肝試しー成宮そら(3)
雄大から再び電話が来た駅から広場に行くまで、そらは数えきれないほど後悔した。しかし拒否を口に出すことはできなかった。
きっとうみちゃんなら言えたんだろうな、、、。
そう思いながら広場で雄大のスマホでくじを引き最後の一組になるまで、そらの後悔は続いた。
「よし。そんじゃ行きましょーか」
雄大の一言で、そら達4人は森の中へ入っていく。いつの間にか蝉の鳴き声は消え失せ、どこか心細い。
「さすがに雰囲気あるなぁ」
雄大よりも背が大きい男子がそう言いながら森の中を見渡している。
「あ、そうだ自己紹介してなかったやん。しよーぜ」
背の大きい男子が提案してきた。
「いーよ。わたし、浦田結花。1組軽音楽部でーす。はい次」
「じゃ、俺。牧瀬宇一。5組でサッカー部。よろしくー」
次々と自己紹介をしていくので困っていると、
「先どーぞ」
と言って雄大が譲ってくれた。
「あ、えっと、成宮そらです。えと、3組で部活は入ってないです」
「最後俺ね。ども!関雄大って言いまーす。1組でサッカー部入ってます!今日は来てくれてありがとねー!」
雄大まで自己紹介が終わると、宇一が話し始めた。
「ってことは浦田さんとゆーだいは同じクラスか」
「そうそう。てか宇一って今5組なん?俺めっちゃ4組のイメージあるわ」
「お前それ去年だろ」
「ちょっと待って、ゆーだい部活一緒なのにクラス知らないのヤバくない?」
「え?いや結構みんなそうじゃね?」
「お前くらいだって。ね浦田さん。軽音のやつのクラス分かるよねさすがに」
「いやーうちは人数多いから大変だよ~」
「え何めっちゃ逃げるじゃん」
「逃げるとかじゃないから~。じゃ逆に牧瀬くんはサッカー部全員分かる?」
「あたりまえだって。まずは、、、」
どんどん会話が進んでいく。そらは彼らが話しているのを聞きながら歩く。ただ話を聞いているだけになってしまうのは、最近の3組の教室でもそうだった。しかし、あの時とは全く違う気分だ。3組の時は話しているるるやらにいなやらの顔を見て聞いていたが、ここでは顔が見れない。なんというか、「蚊帳の外」という言葉がしっくりくる感覚である。まだ自分の中で「知り合い」に落とし込めていないのか、どこか気まずいのだ。
でも、話振られるよりかは、、。
そう思うことにして懐中電灯の先をぼーっと見ていると、雄大が近づいてきた。
「成宮さんって怖いの平気な感じ?あんまり怖がってる様子ないけど」
まさか話しかけられるとは思っておらず、
「ふぇっ?」
と間抜けな声が出てしまった。雄大はそれに少し驚いて目を見開くと、
「ごめビビった」
と言ってへへっと笑った。そらは先ほどの雄大の質問を返す。
「怖いとかは大丈夫。ホラー映画とかよく見るし、、」
「へー。そうなんだ。じゃあ今日はコンディション最高ってこと?」
「あ、まぁ、、。うん」
「そうだ、この前お勧めしてくれたバンドさ、新曲出してたよね?」
「あ、そうそう。一昨日くらいに、、」
「えだよね。俺あれめっちゃ好きなんだけど」
「そ、そうなんだ」
「そうそう。言っとくけどこれガチね?イントロのベースかっこよくて一目ぼれしたのよマジで」
「分かるかも。私もイントロ強めだから好きだった」
「やっぱそうよな~。成宮さんがおすすめしてくれた曲のさ、、」
雄大の関わり方が上手なのだろう、どんどん会話が広がっていく。気付けばそら自身、言葉に詰まることもなく、自然と喋れるようになっていた。それに気づいたのは、宇一が話しかけてきた瞬間だった。
「お?なんかめっちゃ仲良くね?接点あったっけ?」
「あ、、えっと、、」
「たまたまスーパーであってさ、それで好きなバンド被ってたからそっから話し始めたって感じ」
「あれ?ゆーだいって洋楽好きなんじゃなかった?」
「えそうそう。俺の好きなアーティストがこのバンドとコラボしてて、『わ、めっちゃいい曲やん』ってなって、そっから好きになったんだよね~」
「へー。意外」
「意外といえば成宮さんもね」
宇一がぐっと近づいてきて話しかけてきた。
「あ、え、、?私?」
「そ。バンド好きなイメージなくて、どっちかっていうと音楽聴かなそうなイメージだったから」
「結構、聴きます、、」
「へ~」
そのまま会話が途切れてしまった。そらが自分がこの会話の流れを止めてしまったので、代わりとなる話題をと必死に頭を回転させた。
「あ、そーいやーさ、」
そらが頭を抱えているうちに、宇一がまた話し始めた。3人の顔を見て、いたずらっぽくにやっと笑いかけてくる。
「この森の怖い話、聞きたい?」
宇一の発言はきっと、別の組では最悪怒られるレベルの話題である。ただ、この3人は違った。雄大も結花も、そして当然そらも、怖いことはある程度平気だった。それに3人とも気になっていた。この森に怖い話などあったのかと。宇一は話し始めた。
