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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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人混みー成宮そら(2)

「ほ、ほんとに行くの?」

「ほらほら、早く行こうよそらちゃん」

 そらは改札を出て少し歩いたところで、車道を挟んだ反対側の道に喫茶店があるのを見つけて不安が襲ってきた。うみはそんなそらの肩をぽんぽんと叩きながら笑顔でそう言った。

「で、でもやっぱり私、、」

「大丈夫だよそらちゃん、わたしがいるんだからさ!ほらほら、失敗しても大丈夫精神で行こーよ!」

 うみがぐいぐいとそらの背中を押すので、そらは抵抗むなしく店に吸い込まれていった。店の中は比較的空いていて、すぐに座れる様子だった。そらはどうしたものかとその場できょろきょろしていると、うみが隣でふふっと小さく笑い、そのままカウンターへと歩いて行った。

「先に注文するんだ」

「まぁどっちでもいいんじゃない?ここ結構空いてたからそのまま来ちゃったけど、混んでて座りたいなってときは先に席取っておくのもいいかもね」

 うみはそう言うと、カウンターの後ろの壁にかかっているメニューを指差した。

「あそこから選んで注文するの。大きさとか、トッピングとかも。大きさはS・M・L・LLの4種類で、トッピングは左端の下のやつから。食べ物つけたかったら左端の上のやつからって感じかな」

「な、なるほど、、」

「あ、あと、、」

 並んでいる間にうみから一通りメニュー表の見方を教わり、そらは気合を入れた。

「次の方どうぞ~」

 店員に呼ばれ、そらはうみの後についてカウンターに進んだ。

「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ」

 うみはすらすらと注文を終えた。そらはうみが注文をしている時に手元にメニュー表が置いてあることに気が付いたので、メニュー名を覚えなくてもいいのだと一安心した。店員がレジを打っているのを見ながら、自分はいつ注文していいものかとタイミングが分からなかったが、

「お待たせしました。ご注文をどうぞ」

 と店員が言ってくれたので、そこで一安心。しかしそのせいで何を頼もうとしたのかを忘れ、手元のメニュー表から必死に探した。うみの注文を聞いていたので、そのまま同じように何とか注文を済ませ、会計を終わらせる。

「できたじゃんそらちゃん。やったね」

 うみが嬉しそうにそう言った。

「き、緊張した」

 そらはほっと息を吐いた。メニュー表から探している時に呼吸を忘れるくらい必死だったのだと、ここで気づく。しばらくして自分の番号を呼ばれてドリンクを受け取ると、そのまま空いている2人かけの席に座った。

「はいそらちゃん。アップルパイ半分あげる」

「え、でもお金、、」

「いーのいーの。食べよ食べよ」

 そらは少し申し訳なさを感じながらも、うみが分けてくれたものを受け取り、一口食べてみる。

「ん、おいひぃ」

「でしょでしょ?わたしこれめっちゃ好きなんだよね。さっくさくで甘いでしょ」

「うん。すごいさくさく」

 そらはおいしそうにアップルパイを食べているうみを見た。若干オーバーサイズの白いTシャツは袖を1,2折りさせており、腿の半分ほどの長さのショートデニムにゆるくシャツインすることで、彼女のスタイルの良さが引き立たっている。身バレ防止のためか、ベージュの帽子に薄く色の入った眼鏡をかけており、マスクも持参していた。

 そらは彼女の格好を駅で合流した時もまじまじと見ていたが、改めてじっくり彼女のことを見て、自分の場違い感を恥ずかしく思った。自分は出かけるときの一張羅、無地の白Tシャツに水色のスウェット、黒い帽子。おしゃれとは言い難いような恰好をしているようで、自然と体を縮めてしまうのだった。

 と、うみと目が合った。うみはにこっと笑顔になって、

「なんかそらちゃんと現実世界(こっち)でしっかり会うの初めてだから新鮮かも!」

 と言った。確かに、勉強を一緒にしたことはあったが、その時には藤堂(とうどう)ひばりや橋本(はしもと)るの、外内(とのうち)るるがおり、それに偶然を装って会ったので、そこまでまともに会話もしていない。

「確かに」

 そらとうみはゆったりとコーヒーを飲みながら、これまであっていなかった時の話をたくさんした。うみは東京へ旅行に行った話の続きを、そらは夏期講習と旅館でのバイトの話をした。もっとも強い話題として肝試しの話もあったが、ホラー系統が苦手なうみにしたら何が起こるか分からないと判断して控えた。


