夏休みー成宮そら(4)
「わたしたち、付き合ってるの」
るのとひばりの告白は、はっきりとそらの耳に届いた。
「えぇ、、!そうなの、、!」
そらはどう反応していいのか分からず、下手な驚き方をしてしまった。ひばりがふっと噴き出す。
「何その反応。めちゃくちゃわざとらしいんだけど」
「ごめんね、そらちゃん。さっきのスーパーに行く前にひーちゃんと色々話して、わたしたち二人と関わりの深い人には言おうって決めたの。それでまず最初にそらちゃんにはちゃんと言おうって二人で話してたんだけど、、」
「ほら、あれがあったから、、、」
先ほどの伊尾木とのトラブルの中でひばりが宣言をしてしまったことで、二人で話し合っていた計画が崩れたのだ。
「ううん。話してくれてありがとう」
そらがそう言うと、るのが怪しんだ眼をした。
「さっきも思ったんだけど、あんまり驚いたりしてないね」
「え?!いやあの、、!」
そらは図星をつかれ動揺する。
「そらまさか、あの時のあたしの、、!」
「あ、それより前の、、、」
「それより前?!」
「ひーちゃん?あの時って?」
「あ、それは、、!」
ひばりが勝手に墓穴を掘る。
「もう!ちゃんと説明して!!」
「ま、まじかぁ、、、」
そらは学校で二人がキスをしているところを偶然見てしまったことを正直に話した。るのは顔を真っ赤にして手で口を覆い、ひばりは真っ青になってあまたを抱えながらそう呟いた。
「で、でもほかに見てた人もいなかったし、たぶん大丈夫だと思うけど」
「も、もう絶対やらないようにしないと。確かに最近学校でくっつきすぎな気がする、、、」
ひばりはぐったりしながらそう言った。
「ひーちゃん。わたしも気を付けるよ」
るのも大きくうなずきながら言うのだった。
そんな二人を見て、そらは改めて、同性が好きな女の子が自分のほかに二人もいることに、嬉しさと頼もしさを感じた。それと同時に、ある疑問が出てくる。
「でも、どうして私に言ってくれたの?」
「スーパーに行く途中で、るのに聞いたんだ」
ひばりが答える。
「伊尾木先輩からるののこと、助けてくれたんでしょ?あたしからもお礼言わせてよ。ほんとにありがとう。そら」
「そんな、、」
ひばりが頭を下げながら言うので、そらはなにかこそばゆさを感じた。
「あと!」
るのもひばりに続く。
「わたしもさっき、電話で色々聞いてくれたから。ほんとうにありがとう。そらちゃん」
るのも深々と頭を下げる。
「ちょちょ、二人とも、、!」
そらは慌てて二人に頭を上げさせた。
「そんなこと言うなら、私もなんだよ」
そらはぽつりとそう言う。
考えてみれば、今のこの状況は奇跡だ。そらの前には、そらが望む関係を築いている人たちがいて、その二人ともが自分の友達なのだ。そして二人は、そらに勇気と覚悟をもって打ち明けてくれた。
きっと、これはそういうことなんだ。
そらはこぶしをぎゅっと握る。
「そら?」
ひばりが何かを察して、そらに声をかける。
「はっしー、私ね、、、」
「そら!別に大丈夫だよ!あたし、それを話してほしくってあたしらの関係を言おうって決めたわけじゃ」
「違う!」
そらはひばりが必死に止めようとするのを、首を振って否定した。違うのだ。そらがしようとしていることは、決して彼女たちが秘密を打ち明けてくれたことに対する対価ではない。
「そうじゃなくって。私がただ、、、言いたい」
そらはひばりに笑いかけた。
知ってほしい。
それは、初めての感情だった。誰にも打ち明けたくなかった秘密。誰にも言えない秘密。ひばりに話した時、覚悟を決めて、自分を奮い立たせて、やっと言うことができた。でも、今は違う。
今は、ただ聞いてほしい。二人だけじゃないんだよってことを。はっしーに。
そらは前を向いて、るのを見た。
「私もね、女の子が恋愛対象なんだ」
そらの言葉に、るのは一瞬固まった。そらもひばりも、ゆっくりとるのを見る。目を見開き、口を手で覆っている。
「いま、そらちゃん、女の子が、恋愛対象って、言った、、?」
「う、うん、、、」
「る、るの、、?」
後々そらがるのに聞いた話によると、この後るのが発した驚きの声は、彼女の人生で一番大きなものだったそうだ。
「本当になんでも相談してね?絶対協力するからね!」
「う、うん。分かった。ありがとうはっしー」
「ほらるの。興奮抑えて」
三人はるるの家の前につき、ひばりがインターホンを押した。