「昔も昔、まだ江戸時代の頃、ここら辺は貧困がすごかったらしい。とにかく食べるものが少なくて、収穫できる米もほとんどない状態だったんだって。耐えかねた村の長たちは話し合って、人口を増やさず、それでいて食料を増やそうと考えたわけだ」
「そんな前の話なのかよ」
雄大が苦笑いしたが、宇一は
「まぁまぁ。黙って聞け」
そう言って続けた。
「村の長たちが取った策はむごいもんだった。女たちをこの山の向こうにあった遊郭で働かせ、金を長たちがぶんどっていった。やがて客の子供を生んじまっても、その存在を村は許さない。引き取るふりをして、この山に次々と捨てていったんだ」
「ひど、、」
そらの隣で結花がぼそっとつぶやいた。
「問題はこっからよ。年月が経って戦後すぐ、この辺の地域で夜な夜なこの山から赤子が泣く声が聞こえてくるって噂になったんだ。自治体が調べてみると、赤子の白骨死体が何体も数掘り返された。そこから今の江戸時代の惨い話が明らかになったってわけだ」
「なるほどなるほど」
雄大が頷く。
「だが、その赤子たちを供養すると、今度は夜な夜な女の叫び声が聞こえるようになった。これもまた調査したが、何の収穫もなかったんだ」
「え、、?」
そらは思わず声を出した。宇一はそれを見てにやっと笑った。
「結果、この地域でそれは赤子を殺された当時の母親たちが、二度と帰ってこない自分の子供を呼んでいるんだ、って噂になった。やがて年月が進むと、そういう怨念が集まる場所なのか、この山は自殺スポットになったらしい。中には死体も見つかってない人もいるとか、、」
「うーわ。こっわ」
さすがに結花は怖くなったのか、わざとらしく声を出してそらの肩にくっついた。そらは夢中で話を聞く。
「それもあってか心霊スポットとして有名になったんだけど、やがてホンモノが出るって噂になった。そいつらの話に共通していたのは、黒くてデカい何かがぐずぐずと蠢いている姿だ。きっと江戸時代から積み重なった怨念と死体が全部合わさって、異形のままにこの森をさまよっているんだ、って噂されるようになった。さすがにそんな山を野放しにできないと、当時の自治体がそもそもの原因である山を無くそうとした。でも失敗に終わるんだよ。次々に事故やら病気やらが起きて、工事は打ち切りになった。せめてもということでお祓いを頼んだんだが、それもできなかった。お祓いをする予定だった神主がこの山の入り口で倒木にあって死んじまったからだ」
その瞬間びゅうっと強い風が吹いた。暑いはずなのに、そらは全身の毛が逆立った感覚に襲われる。
「それ以降この森には祠が建てられて、近くの小屋では仏壇が置かれて毎日のように供養の念が唱えられたとか。年月が経って、この森は心霊スポットとして有名でも無くなった。ただ、この森からは時折聞こえるらしい。夜な夜な自分の赤子を呼ぶ、女の霊の叫び声が」
しばらく沈黙が続いた。そらの服の袖を、結花がぎゅっと握る。
「こっわ。上手すぎだろ話すの」
雄大が沈黙をかき消した。それを聞いた宇一が得意げな顔になる。
「だろ~?めっちゃ練習したんだからビビってもらわねーとそりゃ」
「てかほんとにこのメンツで話してよかったね。他じゃ最悪泣く子いるでしょこれ」
結花は笑いながらそう言っていたが、まだそらの袖を離さない。そらは指摘するのも気まずく、そのまま歩くことにした。話を聞いた3人は勿論、話した宇一でさえも、恐怖と不安に駆られたのか、4人とも木々のこすれる音がするたびに、あたりをきょろきょろ見るようになってしまった。歩くスピードも心なしか速くなっている気がする。
「あ、祠」
そこから少し歩いて結花が祠を見つけた。懐中電灯に照らされた祠が不気味にこちらを向いている。
「ヤバ。さっきの話聞いてるからなぁ。めっちゃ怖いんですけど」
結花がそらの袖をつかむ力を強めたのが分かった。
「ちな、ゆーだいもビビってます」
「ちょ、お前マジでだるい」
宇一と雄大も怖がっているのか、やり取りがぎこちない。そらもそらで3人の怖がりに充てられて一歩下がった。
「どーする?」
「ど、どーする、、って?」
そらは聞き返した。雄大は懐中電灯で歩いてきた道を照らす。
「引き返す?」
「えっ!」
宇一が大きい声を出した。そらと結花は驚いて身を寄せ合い、肩がぶつかった。
「あ、ごめ、、」
「いやうちこそ」
こちらはこちらでぎこちないやり取りをしている横で、宇一は雄大の肩に手を置く。
「誰も引き返してないってことはさ、つまりそういうことやん?え、最後の組で、しかも主催者いるのに引き返すの?ヤバくね?」
「わーったわーったって。じゃ、行くか」
雄大は笑いながら宇一をなだめると、懐中電灯を前に向けた。
「いざ小屋へレッツゴーだ」




