが告白だと分かり、るると顔を見合わせていると、告白されている人の名前も分かった。
「立花さん」
え、、。うみちゃん、、?
るるは若干引きつったような顔をして驚いている。そらも、自分がるると同じ表情をしていることを悟った。そしてうみの返事の言葉を待った。
「えっと、好きになってくれてありがとう。でも、えっと、ごめんなさい。友達としてしか見てなくって、、」
「そっか、、。うん、わかった。ちゃんとオレの告白聞いてくれてありがとう」
そらはうみの返事を聞いて、少しほっとした。そしてまた自分の心の中で、彼女は友達だと強く言い聞かせる羽目になった。
「じゃ、えっと、、、。戻ろっか」
一息つく暇もなくそう男子の声が聞こえたので、そらとるるは急いでその場から離れ、声を抑えながら一緒にレク会場の中に駆け込んだ。
会場ではすでにレクは終わり、表彰式が行われていた。そらとるるは息を整えながら入り口付近から離れ、入り口を観察した。1分くらい経ってからうみが会場内に戻ってきたが、告白した男子の方はその後も戻ってこなかった。
うみは悲しそうな、しかし今にも笑いだしそうな、今まで見たことがない複雑な表情を浮かべて入り口付近の壁に寄りかかった。
そらはそれを見て、彼女は今どんな感情なのだろうと、推し測ることすらできなかった。
そらが告白現場に居合わせた1時間後、うみはそらの隣にいた。
部屋に戻り、各々就寝の準備をしていた際、急に他の子の喋り声が聞こえなくなり、そらはミサンガの世界に入ったことに気が付いた。そしてそのすぐあと、案の定うみから電話がかかってくるのであった。
そらはうみが自分の部屋に来るまで、彼女の複雑な表情を思い出し、先ほどの告白の件はきっと黙っていた方がいいだろうという考えに至ったが、うみの最初の一言で台無しになった。
「ねぇー!うち今日告られた!」
うみはそらの部屋に来るなり、すぐにその話をし始めた。
「学年レクの会場の裏手まで連れてかれてねー、、」
「うん」
聞けば、告白してきたのは同じクラスの男子だという。
「えっとね、野木くん。野木栄太郎くん」
「あ、野木くん」
「そらちゃん知ってる?」
「うん。去年同じクラスだった」
軽音部か何かに入っていたような、なかったような、ぼんやりとした記憶しかない。あまり関わる機会がなかったので、顔もそこまでぱっと出てこない。
「でもね、断っちゃった」
「え、そうなんだ」
そらはその告白の一部始終に聞き耳を立てていたので結末は知っていたが、初耳のように反応した。
「うん」
うみはそらの隣に敷かれた布団にダイブした。ぼふっと空気が抜けるような音がして、隣の布団の上に座るそらの顔にまで風が来る。
「だってさそらちゃん。友達だと思ってた人に、急に好きだった!なんて言われてみてよ」
うみの容赦ない言葉が、そらの心を突き刺してくる。
「反応に困るよねー。っていうか、次の日どんな顔してあったらいいか分かんなくなるよね」
「う、うん。そうだね、、」
そらは何とか言葉を発しながら、胸の中で夏休み中にカフェ巡りをしたときに自己完結して思いとどまっていて本当に良かったと、心の底から思った。
「ね、そらちゃんもお布団入って!」
うみに促されるまま、そらは布団に入る。横を見るとうみと目が合った。
「いーよねこういうの。なんかそわそわする」
へへっと笑ううみにつられて、そらも思わずふふっと笑った。
「なんか新鮮だよね」
「ねー!」
これ以上目を合わせているとどうにかなりそうだったので、そらはうみから視線を外して天井を見た。うっすらと天井の模様が見える。
「ね、そらちゃん」
「ん?」
そらは目だけでうみをちらっと見た。うみもいつの間にか天井に顔を向けていた。目は開いている。
「そらちゃんは誰かに告白とかしたことある?」
うみの言葉に、一瞬だけあの日のことを思い出した。
「、、、ない、、」
「わ、何その間!あやしーね~!」
「ほんとにないって、、!」
そらは必死になって否定する。
「ふーん。まぁいいや」
いいんだ、、。
そうそらが思った瞬間、うみは次の質問をしてきた。
「じゃーあー、誰か好きになったことはある?」
そらは瞬間的に変な汗が出てくるのを感じた。
「うーーん、、、」
「考えるねぇ」
素直に言うべきか、言うとしたら誰まで言うべきか、そもそもはぐらかすか、必死にそらが頭を回転させている中、楽しそうなうみの声が隣から聞こえてくる。
よし、、!
