中間登校合宿ー成宮そら(2)
生徒指導の神田からの話が終わり2年3組女子用の教室へ戻ったそらは、スマホに通知が来ていることに気が付いた。
『どこいるの?』
と、ひばりから。
『終わったら連絡して』
と、るるから。
『そらちゃん大丈夫?』
と、うみから。
そらはそれをみて胸がジーンとなった。視聴覚室まで行く道は孤独で、神田から話を受けている時も自分たちは悪くないのになぜか責められているように感じていた。だから視聴覚室を出て、雄大が普通に話し始めた時の安心感は言葉にできないほどだった。
はやく皆に会いたい、、。
そらは急いで準備を済ませて教室を出た。そしてそれと同時に、自分が今持っていた思いに気付く。日中にいつものように話していた友達の顔を思い出す。
私、いつからこんな風に思えるようになったんだろ、、、。
そらは自分の感情に改めて驚きながら、レクの会場へと急いだ。
「お!」
会場まで行く通路を曲がろうとした時、ちょうど雄大がいた。
「成宮さん、さっきはマジでありがとね」
「う、ううん。関くんが撮ってた写真のお陰だよ」
「あれマジで心霊写真だと思ってたからね!消さなくてよかった~」
雄大の大きな声で、静かだった廊下が一気に騒がしくなった気がした。そらは雄大と話しながら通路を進もうとしたが、雄大は歩こうとしない。
「あのさ、明日の夜キャンプファイヤーあるじゃん?」
「え?あ、うん。あるね」
「あれのジンクス知ってる?」
「ジンクス、、?」
そらは聞いたことがなく、雄大の言葉を繰り返した。
「そう!キャンプファイヤーで告って付き合ったら絶対3ヶ月以内に別れるんだって」
「そんなのあるんだ」
そらは思わずふっと笑った。
「そういうのって普通、両想いになれるとかなのに逆なんだ」
「それな!意味分からんもん」
雄大もつられて笑った。
「いやー成宮さん話しやすいわ。何かちゃんと話聞いてくれてるって感じする」
「そ、そうかな」
雄大が急に褒めるので、そらは驚いて反応に困った。
「そうだよ!相談乗るの上手そう」
「初めて言われたかも」
「えーガチで?」
そうだよ、と言いながら、そらは歩こうとした。が、雄大はその場からまだ動かない。そらは振り返って雄大の方を見た。
「うわ~、、。どうしよ。言っちゃうかー、、」
雄大は難しい顔をして唸りながら考え事をし始めた。
そらは思わず声をかける。
「えと、、。関くん?」
「よし!言う!聞いて!成宮さん!」
「あ、は、はい、、!」
雄大の大きい声の勢いに押されて返事をした。雄大と目が合う。
「俺、好きなんだ!」
「え、、?」
「立花さんのこと!」
一瞬フリーズしたそらを置いて行って、雄大はカミングアウトをした。
「うみちゃん、、。え、、?」
ようやく理解が追いついたそらだったが、雄大がうみに好意を寄せているという事実に今度は混乱してしまった。
「えっと、成宮さん?おーい、、」
「あ、えっと、ごめん。理解が追いついてなくって、、」
雄大が声をかけて我に返る。
「あーこれあれね!協力してとかそーいうんじゃないから!」
「あ、え?」
「何か勢いで言っちゃった!そんだけ!」
そらの頭はどんどん混乱していく一方、雄大の勢いは止まらない。
「やっべぇ!なんかめっちゃ恥ずくなってきた!先行くわ!じゃ!」
雄大はそう言うと、走って通路の奥に消えていった。そらはその姿をただただ見ていることしかできなかった。
そ、そうだったんだ。全然気が付かなかった、、、。
そらはさっきの雄大の言葉と表情を思い出す。自分の気持ちを本人ではないにしろ、はっきりと言えるその態度に感心した。
でも、、うみちゃんか、、。
うみはもともと女優として活躍していた身だ。顔立ちが整っているのは勿論、現実世界で見せている性格も良く、男子からすると好きにならない要素はないと思うほどだ。だからこそ、彼女へ純粋に好意を寄せている男子が本当にいたことに驚いた。
でもこのタイミングで、、。
そらはついこの間、うみに対する感情を自分に言い聞かせていたのだ。そのタイミングでこの話をされたことで、そらの感情はまたぐちゃぐちゃになり始めていた。
「ちょっと」
そしてもう一つ、そらの感情を乱す要素が現れる。
「あ、浦田さん、、」
そらは肝試しが終わった後、結花が桃たちと仲良く話しているのを見つけてしまった。そらはその瞬間、結花がそちら側の人間だったことを悟る。なぜ出発前の公園で知ることができなっかったのか、もうどうにもできないことを悔やんだのだ。
