中間登校合宿ー浦田結花
浦田結花が思うに、中間登校合宿は嫌になるほど恋愛色に満ちた行事だ。体育祭や文化祭、修学旅行と並んでカップル成立率が高い。結花はそれを横目に見ながら、友達がいいなーと言っているのをいつも聞いているのだった。
「あ~あ。いいなー」
そして中間登校合宿の初日、案の定結花の友達である長谷川那奈がそう言うのだった。
それは昼休みとなり、学校側から配られた弁当を食べきった生徒がちらほら雑談やゲーム、教室から出ていくなど騒がしくなってきた時だった。結花は那奈の箸を持っていない方の手で遊びながら、那奈の言葉を聞いていた。
「なな、あんたそればっかり言って行動してんの?」
「肝試しのとき頑張ったよー!」
ななは田辺伊代から散々言われていることに対してそう言った。結花は那奈の好きな人である関雄大がこれを聞いていないかを一応確認する。教室中見渡したが、今は教室にはいないらしい。
結花は肝試しの日、雄大が那奈をおんぶして駅まで運んだことを思い出した。おんぶを促したのは那奈自身で、今までの那奈では考えられない行動だったので、結花も一緒にいた葉山桃も、後でメッセージでたくさん褒めてあげたのだ。
「え、あれってほんとのことだったの?」
どうやら信じていなかったらしい。伊代はびっくりして那奈を見た。
「そうだよー!いよ彼氏のところでお泊りしてて来れてないから信じてないかもしんないけど!」
伊代は肝試しの日にデートに行くと言っていたが、結花たちがメッセージで肝試しに誘うと、彼氏の家に泊まるから行けないという連絡が来たのだ。
「てかいよと佐藤くん、すごくない?」
佐藤とは、伊代の彼氏である佐藤健也のことである。
「えなにが?」
「まだ付き合って2カ月くらいなのに進展すごくない?って。え、あのさ、、、。もうしたの?」
那奈は急に小声になってそう聞いた。興味津々である。
「えー、、」
伊代は少し躊躇したが、小さくこくっと頷いた。
「えっ!ヤバ!」
那奈の声が大きすぎて教室にいた生徒が一人残らず目をこちらに向ける。
「あんた、、!ばかっ!マジで、、!」
伊代がプチパニックになって立ち上がり、那奈に体重をぐっとかけて寄りかかった。
「ぐえーっ!ごめんごめん!」
結花はそれを見て笑いを必死にこらえた。
「でもいよ初めてじゃない?あれ違ったっけ?」
「もー!そうだよ!うっさいなー!」
伊代はもう投げやりになってそう言った。ぐいぐい那奈に体重をかけて椅子から落とそうとしている。
「えだよね!ちょっと詳しく詳しく」
那奈はそんな伊代を抱きしめて自分の上に座らせた。
「いやーなんか、、。ご飯食べならが話してたら結構遅くなっちゃって、、。健也が今日家に誰もいないんだけど来る?っなって、、」
「「ふんふん」」
結花も那奈も共に相槌をしていよの話を促す。
「で、それっぽい雰囲気になって、そっからは成り行きで、、」
「うわー!なんかすごっ!」
那奈が思わずため息をつく。結花もこの手の話が自分の友達から出てきたことに、少し非現実的な感覚になった。
「やっぱり佐藤くんから?」
那奈は逃さない。
「まだ続けんのー?!」
伊代はそう言いながら続けた。
「めっっっちゃ緊張しててぶっちゃけ覚えてないんだけど、お互い初めてだしそういうの興味あったから、どっちもって感じだったかも、、?」
「うひゃー!」
那奈の感情は再び爆発していた。
「なになになに。どーしたの?なな」
コンビニから帰ってきた葉山桃が若干引いている顔をしながら近づいてきた。隣には一緒にコンビニに行っていたうみがいる。
「あ、ももちゃんうみちゃんおかえり。今さ、いよの」
「あとで!もー!」
教室中に聞こえる声で話そうとする那奈を、伊代は必死に止めるのだった。
結花はその光景を笑いながら見ていると、目の端に雄大の姿を捉えた。いつも一緒にいる谷崎勝吾と共に教室に入ってくる。
「お、ちょうどいいとこに。おーい、ゆうだーい!なんかなながさー、」
「ちょちょ!え?!」
伊予は先ほどの仕返しと言わんばかりに那奈の名前を出して雄大に話を振ろうとした。
「あ、ごめん何?」
雄大は勝吾と話しながらカバンの中を漁っていたので、どうやら伊代の声が聞こえなかったらしい。近くにいた男子に伊代が話しかけていることを教えてもらい、こちらに近づいてきた。
「いや何でもないよ?!」
「え?お、おぉ」
那奈が必死に雄大を追い払おうとする。伊代はそれをみて今にも吹き出しそうだ。
