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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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肝試しー唯川やこ

 それは本当に一瞬だった。

 やこは部活終わりにるるとゆみと最近できたスーパーで待ち合わせると、荷物を車に乗せるのに苦労している人を見つけたので助けに行った。そうして助けた人はそらの母親であり、あれよあれよと家に招かれたのだ。幸い家にいたそらのお陰ですぐにそらの家を出ることができた。彼女の母親の車に3人で乗った時も思ったが、全員断れない性格なのがどうにかできないものか。

「今からご飯、食べ行かない?」

 やこはやっと帰れると思った矢先、るるがそらにそう提案するのでびっくりして声が出てしまった。

「3人で約束してたんじゃないの?私大丈夫だよ」

 そらは気を利かせてそう言ってくれる。確かに約束はしていた。期間限定のかき氷が発売されるという店に行こうとしていたが、今から向かってももう店は閉店しているので、そらの家に着くころには当初の目的は達成されないと3人とも何となく分かっていた。

「それができなそうだからこそ、だよ」

 るるは最近そらと一緒にいることが増えた。きっかけは体育祭だろう。やこ自身もリレーのメンバーとはあれ以来仲が急に縮まったと感じている。そらとも話す機会が増えた。しかしだからと言って2人で話すことはないし、お互いに「成宮さん」「唯川さん」で呼び合う仲である。そして今、るるはやことそんな仲の人間をご飯に誘っている。つまりやこは、、。


 気まず、、、。どーしよ。


「あ、そうだ。いったん駅まで行こうよ」

「そうだね。2個先の駅なら結構お店あるから、、」

「あ、ここ行こうよ。生姜焼き定食おいしいんだよねここ」

「えっ。なにこれおいしそう」

 やこが迷っている間に、るるとゆみによってどんどん決められていく。やこはそらを見た。そらも少し気まずそうにしている。

「ここにしよう!生姜焼き食べよう!」

「けってーい」

 るるはそらの手を引いて行こうとした。

「ちょっと待って、私は、、」

 そらはわたわたしながら断ろうとしているのだろうか、るるの手を逆につかんで止めた。と、後ろからそらの名前を呼ぶ声が聞こえた。見ると、そらの母親だった。車に乗っている。

「よかった間に合った~」

「え、母さん?」

「勝手に連れてきちゃったのに歩いて行かせるなんてできないでしょ?どこ食べ行くの?車で送ってってあげる」

「えー、いいんですか?じゃあお言葉に甘えて、、、」

 るるはそう言いながら行先を伝える。伝え終わると、るるはそらの方を向いた。

「そらも行くよね?」

「あら行くの?お金あげるから行ってくれば?」

 そらは少し表情をゆがめ、少し考えたのち、

「ちょっと着替えてくる、、」

 と言って一度家に戻っていった。

「ごめんねー。あの子、口下手なのよー」

 そらが歩いていくのを見ながら、そらの母親はそう言って苦笑いした。

「いえいえそんな、、」

 やこはそう言って苦笑いで返す。

「あの子ねー、ゴールデンウィーク明ける前くらいまで、本当にぜーんぜん食べなかったのよ」

 そらの母親が語り出した。

「夜ご飯あんまり食べないし、朝も少ししか食べなくてねー。それでほら、あんなんだから、学校で何があったかも喋ってくれなくてねー」

 やこは思い出した。体育祭の前までのそらの姿と、彼女を取り巻く教室の空気を。誰も彼女に近づこうとせず、立ったり座ったり、ロッカーに荷物を取りに行ったりするだけでそこら中から彼女の噂話が聞こえてくる。まるでクラス全体が彼女の行動を見張っているかのような、そんな緊張感のようなものがあった。体育祭を通して、るるやひばりが頻繁に彼女と接するようになると、その空気感もなくなった。やこは別に噂について何とも思っていなかったが、クラスの渦の中心にいる人間が優しくし始めると、噂話をするのがおかしいんだと、今までの自分たちの態度を180度変えたクラスの雰囲気が気に入らなかった。まるでSNSのようだと不快感を抱いたのは、きっとやこだけではないだろう。

「だからねー、今日あなたたちがお友達だって知れて、あの子にも同学年のお友達ができたんだなーって、嬉しくってついね」

 こんな話をされて、一緒にご飯を食べに行くことを拒否できるだろうか。

 なんか、結局うちもクラスの空気感と一緒って感じするなー、、。

 やこはそらが慌てて家から出てくるのを見ながらそう思った。


 定食屋に着いたとき、時刻は17時30分を過ぎていた。まだまだ暑い中駅を歩き定食屋に入っていく。涼しい風が一気に体を包み、頭がすっきりしていく感覚に襲われる。

「うわー。生き返る~」

 ゆみが活き活きした顔でそう言うと、店員の案内に促されて先頭を歩いて行った。

「やった。まだ生姜焼き定食残ってる」

 るるもそう言いながらゆみに続く。やこは一歩後ろに下がり、るるの後にそらを行かせた。

「あ、ありがとう」

 そらはぎこちない笑顔でそう言うと足早にるるについていった。やこは前を歩くそらの格好を見た。白の半袖Tシャツに、だぼっとした水色のスウェットを穿き、ボブカットの銀髪はすべて黒いキャップで隠している。そして人が近くを通るとき、毎回のようにキャップを手で押さえて顔まで見えないようにしていた。

