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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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中間登校合宿ー成宮そら(1)

 歩くスピードは、夏期講習を受けに行く時と変わらない。外を取り巻く夏の暑さも、耳を占領するセミの鳴き声も。ただ違うのは、リュックに入れた大きな荷物と、周りを歩く生徒の数である。

 今日は中間登校合宿。成宮(なるみや)そらは、校門の前で静かに大きく息を吐くと、下駄箱へと向かうのだった。

 合宿は例年通常授業と同様の登校時間で集合し、学校に一泊して次の日の20時に下校となる。内容としては6割が勉強、4割が炊事やイベントなどの行事色の強い全体行動となっていた。


「あ、」

 通常授業と同じくらいの時間に教室に来たそらは、久しぶりに見る人が机に突っ伏しているのが目に入ってきた。

「おはよ、ひば」

 そらの声にぴくっと反応し、藤堂(とうどう)ひばりはがばっと顔を上げた。

「そら、、。はよ」

 まだ合宿は始まっていないのに、もうすでに疲れている顔をしている。

「インハイお疲れ様。はっしーに聞いたよ」

「そうなんだ、、、」

 女子バスケ部はこの夏、インターハイに進んだ。しかし一回戦で接戦の末敗れてしまい、惜しくも大会から帰路に向かうことになったのだ。

「絶対勝てたのに、、」

 ひばりはぐったりして力なくそう言ったが、カバンに手を突っ込んだと思ったら勢いよく立ち上がった。

「そら、聞いといて!!」

 ひばりの手には襷が握られている。

「これ、先輩たちが大会終わってから渡してくれた襷」

 襷にはマーカーで何か書いてある。

「毎年3年生の最後の大会が終わったら、襷に3年生全員でメッセージ書いて、2年生の代がもらうんだって」

 ひばりは襷から顔をあげて声を張り上げる。

「先輩たちの気持ちも背負って、来年も絶対インハイ行く!」

「うん、応援するね」

 そらはひばりの熱意に感心しながらそう言った。

 と、教室のドアがガラッと開いて、見事に小麦色に焼けた女子が入ってきた。

「やっぱり。今のデッケー声、ひばだと思った」

 外内(とのうち)るるはこの夏休み中にサッカーに熱を入れた事がわかるくらい、直近で会った時よりもさらに日焼けしていた。

「おはよ、るる」

「あ、そら。おはよー。ひばも、インハイお疲れー」

「あたしは絶対、、」

「わーかったわかったって。来年も行くんでしょ。聞こえたって廊下で」

 そらは久しぶりのやり取りを聞いて、ふふっと笑った。

「てか、校庭みた?」

「見た。今年もキャンプファイヤーやるっぽかったね」

 中間登校合宿では毎年、2日目の最後にキャンプファイヤーをするのだ。そらも登校してきたとき、実行委員と思われる生徒と教員が校庭に色々と準備しているのを見ていた。

「なんだかんだでこの合宿結構楽しいんだよね」

「ね」

 今年はどんなことをするかなーと話しながら、そらたちは予鈴が鳴るのを待った。


 中間登校合宿はまず全校朝会から始まる。今年の大まかな流れをそこで話すのだ。1日目は各教科で宿題の回収と質疑応答が主になされる。余った時間は自習や授業の遅れ分を進めたりと、教科によってまちまちである。2日目は各教科で夏休み後半の宿題を渡すことがメインとなり、生徒たちは余った時間でいかにその宿題を進められるかが、夏休み後半の充実度の肝となっていた。

 勉強以外にも、クラスレクや学級レク、全校レクがあったり、1日目の夜飯を作ったりと、勉強の息抜きが数々用意されている。特に力が入っているのが、1日目夜の体育館ステージを使った部活動別の3年生引退式と、2日目夜のキャンプファイヤーである。引退式については式と名前がついているものの、2年生が部それぞれでやりたいことを自由にやって会場を盛り上げるのが習わしらしく、コントをやったり暴露話をして会場のあちこちから悲鳴や笑い声が聞こえるようなイベントとなっている。キャンプファイヤーについては、校庭の真ん中に火をともし、それを囲って各学年で男女ペアになって踊るので、公開告白や付き合いバレなど、主に恋愛関係で色々なことが起こる。

 これだけのことを詰め込んだのが、この学校の特色の一つでもある中間登校合宿なのだ。


「だーっ!疲れた~!」

 13時までほぼ休みなく宿題提出やら授業やらを乗り越えて昼食の時間になると、榎田(えのきだ)にいなが大きく伸びをしながら言った。いつものように、そらとるる、奥家(おくいえ)ゆみは一緒にご飯を食べており、その近くでひばり、にいな、村川(むらかわ)れなが昼食を共にしている。