「てかちょっと、ゆいか」
雄大は渋い顔をしながら結花に手招きした。結花は何事かと思ったが、雄大と共に誰もいない教室の端に移動した。
「なに?どしたの?」
「いや、さっき生徒指導に呼ばれてさ、」
「は?何やらかしたの?」
「お前決めつけエグいって」
雄大はへへっと笑ったが、すぐにひそひそ声になった。
「肝試しでさ、俺ら4人で一緒に周ったじゃん?」
「え?うん」
「その時に小屋、あのー」
「あー、あの小屋?勝手に倒れてめっちゃびっくりしたやつね。っていうかもうあれ思い出したくないんだけど。ほんとに怖かったんだから」
「ごめんごめん。いったん我慢して聞いてほしいんだけど、あれ俺らが小屋壊したってことで学校に通報あったらしくってさ、」
「え?どういうこと?」
「え俺もまっじで訳分かんなくて、、!昼休みは言った瞬間に俺としょーごだけ呼ばれて、その日に肝試ししてたら勝手に壊れたって言ったら」
「言ったら?」
「当事者の俺と一緒に周ってた他3人にも事情聴くからみたいになっちゃった」
「えー、、ちょっと何それ、、」
「午後の授業終わってクラスレクやるときにまた呼ぶって言ってたから、ちょっとマジでよろしく」
「いやよろしくって言っても、、」
結花がフリーズしていると、雄大は勝吾に呼ばれた。雄大は結花に「頼むわ」と言った後、勝吾のところへ行ってしまった。今まで先生に呼ばれて話を聞かれることなどなかった結花は、初めてのことに不安と、なぜそんなことになってしまっているのかという疑問で頭がいっぱいになってしまった。
結花が頭を抱えながら那奈たちの元へ戻ると、案の定那奈が詰め寄ってきた。結花はこの後怒られるかもしれないことに気分を落としながら、皆に説明するのだった。
午後の授業は全く身が入らなかった。各教科の担当教師と目が合うと、もしかしたらこの先生も小屋の件を知っているのかもと思い、咄嗟に目を背けてしまった。
そうして午後の授業がすべて終わり、クラスレクのため教室中ががやがやし始めたころ、教室のドアを開けた担任と目が合い、手招きされて静かに廊下に出された。そこで肝試しを雄大と勝吾中心で実施した話、その最中に誰かが小屋を壊したという通報が入っているという話、そして先ほど雄大から話を聞いて、雄大の組が当事者のようなので今から話を聞きたいということを聞かされた。
「じゃ、ちょっと視聴覚室で待ってて。あとから関くんも連れてくから」
そう言い終わると、担任はその場を後にした。結花はついにこの時が来てしまったことに嫌がりながらも、避けて通れることではないかを腹をくくり、視聴覚室へと向かった。横を通り過ぎる教室からは楽しそうな声が聞こえてくる。廊下を一人寂しく歩いている結花は、どこか拒絶されているかのような感覚に襲われた。そしてそれと同時に今ここで知り合いの誰かが教室から出てきて結花に何をしているかを聞かれるのがふいに怖くなり、向かう足を速めた。
視聴覚室の前に着いた結花は、ドアが半分開いているのに気が付いた。
え、これ入っていいの?
結花は20秒ほどその場でドアノブに手をかけたりやめたりして葛藤した挙句、この場面を誰かに見られる方が恥ずかしいのではないかという考えにいたり、覚悟を決めてドアを開けた。思ったより重く、ゆっくりとドアが開いていく。
中には広々とした空間が広がり、防音加工された壁が視覚を覆う。一番奥には教室の2倍ほどの黒板が設置されており、その両端にはホワイトボードが置いてある。黒板に向かって配置された席は奥に向かって床が下がっているので1列ずつ後ろの列よりも数センチ下に取り付けてあり、大学の講義室をイメージさせる部屋となっている。ここでは映像授業をしたり、軽音部が演奏に使っていたりするが、こういった指導にも使われるのか、と結花は思った。
と、目の端に人が座っているのを見つけた。こちらを見ている。
結花はその生徒の方を見た。
銀髪の女子生徒だ。
結花は一目見ただけで『妖精』だと気が付く。
、、、は?妖精?なんで、、。
結花は初めて彼女の顔をしっかりと見た。今までは後ろ姿や遠くからそれとなく認識するだけだったからだ。そして顔を見た瞬間、肝試しのことを思い出す。
え、うそでしょ?うそうそうそ、、!
肝試しの夜、一緒に雄大と森の中を周り、一緒に手を握って小屋から逃げた「成宮そら」は、これまで散々後ろ指を指してきた『妖精』だったのだ。




