夏休みー成宮そら(3)
るのからの電話のあと、そらはるるを通して近くのスーパーに行ってもらうことにして、自分もそこに合流するためにるるの家を出た。19時を過ぎているというのに、日が落ちてすぐなのか、遠くの西の空はぼんやりとオレンジ色を残している。
るのからの電話は、いろいろと合点がいった。ひばりは最近休み時間も教室にいることが増え、るのと一緒にいることろを見なくなった。そして今日はるるの家に泊まりに来る。恋愛対象が同性であることを考えると、付き合っているのにこんなところには来ないはずなだ。そらはひばりが今日来ることに驚いたくらい、彼女はそういう面は徹底しているイメージだった。
ただ、そらは今からひばりと二人になったとて、るるのことを話すわけにはいかない。ひばりには恋愛対象が同性であることを打ち明け、彼女もそうで、実際に付き合っている人がいるということまで教えてくれた。ただ、それがるのだと言ってくれたわけではない。ここでそらがるのの名前を出すと、余計にややこしくなってしまう気がした。勢い任せにるるの家を出てきたのはいいものの、どうすればいいかは全く考えていなかったのである。
ほんとにどうしよう、、、。
「そら」
悶々と考えていると、後ろから自分の名前を呼ぶ声がした。振り返るとそこには一人の男性。タンクトップに短パン、クロックスという格好に、ぼさぼさで色落ちした茶髪がなんともだらしない風貌に拍車をかけている。しかし顔は出会ったころとあまり変わっていない。人懐っこい笑顔で手を振っている。
「カントくん?」
「大正解!」
山崎還斗。彼はそらの兄、陽太の小学校からの友達で、そらもよく遊んだ2個上の代の一人である。
「やっぱそらだったわ。変わってねーなー!」
還斗はそう言いながらそらと並んだ。
「あれ?なんか背伸びた?」
「ちょっとは」
「へー。てかお前、家こっちじゃないでしょ。何してるの?」
「ちょっと友達と遊んでて、、、」
「え?!友達?ついにできたか?」
「うるさいなぁ」
「だっはっは!うそうそ!」
還斗は出会った時からあまり変わらない。性格は陽太と似ているため、そらにとってはちょっかいをかけてくるもう一人の兄のような存在だ。
「スーパー行くん?俺も俺も」
「まだ何も言ってないんだけど、、」
そらは還斗と一緒にスーパーへ向かった。
5分くらい歩くとスーパーに着いた。白くまばゆい光が、数十メートル先の夜道まで届いている。
「ここ、マジで最近できたんだよね。ちょー便利なのマジで!」
「うん。私もマップみてびっくりした」
そらはきょろきょろと見渡す。ひばりたちはもう着いているのだろうか。
「何々?友達いるの?どこどこ?」
「なにしてんの。なんで探すの」
「いつもそらがお世話になってます!ってやってみたいじゃん」
「ほんとにやめてよ」
「えぇー。いいじゃんいいじゃん」
「ほら、早く用事済ませてきなよって」
「急に冷たい!」
還斗がいつものようにそらで遊んでいると、
「あの!」
と声が聞こえた。そらは声の方を見る。ひばりとるのが自転車置き場から走ってきていた。
「嫌がってるじゃないですか。警察呼びますよ」
還斗は
「え?俺?」
と言いながら自分を指さした。ひばりとるのがスマホを見せつけながら頷く。
「あ、ひば。これはその、、!」
そらが否定しようとすると、還斗が豪快に笑い始めた。
「そら、めっちゃいい友達もったなぁ」
何が何だか理解できずにぽかんとするひばりとるのの目の前で、そらは恥ずかしさに顔を真っ赤にするのだった。
そらは還斗との関係を二人に話した。
「ごめんなさいっ!はやとちりでした!」
「いーのいーの。どんまいどんまい」
還斗は少しも気にしていない様子で、気を取り直して4人でスーパーに入っていく。
すっとるのがそらの隣に来て小声でしゃべり始めた。
「さっきはありがとう、そらちゃん。色々すっきりしたよ」
「うん。よかった」
よかったんだけど、、、。
そらはますますどうすればいいのか分からなくなってきた。二人の間をそれとなく持とうと思っていたら、すでに仲直りをしているのだ。ひばりにここに来て、と言った意味がなくなってしまった。それに、あの電話のあとにこうして二人でいるところをそらに見せたということは、そういうことだとそらが思ってしまってもいいということなのだろうか。
でもさすがに、二人って付き合ってるって認識でいいんだよね?とか聞けないし。どうすればいいんだろう、、。
「そらー。何買いに来たの?」
そらの悩みの根源の一人であるひばりが振り向いて言った。
「あー、、。ちょっとノートが欲しくって」
もともとノートには困っていないが、口実に使う。ノートのコーナーに行く途中でも、どうすればいいのかと頭を抱えていた。ノートを手に取り、レジに向かう。
「ひーちゃん、あれ。」
「あ、自販機で売り切れてたやつ。ラッキー」
ひばりとるのは飲み物のコーナーに足を向ける。
「俺アイス買お」
還斗は飲み物コーナーの隣にあるアイスコーナーに歩いていく。先に飲み物コーナーに着いたひばりとるのは、楽しそうに話して笑っている。ひばりのあの笑顔は、るのにしか向けない。やっぱり付き合ってるんだろうな、と思いながら、そらはその関係性に憧れた。
私も、いつかああなれるのかな、、。
すると、ひばりたちの横に誰かが来て声をかけた。その人を見た瞬間、二人の顔から血の気が引いたことが分かった。そらもその横顔を見たことがある。
はっしーの腕をつかんでた人、、!
