中間登校合宿ー浦田結花(2)
最初に「成宮そら」が「妖精」であると分かったとき、結花は真っ先に自分が肝試しの時に気付けなかったことを責めた。
結花は肝試しの時を思い出す。そらは帽子でしっかりと特徴的な銀髪を隠していて、顔しか見れなかった。それに電灯の少ない森の中だったので、もし銀髪が帽子からはみ出していたとしても、それを銀髪として判断し、「妖精」であると確信に至ることは難しかっただろう。
いや、てゆーかそもそも「妖精」の名前自体今知ったし、、、。
結花はそもそも「妖精」の名前も知らなかったのだ。知っていれば、あの時交代を申し出ていただろう。
「あ、」
そらがこちらに気付いて声を上げた。
「あ、やっほ。肝試しぶりー、、」
結花は動揺を隠しながら笑顔を作った。しかし隣に座ることははばかられたので、少し後ろの離れた場所に座った。
っ気まずぅー、、、。
結花は今にも視聴覚室から逃げ出したい衝動を抑えて、SNSを開いた。幸い夏休み中なので、高校が別の友達のSNSは更新されており、気を紛らわせることができている。結花はちらっとそらの方を見た。こちらのことを気にしている様子はなく、黙々と英単語帳をめくっている。
うわーどうしよ。もし反省文書けとか言われたら。一緒に書くんでしょ?ほんっとに気まずい、、。
結花がそらのこと、というよりも「妖精」のことを知ったのは、1年生の冬に差し掛かった季節のことだった。体育館を使う部活の間で広がり始めていた頃に結花は知る。
初めてこの噂を聞いたとき、本当に他人事だった。そんなドラマでしか見たことないようなことがあるのかと疑ってもいた。しかし実際にその子のクラスの学級委員が転校したことや、その子が身なりの悪い男と一緒にいるところを撮った写真をみて、本当なのではないかと信じ始めてきた。名前も知らない別のクラスの人なのに、不気味で怖かった。
やがて「銀髪の子」から「妖精」へとあだ名が変わった。結花もそっちの方が彼女のことを噂してると思って何かしてくることはないだろうと、「妖精」呼びで定着していた。
結花は肝試しの時のそらを思い出す。まるで男子と喋るのは苦手そうな、奥手な女の子。結花のそらへその日のイメージはそれだった。
しかし今こうして彼女があの「妖精」だと思うと、あれも実は男子に対してガワを被っていただけなのではないかと思えてきた。
でも今わたしに話しかけてきた感じ、あの時と印象あんまり変わらないっていうか、、。もしかして私にもガワ被ってる?
バタン!
結花が気まずい中ぐるぐる考えていると、後ろのドアが勢いよく開き、生徒指導の神田と雄大、宇一が入ってきた。
結花はやっとそらと2人きりの状態から解放されてほっとしたのと同時に、これからどうなるのかという不安が強くなった。
「ちゃっちゃと終わらすよー!」
相変わらず無駄に大きい神田の声に、結花は少しのけ反った。
「成宮ー!浦田ー!前集まってー!」
神田はそう言って4人を視聴覚室の前方に集める。
「じゃあまず整理してくね」
そう言って神田は持っていたバインダーを手で叩いて、雄大が主導した肝試しがあったこと、小屋がその日に壊れ、その日に肝試しをしていた誰かがその小屋を壊したとの通報が入ったことを結花たちに説明していった。
「ここまでが事実ベースの話。ここからは俺らも知らないことだから、しっかり話聞きたい」
そう言って、神田はそらを指名した。
「成宮。ここにいる4人が最後のグループだっていうのは合ってる?」
「はい」
「小屋に行った時にはまだ小屋は壊れてなかった?」
「はい」
「小屋に着いたあと、何してた?」
「写真を撮ろうとしてました。肝試しの内容がそれだったので。でも撮ろうとした瞬間、小屋が壊れて、、」
「んー、、」
神田はそらの言葉を聞いて、唸った。
「他3人とも、その認識で合ってる?」
結花たちは頷く。
「なるほどねー」
神田は頭をかく。少しの沈黙。
「マジで俺らなんもやってないんすよ。ほんとに勝手に壊れたんだって」
雄大が沈黙を破った。
「て言ってもなー」
神田はんー。と少し考えてから、
「写真は撮れたの?どのタイミングで小屋壊れた?」
と聞いた。
「お、俺のスマホで撮ったは撮ったけど、、」
雄大がスマホを取り出しながら言った。