「へ~。そらちゃんのバイト楽しそうじゃん」

「お客さんと顔合わせるような仕事はもらってないからすごく助かってるよ」

「料理の手伝いとかすごいなー。わたし全然ダメなんだから」

「結局料理部は続いてるの?」

「それはもちろん!この前なんてねー、、」

 そらとうみはそうやって2時間ほど話してからその喫茶店を後にした。

「どうだった?はじめての喫茶店は」

「な、なんか慣れなくてそわそわした」

「あ、ほんとに?あんましそんな風に見えなかった」

 うみはそう言いながらスマホを取り出した。

「う~ん、どこにしよっかなー」

 うみは難しい顔をしながらスマホと周りの景色を見比べて歩き始めた。

「あ、あったこっちこっち」

 うみはそう言いながら、別の喫茶店に入ろうとするのだった。

「ちょちょ、ちょっと待ってうみちゃん」

 そらは慌ててうみを止め、止められたうみはきょとんとしながらそらの方を振り返った。

「ずっとおんなじところ居てもそらちゃん雰囲気に慣れちゃうでしょ?だったらいろんなところ行ってみたいじゃん?」

「な、なるほど、、」

 うみが当たり前のように言うので、そらは思わず納得してしまった。

「じゃ、行こ行こ~!」

 そう言ってうみは喫茶店のドアを開けるのだった。


「でね、この服が今わたしのものになってるってわけ。すごくない?」

 うみは今着ているTシャツがどうやって自分のもとに来たのかを話しながら、コーヒーをゆっくりと飲んだ。

 この喫茶店では先ほどの店と違い、入ると店員が席に案内して注文をとってくれた。そらとうみは2人揃って期間限定と大々的に宣伝されていたパインジュースを頼んでいた。

「そういえば話変わるんだけどさ、そらちゃんがるるちゃん家泊まってたの、正直びっくりしたんだよね」

「そうなの?」

「そうだよ!テスト勉強の時にしか見てないけどさ、そらちゃんとるるちゃんってそんなお泊りするくらい仲良い風にみえなかったもん」

「クラスだと結構一緒にいるんだよね。これでも」

「へ~」

 そらの言葉に、うみはどこか嬉しそうだ。

「そらちゃん、お泊り楽しかった?」

「うん。楽しかったよ」

「ふ~ん」

 うみはもっと嬉しそうな顔をした。

「な、なに?」

 そらは思わずうみに聞いた。

「なんかそらちゃんに友達ができてさ、しかも楽しいって自分から言うなんて、最初会った時と大違いって感じしてさ」

 そらはそう言われて恥ずかしくなり、そっぽを向いてパインジュースに口を付けた。

「そろそろ彼氏でもできそうな勢いだね~」

 そらはそれを聞いて思わずパインジュースを吹き出しそうになった。慌ててそれを飲み込んでせき込む。

「あははっ。そらちゃんテンパりすぎ」

 うみは笑いながらそう言った。

「もしかしてもう出来てた?」

「で、できるわけないって。そもそも男子の友達なんていないし、、」

「あれ?谷崎君と仲良くない?」

「あれは友達っていうか、、」

「そらちゃんの友達判定厳しくない?」

「え、そ、そうかな、、」

「そうだよ。え待って。じゃあそらちゃんの友達の判定ってどこから?」

「どこって、、。うーん、、」

 そらが考えていると、うみが立ちあがった。

「ちょっとトイレ行ってくるから、考えといてよ」

「え、あ、うん、、」

 うみがいなくなると、そらははーっと息を吐き、外の景色をぼーっと眺めながらうみの先ほどの言葉を脳内で反芻する。


『そろそろ彼氏でもできそうな勢いだね~』


 そっか。普通そうだ。()()()()()()()()()()()。きっとうみちゃんだって。

 そらにとっての普通と、うみにとっての普通が違うことを、改めてはっきり意識したそら。それを意識した瞬間、これまで『友達的な好き』と『恋愛的な好き』で悩んでいたのが、急に根本的に間違っていたのでは、という気分に襲われた。

 そもそも何で私が主体になってるんだ、、。私がどうこうの話じゃなくって、うみちゃんの恋愛対象に前提として入っていないじゃん。

 そらは急に自分が滑稽に思えてふっとつい笑ってしまった。


 私が女である限り、うみちゃんには一生届かないに決まってるのに。なにしてたんだろ。私。


 そらはまたため息を吐いて外を見つめ始めた。

「私が男だったら、なんか違ってたのかな、、」

 そう呟いたとき、外を通り過ぎていく人の中で、一人だけ止まって店内に手を振っている人が目の端にいることに気が付いた。そらは怪訝な目でその人に目を移した。

 つい最近知り合った、というか会った男子と、ばっちり目が合う。

「え?(せき)君?」


 そらに満面の笑みで手を振っていたのは、肝試しで一緒に周った3人うちの一人、関雄大(ゆうだい)であった。

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