そらは走って彼女たちのもとへ駆け寄る。
「ひば、はっしー、こっち、、!」
そらはこの前の時のようにるのの腕を引っ張って遠ざけようとした。しかし同じ手は通じなかった。そらとるのが腕をつかまれ、捕まってしまった。
「っ!」
あまりの強さにるのが悶えた。
「また君?」
その人はあの時とは別人のように、眉間にしわが寄って内側から怒りがあふれだしている。
「伊尾木先輩、二人は関係ありません!離してください!」
ひばりが伊尾木を落ち着かせようとする。伊尾木はひばりに一瞥すると、再びそらに顔を向けた。
「じゃま。どっか行ってくれる?」
そう言うと、そらとるのの腕をぐいと引っ張って半分投げ飛ばすように離した。
「きゃあっ!」
二人は遠心力の力で2,3歩後ろに足をついたが、結局バランスを崩して倒れそうになった。
「っと」
その前に誰かの腕が背中を支えた。見ると還斗が立っている。るのも還斗に支えられていた。
「カントくん、助けt」
ばちんっ!
そらが還斗に言い終わる前に鋭く叩く音がした。振り返る。ひばりが手を胸の位置で握りしめており、伊尾木は目を大きく見開いている。
叩いたのはひばりだった。
「あたしのるのに、、、何するんですか、、!」
「は、、?」
伊尾木は自分が叩かれたことにびっくりしているのか、それとも怒りが自分のキャパシティを越えたのか、微妙な反応をした。声が震えている。
「付き合ってる人いるでしょって?はい。いますよ」
ひばりはそう言いながらこちらに歩いてきた。
「ここに」
ひばりはるのの肩に手を置き、自分の方にぐっと引き寄せた。
「あたしの彼女は、ここにいる橋本るのです」
ひばりははっきりとした声で言った。迷いのない、覚悟を持った顔つきで。
そらは目を見開いた。まさか、ここで言うとは。
「だからもう、あたしにも、るのにも、そしてそらにも、、!近づかないでください!」
ひばりの堂々とした態度に、伊尾木は一瞬たじろいだ。が、自分が優位に立っているとずっと思っていたからだろう、まさに怒り心頭。顔を真っ赤にさせてこちらに向かって来た。
「はい。ストップ」
ここで待ったをかけたのが還斗だった。そら達3人と伊尾木の間に立つ。伊尾木が足を止める。
「俺の妹がなんか用?」
還斗はひばりを指さしながらそう言った。
「いや、あんたには関係ない話だろ」
「あるよ。家族だもん」
還斗は伊尾木に近づくと、肩に手を置いた。
「てか妹の口ぶり的に、お前あの子たちの先輩でしょ?」
「だったらなんなんだよ」
伊尾木はイライラを抑えられずに声を大きくした。還斗は全くそれに動じないで続ける。
「年下の女の子いじめて楽しいかよ?みっともねぇなお前」
「は?」
「妹から相談受けてたんだよね。付きまとってくる先輩がいるって。それお前のことだろ」
伊尾木は嘘だろ、と言いたげにひばりを見た。しかしすぐに還斗に顎をつかまれ、還斗の方に向きなおさせられた。その手を振り払うが、今度は胸ぐらをぐいっと掴まれる。
「忠告で済む程度で終わらせとけや。なあ」
還斗は強引に自分の方に伊尾木を寄せる。伊尾木は完全に怒りが恐怖になり、必死に目をそらす。
「な。怖いだろ。お前がさっきあの子たちにしてたことだぞ」
還斗はそう言い切ると、伊尾木の胸ぐらを離した。伊尾木はなんともないように強がって、しわになった首元を直し始めた。
「、、、すいませんっした、、」
伊尾木は首元のしわを伸ばしながら消え入りそうな声でそう言うと、足早に退散していった。
「ほんっとうに、ありがとうございました!」
伊尾木がいなくなったことを確認してから、還斗はそら達3人を連れて買い物を済ませてから外に出てきた。
「いいっていいって!みんなに怪我無くてよかったわー」
還斗はだっはっはと笑いながらそう言うと、ビニール袋の中から飲み物を2本取り出してひばりとるのに渡した。2人が伊尾木に遭遇する前に手に持っていたものだ。
「さすがに受け取れないです、、!」
手を振ってるのが言う。
「根性見せたご褒美ってことで。ね?よく頑張ったわ」
還斗がそういうので、2人はお礼を言いながら受け取った。そらにはノートである。
「ありがとう。カントくん」
「おう」
還斗は笑いながらそう言うと、自分もアイスを取り出して食べ始めた。ひばりが自転車を取って、4人で帰路につく。しばらく歩いたところで、
「あの様子じゃきっともうちょっかい出されないでしょ。もしまたなんかあったらそら経由で俺に言ってね」
還斗はひばりとるのにそう言うと、今度はそらに目を向ける。
「陽太によろしくな」
「うん。本当にありがとう。カントくん」
「おう。またなー」
「ありがとうございました!」
そらは手を振って、ひばりとるのは頭を下げて、還斗を見送った。還斗はアイスを食べながら、こちらを振り返りもせずに歩いて行った。
還斗と別れて3人になったそら達だったが、会話はない。そらも、ひばり達も、先ほどの話をするのに遠慮している。
2人は今疲れてるだろうし、そっとしといてあげるのが一番だよね。
「今日、タコパだって。たこ焼きなくなっちゃう前にるるの家行こう」
そらがそう言って足早になる。
「そらちゃん!」
しかしるのがそれを止めた。そらが振り返る。
「るの、、、」
「うん。わたしが言う」
るのはひばりにそう伝えると、そらをまっすぐ見た。
「そらちゃん。もう分かったと思うけど、改めてちゃんと言うね」
夜でも蒸し暑い風が、そらの頬を撫でた。
「わたしたち、付き合ってるの」