『お、来た来た。ちょいまち』
るるが応答し、ドアが開く。
「おっそい!もう食べ始めちゃったって!」
「ごめんるる。色々あって、、」
「色々?」
「ほんとにもう、いろいろ、、」
ひばりがへとへと顔でそう言った。
「ま、お疲れお疲れ。さっさと入っちゃって、さっさと食べちゃお」
るるの家の中は、すでにいい匂いが充満していた。反射的にお腹が食べ物を求めてくる。
「急だったのに、ごめんね。るるちゃん」
「いーのいーの。たくさんいた方が楽しいでしょ」
リビングでは、ゆみと大輝がぎゃーぎゃー騒ぎながらたこ焼きを作っている。
「あ、成宮さんお帰り!!ひばちゃんもお疲れ!あれ?橋本さん?」
「なんかまた増えたし。ってあっつ!!」
「え?ああああ!渾身の自信作がぁぁぁ!」
ゆみの作ったたこ焼きを大輝が落とし、るるが台所を駆け回る。
「ほら、3人とも作った作った。そんで食った食った」
こうして、そら、るる、ゆみ、大輝、ひばり、るのの6人は、たこ焼き機を囲み大いに盛り上がった。罰ゲームでわさびを入れたたこ焼きを3回連続でゆみが引き当てたところでパーティーが終了。その後もゆみが持ってきたお菓子を食べたり、大輝の持っているゲームで遊んだりして夜が更けていった。
「さて、そろそろ寝ましょうかね~」
「大輝明日午後だよね?何時に起こす?」
「ガキ扱いすんな!一人で起きるし!」
「はっしー歯磨きとか持ってこれたの?」
「さっき買っておいたから大丈夫!」
バタバタと就寝の準備が進められ、日付が変わる頃に大輝は自分の部屋に。るるは自分の部屋から自分の布団を、押し入れから3つ布団を引っ張り出し、冷房をきかせたリビングに敷いた。
「3つだから一人はソファだね」
「あ、私ソファで大丈夫だよ」
「ゆみ落っこちそう」
「るるちゃんひどくない?!」
寝る場所でもひと悶着あり、結局ゆみがソファに寝ることになった。
「じゃ、電気消すよ」
「はーい」
そうして5人が床に就いた頃には、時計の針は2時を指していた。
「すーー、、」
コチコチコチコチ、、、。
かすかな寝息と時計の秒針の音が、静かなリビングを満たす。
「そら」
隣からるるの声が聞こえた。
「まだ起きてる?」
「うん」
そらは隣を見た。るると目が合う。
「なんか急に静かになって、変な感じするよね」
るるがそう言う。つい20分前には電気もテレビもついていて、音があちこちから聞こえてきていた。静寂に包まれた今この瞬間が、とても寂しく感じる。
「確かに」
そらはふふっと笑った。
「二人とも寝ないの?」
そらとるるの話し声に反応して、ひばりがくるっとこちら側を向いた。後ろからひょこっとるのも顔を出した。
「なんだ。みんな寝てないんだ」
るるが起き上がった。ゆみの名前を呼ぶ。反応はなく、寝息だけが聞こえる。
「ゆみだけ寝てる」
るるはくすくす笑いながらそう言うと、再び布団に潜り込もうとした。
「あ、ちょっとるる。まだ寝ないで」
すると今度はひばりがそう言いながら起き上がり、あぐらをかいて座った。
「ん、なに?」
ひばりの真剣な表情をるるが察して起き上がった。るのもそれを見て起き上がり、そらも自分だけ寝ているのは、と思い起き上がった。4人で丸くなって座り込む。
「で、どうしたの?」
るるがひばりに尋ねた。ひばりはるのと顔を見合わせて頷く。そらはスーパーからの帰り道、るのが言っていたことを思い出す。
『ひーちゃんと色々話して、わたしたち二人と関わりの深い人には言おうって決めたの』
すっと静まり返り、4人の間に緊張が走る。そらは緊張漂う空気感に耐えられずにつばを飲みのんだ。
「実は」
ひばりが口を開いた。皆の顔がひばりに向く。
「あたしとるの、つk」
聞こえるのは秒針の音のみ。そらの周りには誰もいなくなり、周りの3人が座っていた部分だけ布団が潰れている。
「ちょ、、、」
緊張したあの空間が一瞬で消え去り、なにもない静かな空間にぽんと放り出されたかのような気持ちになった。
「え、、、」
彼女は言っていた。今日は朝から遠出をし、2日後には東京へ発つと。直近で会えるのは1週間後の水曜日だと。
「な、、」
それなのにここに来てしまった。つまり、彼女が切ったのだ。あれを。しかも、ひばりの告白の途中で。
「なんでこのタイミングなの?!!」
そらの声は、虚しくミサンガの世界の中に消えていった。