 やこにはそれが、何かにおびえているように見えた。

 やこはるると隣に、ゆみとそらが一緒に座った。そらはまだキャップを被ったままだ。

「何にする?はいこれメニュー」

 座ると同時に、るるがメニューをやことそらに手渡してきた。手慣れた様子でおしぼりを広げて手をふき始める。

「えーっとね、、」

 やこが考えていると、隣から

「ここは生姜焼き定食がおいしいんだよ、、、」

 とぶつぶつ聞こえてくる。

「るるのせいで食べたくなってきた」

 るるのささやきにより、結局全員生姜焼き定食を注文した。


「ごちそうさまでしたぁー」

「すごくおいしかった」

「でしょ?世界一生姜焼きおいしいんだってここ」

「るるちゃんの言葉信じて大正解だったよ~」

 4人は食べ終わって店から出ると、口々に感想を言い合って駅へとゆっくり歩いていた。18時を過ぎたというのにまだまだ蒸し暑く、風もサウナの熱波のように感じられる。

「あ、そういえばこの前の体育祭のリレー、お母さんが動画撮っててくれたらしくてさ、みんなほしかったりする?」

 ゆみがそう言うと、

「え、ほしいほしい」

 食い気味にるるが反応した。

「やこもフォーム確認したいでしょ」

「え?いや。あれ以降のフォーム確認とかしてるし別に、、」

「え?!いらないの?」

 ゆみが嘘でしょ?という顔でこちらを見てくるので、やこはそういう意味じゃない、と手を振った。

「い、いるけど、、」

「そらも欲しいよね?」

 るるがそらに話しかけた。やこもそらの方を見た。

「うん。ほしい」

 そらは頷きながらそう言う。

 やこは体育祭の頃のそらと今の彼女を比べて、あの時よりも言葉をはきはき喋るようになったと思った。最初に彼女が誰かと話しているところを見ていた時は、もっとどもっていて小さな声で、聴きとりにくい声だったが、今ではそれが少しづつ変わってきているように感じられた。

 るるとゆみが話に夢中になって前を歩き、そのあとにやことそらが続く。やこは何か話すことはないか、とぼんやり考えながらぎゃーぎゃー話している前の二人を見ていた。

「あの、唯川さん」

 するとそらの方から話しかけてきた。

「うん?」

「あの、今日は勝手についてきちゃってごめん」

「別に、謝ることじゃないよ。友達なんだからさ。気にしない気にしない」

 やこは自分で言っていて、自分が嘘を言っていることを分かっていた。最初彼女をるるが誘ったとき、やこは気まずいと、一緒に行くのは少し憚られると、そう感じた。今でも2人きりになってしまったとき、相手を知らなさ過ぎて逆に会話に困る。そんな仲だと思っているのに、やこは自分から友達だと言って、彼女の謝罪を受け流した。

「うん、ありがとう」

 そらの少しうれしそうな横顔に、やこは思わず目をそらしてしまった。

 そっか。うち、いまこの子に同情してるんだ。さっきのお母さんの話とか、あの子自身の人とのかかわり方とか、そういうのでこの子のこと分かった気になって見ちゃってる。そんなので同情なんて、勝手に下に見てるのと一緒じゃん。

 今思えば、体育祭後に教室でアイスの話でそらを引き留めたのも、これと同じような考えを彼女に抱いたからなのかもしれない。やこは自分の考え方が嫌になり、首を振ってそらに声をかけた。

「こっちこそ、わざわざついてきてくれてありがとうね」

 そらは少し驚いたように目を見開いたが、すぐにほほ笑んだ。

「こちらこそ、連れて行ってくれてありがとう」

 やこはお互いに面と向かってお礼を言い合っているこの状況に恥ずかしくなり、

「なにこれ。変なの」

 と言って顔を背けた。そして改めて変な状況だったと思い、笑いがこみあげてくる。

「ふふっ。確かに」

 そらもやこにつられて笑った。先ほどの笑みとは違う、ちゃんとした笑顔。

 なんだ。ちゃんとそういう顔もできるんだ。

 そう思った瞬間、急にそらが身近にいるような気がして、やこは安心したような気分になった。これまで彼女に抱いていた印象が、少し崩れて形が変わった気がした。

 それはきっと、良い変わり方だ。


 その後、後ろで笑っていたやこたちに気付いて話しかけてきたるるとゆみを混ぜ、4人で話しながら駅に向かった。

 ピンポーン!

「あ、チャージない、、!」

 駅について改札を通ろうとしたとき、最後尾のゆみが引っかかったので、やこたちは改札の前でゆみを待っていた。

「あ、電話」

 ゆみが戸惑っているのを見ていると、横からバイブレーションが聞こえた。そらだ。ごめん、と言って電話に出る。

「あ、もしもし?え?あ、、、」

 電話の相手から何か言われたのか、そらはその場で固まってしまった。やことるるが変だと思ってそらを見ていると、改札の向こうでゆみの声が聞こえた。


「あれー?!にーなちゃん!」


 やこ、そら、るるは改札の方を一斉に見た。そこにはショートパンツに青いTシャツをインして、白のキャップを被り、トートバッグを片手に、ゆみに手を振っているにいながいた。

 そらはその姿を見てはっとして、

「ごめんなさい。うん、今目の前にいるんだけど、、え?うん、、」

 電話の相手に謝りながらちらちらにいなの方を見ている。にいなはこちらの様子に気付かないようで、ゆみのチャージを待ってから改札を一緒に通ってきた。

「あれー!いっぱいいるじゃーん!」

 近くに来てからやっとこちらに気付いた。スキップをするように駆け寄って来ながら、嬉しそうに言った。


「みんなも今から肝試し行くんだよね!!一緒にいこーよ!」

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