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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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人混みー立花うみ

 じりじりと太陽が照っている中、彼女は改札を出て駅に内設されているコンビニの前に急いだ。目の前にコンビニが見えた時、すでに待ち人は着いていたようで、こちらに気付いてぴらぴらと小さく手を振ってきている。

「どういうこと、、?なんで、、?」

 駅で待ち合わせをしていた友達を見て、立花(たちばな)うみは困惑していた。


 夏休みに入る前、うみは成宮(なるみや)そらと現実世界でそれぞれのしたいことを2人でしよう、という話になった。うみが帰省からこちらへ帰ってきてから、最初にうみのしたかった、というよりもそらに体験してほしかった喫茶店巡りをした。うみは、そらと現実世界でしっかりと遊んだのは初めてで、新鮮さも相まって楽しかったし、そらも楽しんでくれたように感じた。

 それから少し経ち、中間登校合宿の5日前、うみとそらは再び現実世界で集まった。その日は喫茶店巡りをしたときに集合した駅よりもさらに3駅進んだ駅での待ち合わせだった。

「ごめ~ん、待った?」

「ううん。私も今来たところ」

 うみはそらがいつも通りであることを確認してから、彼女の背負っている荷物に目が行った。

「あ、あのさそらちゃん。今日ってカラオケ行くって言ってたよね?」

「え?あ、うん」

「これー、、。いる?」

 うみはそう言いながら、それを指さした。

「あ、えっと、これ実は今日私がやりたいことにちゃんと関連性あって」

 そう言いながらそらは荷物を降ろし、中身を空けて見せてくれた。


「ギターだ、、!」


 うみはケースの中に入っている楽器を見てテンションが上がった。そらは正解、と言いながらギターに触れると、わざとらしく咳払いをしてこの前のうみのような言い方で発表した。


「今日はこれから、カラオケに行って、えっと、、、セッションをしたいと思います、、!」


 駅から5分ほど歩くと7階建ての商業ビルがあり、カラオケは最上階の7階と、その下の5階と6階で展開されている。5階で受付を済ませ、うみとそらは6階の部屋に案内された。一通り説明を受けて店員が部屋から出ていくと、そらは先ほど駅で見せてくれたギターを再び取り出し、飲み物を取りに行こうと立ち上がった。

「あ、わたしも行く!」

 うみはそう言うと、そらの後に続いて部屋を出た。

「そらちゃん、結構ここ来るの?めっちゃスムーズだったけど」

「うーん、何回か来たことあるくらいかな。兄とその友達とかと一緒に遊んでた頃に」

「へ~。わたし初めて来た。っていうか、カラオケ自体めっちゃ久しぶりなんだけど」

「あ、そうなんだ。私東京って、学生が遊ぶってなったらカラオケって絶対選択肢に入ってくるってイメージあったから」

「えぇ~?あーでも確かに!なんかめっちゃカラオケ行ってる子とかいたかも!」

「うみちゃんは普段どんなことしてたの?」

「んー、何してたっけなぁ~、、。あーでも、渋谷とか原宿行って買い物とかしてたかも!あとは学校残ってずっと話してたり、友達のバ先とか家とか行ってたり、、」

「す、すごい、、。都会ってすごい、、」

 語彙力を無くしているそらが面白くて、うみはドリンクを入れながら笑った。ドリンクを入れ終わり、そらと一緒に部屋に戻っていく。

「シブヤとかハラジュクとかって、観光地じゃないの?」

「違うって!いっぱいいろんなお店あって楽しいんだよ?」

「へー、、」

「行ってみたい?」

「うーん、、。行ってみたいけど行ってみたくないような、、」

「なにそれ。もー」

 うみはけたけた笑いながらそらの肩を叩き、いてっといつものようにそらが反応するのだった。


 部屋に戻ってくると、先ほどつけておいた冷房が効き始めており、涼しい風が顔に当たるのを感じた。そらはリモコンとマイクを取って机に置くと、ギターを手に取った。

「あ、ていうかそらちゃん、セッションするって言ってたけど、具体的には何するの?」

「えーっと、私がギター弾いて、うみちゃんに歌ってもらおうかなって」

「なるほどなるほど、、」

 うみはギターをもってこちらを見ているそらを見つめる。

「って、そらちゃんギター弾けたの?!すごっ!」

「今気づいたの」

 そらはふふっと笑った。

「これもかよって感じだけど、兄の影響で」

 聞けば、そらの兄が学生の頃に先輩からギターを貰い、それをそらが貰ったようだ。貰った本人であるそらの兄は、絶対に誰しもが躓くというFコードで挫折してしまったらしい。

「最近は弾いてなかったけど、夏休みだし久しぶりに弾いてみたいなって思って」

「いいじゃん!やろうやろう!」

 うみはそらがこうして自分のやりたいことを言ってくれたのがうれしかった。普段は誰かに合わせてばかりなので、うみは改めて、夏休みに各自のやりたいことを考えることにしたのが名案だと感じた。