そして今日になって、先ほどの集まりがあったのだ。視聴覚室では音もなく入ってきていたのでついつい声を出してしまったが、向こうから特に話しかけてくることはなく終わったので胸をなでおろしていた。そして神田からの話が終わった後、結花がタイミングよくトイレに行ってくれたのでその間に急いで教室へと戻ったのだ。
「ごめん、今の話聞いちゃった」
口調と表情は明らかに肝試しの時とは違う。なんとなく壁を感じる。おそらくもう結花はそらのことを「妖精」だと認識して接しているのだろう。
「あ、いや、、」
そらは言葉に詰まる。色々なことが頭を駆け巡った。うみと関係があると結花にバレただとか、おそらく秘密だったであろう雄大がうみを好きだということが聞かれたことだとか、そもそも「妖精」のくせに肝試しに来たことだとか、そういう憶測の域を越えないことをぐるぐると考えてしまっている。その中で結花は話を続ける。
「あいつ、協力しなくていいって言ってたけどそんなの無理な気がするから、ちょっと言っとくね」
「えっと、、」
そらは結花をちらっと見た。結花はしっかりとそらの顔を見ている。
「ゆーだいに協力しないでほしい。なんなら邪魔してほしい」
結花の言葉に、そらは何も言えなかった。
「まぁこんなこと言ったけどクラス違うし、変に加担しないようにしてくれればいいから」
結花はそう言うと、その場で固まっているそらを避けて通路を進んでいった。そらはその場に立ち尽くし、結局結花には何も言うことはできなかった。
私は、、。
そらは結花の歩いて行った方を見た。暗闇が目の前に迫ってくるように見える。
『俺、好きなんだ!立花さんのこと!』
『ゆーだいに協力しないでほしい。なんなら邪魔してほしい』
2人の言葉が頭の中に残って響いている。結花の言う通り、雄大は協力しなくて良いと言っていたが、そうはいかないだろう。しかし結花から言われたことを守らずに雄大の恋愛に加担した場合、おそらく結花の後ろにいる人間たちが制裁をしてくるだろう。考えただけでも嫌になる。
私は、、、。
そらは自分の気持ちを整理しようと通路の窓を開けて深呼吸した。リラックスするには蒸し暑い空気が鼻孔を通じて肺に届く。
雄大は男女分け隔てなく仲が良い人が沢山いて、誰とでも楽しそうに話す。うみはその容姿と表の性格から、男女ともに人気が高い。そんな2人が付き合うのは、他の生徒から見れば「お似合い」なのかもしれない。
そう考えた時、そらは胸に鉛がずんと落ちてきたような、気持ちの悪い感覚に襲われた。本能的に2人が一緒にいる想像をやめる。そらは自分が嫌になった。
違う、だめなんだ。私たちは友達のままでいなきゃ、、!
そらはふーっと一息つくと、自分の頬をぱちんと叩いた。そして窓を閉め、レク会場へと歩きだすのだった。
「あ、そら来た」
「もうレク終わっちゃうよー」
そらが会場に入ると、入り口付近にいたひばりとるるがそらに話しかけた。
学年レクの内容は◯✕クイズで、残り20人ほどが会場の真ん中の方で次の問題を待っていた。残っている生徒の中にはうみがいて、そらはすぐにそれに気がつく。左の方で彼女に声援を飛ばしているのは1組の団体で、その中には雄大と結花もいる。そらはその2人を見て、また気分が悪くなってきた。
「、、。だいぶ怒られた?」
るるにそう言われたので、そらは慌てて2人から目線を外してるるを見た。
「なんかやつれてる気がする。大丈夫?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
そらは無理やりふふっと笑った。それがるるに気付かれたのかどうか分からなかったが、るるは
「そっか」
と言ってそれ以上聞いてくることはなかった。
「あ、そーだ。のど乾いたし、なんか飲み物買い行こーよ。これ終わるのもーちょいかかりそうだし」
「いいね。行こ行こ」
そらはひばりとるるに連れられて会場を後にした。後ろからはわいわいと楽しそうな声が聞こえたが、そらにとっては今目の前で喋っている2人を見ているほうが楽しかった。
3人は真夏の夜の中を歩いていく。そらは彼女たちのやり取りを見ていて、すっかりさっきまでのことを考えなくなっていた。夜は更けていき、あと数時間で日付が変わる。
明日は、キャンプファイヤーだ。