「え?そーなん?」
宇一は思わず雄大を見た。結花も実際、宇一と同じリアクションをしたいところである。写真が撮れていたなんて、雄大は結花にはもちろん、宇一にも言っていなかったのである。
「マジでブレまくってて何も見えないっすよ?ほらこれ」
雄大は神田に写真を見せた。結花もどんなものかと画面を覗く。写真は小屋が壊れ始めたタイミングでシャッターが押されたのか、ブレブレで顔は絶対に判別できず、何とか服の色を判別できる程度だ。ぶれた方向に光の線がいくつか入っている。
「うわー。これは確かに。、、、あれ?」
神田は苦笑いしながらその写真を見ていたが、違和感に気付いて言葉を止めた。
「あれ?ここ、ほら、、」
神田が画像をズームした。
「、、、ひっ!」
「うわっ」
神田のズームした部分には、人の顔らしきものが写っている。結花も宇一も心霊写真に見えて思わず声を出してしまった。
「いやいや、待って待って」
パニック寸前の結花たちを冷静に制して、神田はしっかり見る。
「うーん、これって、、」
神田が確認している時間、結花たちは顔を見合わせて青ざめていた。そらは興味深々に神田が確認している画像を覗いている。
「4人とも、本当に小屋には触ってないんだよね?」
「絶対っす」
結花たち4人は力強くうなずいた。
「おっけー。とりあえずこれは確認しておくから、帰っていいよ。レク楽しんできな。あ、関。その写真って俺に送れる?」
「え?その写真で分かったことある?ただの心霊写真じゃないっすか?」
雄大は困惑しながら神田に言った。神田は大丈夫、と言って4人を出入り口まで案内する。
「心霊写真なんかじゃないって。あれは多分だけど、ここら辺の大学生かな」
神田は4人を安心させるためか、優しく笑う。
「ぼやけてて判別は無理だけど、こういうことしそうなヤツは何人か知ってるから。あともし仮に本当に壊してて嘘をつくんだとしたら、もっとシンプルで分かりやすい嘘で口裏合わせるでしょ?」
神田はにこにこしながらそう言って、4人を少し怖がらせてから視聴覚室を後にした。
後々判明したのだが、神田の読み通り、小屋を壊したのは山の反対側に住んでいた大学生3人組だった。高校生が肝試しをやっていると聞いて、脅かそうと小屋の裏手で待機していると、手をついていたところが腐っており、簡単に崩れ去ってしまったらしい。彼らはその場の高校生たちを置いて走って逃げようとしたが、前の道の途中を歩いていた別のグループに遭遇し、高校生が投げてきた懐中電灯が1人に命中。その後脇道に隠れてやり過ごし、懐中電灯が当たった1人のために山を下りて病院へ行ったらしい。那奈が見た黒い影は、この大学生3人だったのだ。
「いやー怒られなくてよかった~」
心霊写真でないと分かった雄大はすっかり機嫌を取り戻した。
合宿ではそれぞれの組で男女別に部屋が分かれており、そこで寝たり着替えたりする。男子と女子の部屋の位置は真反対にあり、体育館や昇降口、そして結花たちがいた視聴覚室から両方とも離れている。結花はそらと2人で女子部屋に行くのが嫌だったので、雄大たちと別れる前にトイレへ逃げ込んだ。
「先戻ってていいよー」
と言ってトイレに入ったので、出てきたときにはもう誰もいなかった。結花はほっと一安心して部屋へ急ぐのだった。今戻れば、まだ学年レクの途中から参加できそうだ。
部屋で着替えて学年レクの会場へ向かって廊下を歩いていると、前をそらが歩いているのを見つけた。結花はそらに気付かれないように歩くスピードを落とした。そらが角を曲がったのを見て、結花も後に続こうとした。と、角の向こうで誰かと話しているのが聞こえた。結花は角を曲がらずにその場で待機する。レクの会場にはここを通らないと行かないので、なすすべなくそこに留まることとなった。当然、角の先の会話は自然と耳に入ってくる。
どうやら話しているのはそらと雄大のようだ。
最初の方の会話は全く聞こえなかったが、耳を済ませると雄大の大きい声からはっきり聞こえてきた。
「うわ~、、。どうしよ。言っちゃうかー、、」
「えと、、。関くん?」
「よし!言う!聞いて!成宮さん!」
「あ、は、はい、、!」
一拍間が空いて、雄大の声が廊下に響き渡った。
「俺、好きなんだ!」