「じゃー、さっそくいってみよー!」

「お、おー、、!」

「で、どうやって歌うやつ決める?そらちゃんが弾けるやつとことんやってく?」

「あー、、」

 そらは少し考えてから力なく笑い、

「ごめん。4,5曲くらいしかまともに弾けるやつなくて、、」

 と言った。

「すごくぎこちなくなるんだけど、それ以外は楽譜見ながらなら、、」

「ぜーんぜんいいじゃん!そらちゃんがしんどくないならそれでいこ!」

 うみはワクワクしながら親指を立てるのだった。


 二人はカラオケ内の音をマイクのみにして、そらがギターを弾き、うみがその曲の歌詞をカラオケのリモコンで見ながら歌った。そらの演奏はところどころ間違えたりつっかえたりしていたが、テンポを合わせながら歌うのが、2人で歌う時とはまた違う楽しさを感じることができた。そらも楽しそうに演奏している。途中からそらの弾ける楽曲のストックがなくなり、うみのリクエストした曲を弾いてもらうことにした。

「いやー、そらちゃんがギター弾いてるの、なんか様になってたなー」

「な、なんか恥ずかしい、、」

 休憩にして、カラオケの中で2人は駄弁り始めた。

「やっぱり初めて弾くやつはすごいぎこちなくなっちゃうな、、」

「ねー。めっちゃムズそうだったもんわたしからしても」

 うみはウーロン茶を一口飲む。

「でもそもそも弾けること自体すごいんだから。わたしなんて楽器ほんっとに苦手でさ、中学生のころのリコーダーでわたしの楽器人生は終わったんだよね」

「楽器人生って何」

 そらはふふっと笑って言った。

「でも、歌は結構自信あるんだよね~」

「うん。すごい上手だった」

「えーほんとー?思ってるー?」

 うみはそらがストレートにそう言うので、何だか恥ずかしくなってごまかすようにそらの腕をぺちぺち叩いた。

「あ、そういえばそらちゃんの歌まだ聞いてないじゃん!」

「えっ」

「はい。はい、歌って歌って」

「ちょちょ、待ってうみちゃん。私歌は、、」

「なーに言ってんの。わたししかいないんだから。だいじょぶだいじょぶ」

 うみは大きく首を振るそらを横目に、そらが2曲目に弾いてくれた曲を予約した。それまで流れていたCMが途絶え、イントロが流れ始める。

「ほい、そらちゃん行ってみよー!!」

 うみはそらにマイクを渡す。

「う、うう、、」

 そらは少し泣きそうな顔でリズムを取りながら、マイクを両手で握りしめた。うみの横で、そらが息を吸ったのが聞こえた。


「おぉ~!!」

 そらが歌い終わると、うみは手をぱちぱちと叩いた。

「なかなか、こ、個性を感じますねー!」

「フォローが、、!」

 そらの歌は、うみがこれまで聞いてきた友達の歌の中で、一番と言っていいほど音痴だった。いつもの喋っている時と同じくらいの声量と声質で、喉から声が出てしまっていて、音程バーを見事にほとんどすべて外していった。うみはそらにマイクを渡してしまったことを少し申し訳なく思ったほどだった。

「ま、そらちゃんが何でもできる完璧人間じゃなくってなんかちょっと安心したよー!」

 うみは顔を真っ赤にして演奏停止ボタンを連打しているそらを必死にフォローしようとしたが無理だった。

「兄の友達にもネタにされるくらいだったから、、」

「ごめんってそらちゃん。そんなにあのー、、あれだと思ってなかったんだってー」

「あれって、、、」


 それからカラオケを出るまで、そらは1曲も歌わずにギターを弾いて過ごした。2人はカラオケを出ると、そのまま駅に向かった。

「いやー、楽しかったねー」

「うん。楽しかった」

「また行きたいねー。今度はそらちゃんギター持たずに」

「も、もう、、」

 そらは少し不貞腐れたような顔でうみを見た。その顔で見られたのが初めてだったうみは、思わずにやけてしまった。

「ふふっ。そらちゃん、なんか今日いろんな顔してるんだけど」

「そ、そう、、?」

「ほんとに!」

 2人は改札の前で立ち止まると、端によけて少し話した。次はうみのやりたいことをする番なので、それについての話や、もうすぐそこに迫ってきた中間登校合宿の話をひと通りしてから、そらと別れた。

「じゃ、次は中間登校合宿でねー!」

「うん、また」

 そらはそう言って改札の中の人混みの中に消えていった。うみはそらの姿を見送ると、スマホを取り出した。母親とこの駅で待ち合わせる予定だったうみは、そらと一緒には帰らなかったのだ。

 しばらくすると、母親の車が駅に到着し、うみはそれに乗って家に向かった。

「今日は誰と遊んでたの?」

「そらちゃん!」

「へー!最近よく遊んでる子だったっけ?」

 うみはう~ん、と考えた。そらの顔が思い浮かぶ。ミサンガの世界もカウントすれば、確かにこちらに来てから誰よりも遊んでいるのは彼女だ。というか今思えば、顔は勿論のこと、声も、匂いさえも、思い出そうとすれば思い出せるほど一緒にいる気がする。

 うみは満面の笑みで母親の問いに答える。


「そう!すっごく大事な()()!」

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