そらは真実を言いつつも、若干濁した言い方を見つけた。
「あると思ったんだけど、友達的な好きなのか恋愛的な好きなのか、、」
最後の方を濁したが、うみはそらがしっかり答えてくれたのが意外だったのか、
「おぉー!」
と謎の反応をした。
「なんかいいね、そういう悩み」
「そう、、?」
「うん!真剣に考えてるんだって感じするもん」
「なるほど、、」
その考え方はなかった。確かに真剣に考えてはいた。それも体調を崩すくらいには。
「、、う、うみちゃんは?」
そらはこれ以上深堀りされるのを危険に思い、今度はうみに聞いた。
「え?うちかー。うちねー」
うみはんー、、。としばらく考えてからへへっと笑った。
「うち無いや」
「そう、、なんだ?」
そらは意外に思った。
「うーん、何かねー。先に仲良くなっちゃって、異性としてちゃんと見れないっていうか、友達としてしか見れないんだよね」
「友達として、、」
そらはうみの言葉を繰り返した。
「そう。だから友達だったのに急に恋愛に発展するとか、一目ぼれで誰かを好きになるとか、ああいう少女漫画みたいな展開はうちにはきっと起きないことなんだろうなって思って。ある程度その人のこと知らないと好きになれないもん。うちだったら」
「なるほど、、」
「でも、ある程度その人のこと知ったら、もう友達だから恋愛に発展しないんだよね」
そらは再び目だけでうみを見た。天井を見つめる彼女の目が、少し細くなっている気がした。
「うみちゃんは、、」
そらはそこで言葉を切った。これは果たして、聞いてもいいのだろうか。それは彼女に対して思うのではなく、自分に対して思うものだった。
「ん?なに?」
うみも目線だけこちらを見た。目が合う。そらは目を離せず、一度は喉の奥にしまい込んだはずの言葉が口から自然と出てくる。
「恋愛したいの?」
うみはまた、うーん、としばらく考えてから答える。そらはそれを聞いて、結局自分の心が重くなった。だから聞いても良かったのか、自問したのだ。
「んーん。ぜーんぜん」
そらとうみはその後も今日あったことや、明日のことについて話した。途中からうみの返事があいまいになってきたのに気が付いたとき、彼女はもう寝ていた。
「おやすみ。うみちゃん」
返事の代わりにすーすーと寝息を立てるうみを見て、思わずふふっと笑ったそらは、そのまま目を閉じた。ミサンガの世界だからなのか、現実世界よりもずっとひっそりとした世界に感じた。しかし隣から聞こえる寝息を聞いているとなんだか安心して、寂しさも不安も感じない。
「明日、キャンプファイヤーか、、」
キャンプファイヤーに参加しようか否かを考えていると、瞼が自然に閉じてくる。意識がだんだんと遠のいていくのを感じた。
「そーらちゃん!!」
意識が戻った時、すでに隣で寝ていたはずのうみが起きていた。そらのことをゆすって起こそうとしていたのか、彼女の手がそらの肩に置かれていた。
「あ、、。寝ちゃってた、、」
そらはぼんやりする頭をフル回転させて、自分がまだミサンガの世界にいることを思い出した。そして起き上がってスマホを見る。
「10時過ぎてる、、」
一体どれだけ寝てしまったのだろう。そらは一気に目がさえてきた。
「うちもしっかり寝ちゃってたよー!」
寝起きだというのに、うみの声の張りはいつもと変わっていない。
「あーあ。ちょっと横になった後に深夜の学校徘徊しようと思ってたのに。気付いたらめっちゃ朝だったー!やっちゃったー!」
「ふふっ」
そらは悔しがるうみをみて笑った。
「笑い事じゃないよそらちゃん!外見て外ー!」
うみはあり得ないという風に首を振って、外を指さした。そらは振り返って、窓の外を見た。
ミサンガの世界で発生する天然の事象は、現実世界でも必ずその時に起こる。これは今までのそらの経験から判明していることだ。つまり今目の前にあることも、現実世界の今のこの時間には起こることだということだ。
「めーっちゃ雨降ってるんだよー!これじゃキャンプファイヤーできないじゃん!!」




