人混みー成宮そら(3)
「えーーっと、、」
「、、、」
「あ、あれ?もしかしてマズった?」
そらが外で手を振る雄大を見つけてから5分後、そらとうみと雄大は、同じ卓でパインジュースを目の前に置いて座っていた。
そらが彼を外で見つけてから、雄大は中に入ってきた。その瞬間にうみがトイレから帰ってきたので、そらは彼を追い返すことができないまま、結局3人で机を囲うことになった。
「いやー、まさか成宮さんと立花さんが友達だとは思わなかったなー」
雄大がへへっと笑いながらそう言った。彼は制服姿だったが、下着をつけていないのかワイシャツの下の肌がうっすらと透けており、ゆるく結んだネクタイと汗拭きシート特有のツーンとしながらも甘い匂いのするところから見るに、どうやら部活終わりらしい。
「えへへっ。もう偶然も偶然で!」
「ほぇ~。え、でもクラス違うし、部活も違うくね?どこで接点あったの?」
「共通の仲いい子がいて、その子経由だったかなー?ね、そらちゃん?」
「え?あ、うん。そうだった気がする」
「へ~!つながり方えぐっ!めっちゃおもろいやん!」
雄大は楽しそうに言った。相変わらず人懐っこい笑顔に、誰に対しても変わらない口調。そらは肝試し以来で、どう接するのが正解か迷っていたが、雄大は肝試しの時のように喋ってくるので、そらもあの時のように話し始めた。
「そう言う二人は?いつ知り合ったの?」
「たまったま会って、そこで成宮さんと好きなバンド同じじゃね?ってなって」
「ちょっと待ってそっちのほうがつながり方すごくない?」
「それはそうかも。マジで奇跡だったかもね、俺ら仲良くなったの」
「あ、うん」
「でもあれ?そらちゃんって邦ロックでしょ?聴くの。関君って洋楽じゃなかったっけ?」
「そうそう。よく覚えてんね」
「結構好きな系統似てたから覚えてたよ!でもほら、関君と音楽の系統合ってなくない?」
「最近はマイナーな邦ロックも聴き始めたんだよねー俺」
「えー!そうなんだ!じゃあなおさらそらちゃんと話し合いそう!」
「え、マジでそうなんよね!この前いろいろおすすめされたんだけど、結構ドンピシャなのあってふつーに湧いたんだよね俺」
「へ~!」
そらが息つく暇もなく、会話はどんどん進んでいく。時折うみと雄大がそらに話を振ってくれたが、そのたびに話の流れを止めてしまった。いつの間にかそらもうみもパインジュースを飲み終わっていた。
「あやべっ!」
雄大がそう言って席を立ったのは、雄大が席に来てから30分以上経った頃だった。電話が来ていることに気付いて青ざめる。
「おーっす。ごーめんごめん、ちょっと友達に会って話してて、、。いやちげーわ!」
黙れよ、と笑う雄大。何を話しているのか、そらには分からなかったが、その後数ラリー行ってから電話を切ると、バッグをもって服装を正した。
「ごめんね急に来ちゃって。また今度話そ」
「いえいえ!こっちこそありがとねー!」
「こちらこそ、、」
「じゃ!」
雄大は駆け足で喫茶店を後にした。
「な、なんかすごかった、、」
嵐のようだと形容されるのが似合う、そんなひと時だった。
「あ~あ、疲れたぁ、、」
うみは雄大の姿が見えなくなると、椅子の背もたれにどっと体重をかけた。あまりの切り替えの早さに驚くそらと目が合ったうみは、力なくへへっと笑った。
「なんかそらちゃんといると疲れるのはやーい」
そらはうみの言葉に絶句してしまった。
や、やっぱり私、うみちゃんに気を使わせちゃってた、?
うみはそらのショックを受けている顔に気付き、慌てて否定した。
「違くて!そらちゃんてミサンガの世界でずっと会ってたから、一緒にいるとついつい気が抜けてさあー」
そらはうみの言葉をだんだんと理解して、顔が熱くなっていくのを感じた。うみはそらの表情が一瞬で変わったのを見て、へへっと笑う。
「やっぱりわたしらって、ミサンガの世界で会うのが一番楽しいね」
「あ、、、」
そらは頷こうとしたが、心に何かが引っかかってうみの言葉を肯定することができなかった。そら自身、それが何なのかは分からなかった。
その後そらとうみはもう1件だけ喫茶店に行き、そこで1時間ほど話したあとに外に出た。外はピークを過ぎたというのにまだまだ暑く、外を少し歩いただけでじんわりと汗が出てくる。そらは蒸し暑さで目を細めながら、前を歩くうみの後ろ姿をぼーっと見た。うみのわきを通り、そらの目の端に消えていく人々は、うみの顔など見ずにただ歩いていく。1人で歩く人もそうでない人も。その誰もが名前も知らない赤の他人である。
そらはふと、目の前を歩くうみと今こうして一緒に喫茶店を巡り、共に笑い、いろいろな感情を共有していることが、現実ではないような気分になってきた。
『マジで奇跡だったかもね、俺ら仲良くなったの』
ふと、雄大がそらに向かって言ってきた言葉が頭をよぎる。
そうだ、、。
こんな奇跡のような出会いを、勘違いで台無しにしてしまうのかもしれない。そう思うとそらは足がすくんだ。
なおさらだ、、。私は、、、。
「そらちゃん、見てあれ、あれあれ!」
「どれ?」
「ほらあれ!クレープ!」
「ま、まだ食べるの、、」
「今日はチートデーだからいいのー!」
私は何があっても、うみちゃんと友達でいたいと心から思ってる。だから、、、。
元気よく走り出したうみの背中を見ながら、人混みの中でそらは一つの結論に達する。
だから絶対に、そうじゃなきゃ。これは、私がうみちゃんに抱いている感情は、『友達的な好き』じゃないと、だめなんだ。