「今日の引退式さ、女バスなにすんの?」

「秘密」

「え~いいじゃん教えてよー!」

「そういう軽音部は?」

「え?うちらはねー、、」

「いやいや!言っちゃだめだから!」

 平気で言おうとするにいなの口を、れなが必死に抑える。

「なんかこの感じ久しぶりに見た」

 るるがにいなたちを見ながらそう言った。

「そうだそら。そらのお陰で宿題出すの全部間に合ったんだよねー」

「え?それって普通のことじゃない?」

「私にとっては普通じゃないの。初めてだもん全部提出できたの」

「え、えぇー、、」

 若干引いているゆみを無視して、るるはそらにお礼を言った。

「ありがとね、そら。お陰で留年は免れそう」

「留年は大丈夫でしょ」

 そらはふふっと笑いながら言うのだった。


「あー!いた!」


 入り口から大声が聞こえたと思ったら、誰かがずかずかと入ってきてそらたちの前で止まった。

「成宮さんちょっといい?」

「あ、、、」

 そこに立っていたのは、肝試しで同じ班になった牧瀬(まきせ)宇一(ういち)だった。

「あ、うん」

 そらは宇一について教室を出た。廊下は引退式に向けて打ち合わせをしている生徒や、他クラスの生徒と立ち話をしている生徒であふれていた。そらたちは彼らをすり抜けて人気のないところまで行く。

 そらがなんだろう、と思っていると、宇一は立ち止まって周りを見渡してこちらを振り返った。

「あのさ、この前のきもd」






 その瞬間、目の前から宇一が消えた。向こうの方から聞こえていた生徒たちの声も聞こえなくなっている。

 そらは瞬時にミサンガの世界に来たのだと確信し、スマホで時間を確認した。

「あれ、、。まだいつもの時間じゃないのに、、」

 そらは3組の教室に戻ろうと思ったが、立花(たちばな)うみから電話が来たので立ち止まって電話に出た。

「あ、もしもし。うみちゃん?」

『あ!そらちゃんもしもし?!今どこいるの?』

「あ、えっと、1組の方と反対の階段の奥のところだけど、、」

『分かった!待ってて!』

 うみはそう言うと電話を切った。何事かとそらが思っていると、制服姿のうみが走ってきた。

「おーいそらちゃん!大丈夫?!」

「え?大丈夫だけど、、。どうかしたの?」

 そらの目の前まで来たうみは全力疾走してきたのか、息を荒げながらそらの体を確認した。

「ふーっ!よかったよかった。ほんとに何にもなさそう」

 そらは訳が分からずうみを怪訝そうに見た。うみはその視線に気づき、

「あ、えーっとこれはねー、」

 と少し気まずそうに話し始めた。

「さっき3組の前通った時にさ、そらちゃんが知らない男子と歩いてて、うちその男子のこと知らなかったし、3組の子も何でそらちゃんのこと呼んだんだろう?ってなてて!」

「うん、」

 確かにそらにとって宇一は肝試しで同じ班だっただけで、学校では話したことも、見たことすらなかったほど関わりはこれっぽっちもなかったのだ。

「でさ、そらちゃんが前に髪の色でトラブルあったって話してたの覚えてたからさ、もしかしたらなんかあったのかも!ってなって思わず、、」

 なるほど、それで気まずそうなのか、とそらは腑に落ちた。

「心配してくれてありがとうね。私はほんとに何もされてないよ。っていうか、これから何で呼び出されたのか聞こうと思ってて、、」

「もしかしてそのタイミングでミサンガ切っちゃった?」

「あ、、。そう、、」

 そらまで少しきまずくなってきて、そらもごにょごにょと答えた。

「うわーそうだったんだ!ごめーんほんとに、、!」

「大丈夫大丈夫」

 うみは何度か謝った後、すぐに切り替え、

「じゃ、またあとでね!もし何かあったらすぐ連絡するんだよ!」

 と言ってミサンガを切り、気付けば一瞬で現実世界に引き戻されていた。






「ぁめしの時さ、」

 現実世界では何事もなかったかのように宇一が話していたが、ミサンガの世界に入る直前で単語が途切れていて聞き取れなかった。

「あ、ごめん。もう一回いい?」

「肝試し!俺ら一緒に周ったやん。あ、もしかして俺のこと覚えてない?」

「覚えてる覚えてる!牧瀬くん、、だよね?」

「あーさすがにね?焦ったー」

 宇一はわざとらしく焦ったようなジェスチャーをしてから、

「あ、でさ!」

 と改めてそらに向き直った。


「肝試しの時に勝手に崩れた小屋、あれ俺らの班の仕業ってことで呼び出しあるかもしれない!」

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