初夏ー立花うみ(2)
「夏休みの計画?」
そらはうみの言葉を反芻した。
「そっ!」
うみはぽかんとしているそらの目の前で机の上に座った。
「テストが終わった今、うちらを待ってるのは何?そらちゃん」
「えっと、夏休み?」
「そのとおーーり!!つまり!今のうちに夏休みに何するか決めとけば!最終日に宿題が終わらないで泣いている未来は来ないってこと!」
「ほんとかなぁ」
そらは心配そうにつぶやいた。
「じゃあそらちゃん、年間予定表をまずは探しに行こう!」
「あ、私持ってるよ」
「え、お。ナイスナイス」
うみはそらが教室から持ってきた高校の年間予定表を見て、夏休みが終わる日付を確認する。
「ふーん、なるほどなるほど」
と、うみは予定表の途中にある違和感に目が留まる。夏休み期間であるはずの色がついている部分が二つに分断しているのだ。夏休みの間にある色のない2日間には文字が書いてあった。
「ちゅ、中間登校合宿?な、なにこれそらちゃん。すっごい嫌な文字が並んでるんですけど」
「あ、そうそう。この高校は夏休みの中間あたりで一回登校しなきゃいけない日があって、その二日間は学校で勉強合宿みたいなのをするの」
「うそでしょ?それでホントに夏休みって言えるの?」
うみは震えながらそらを見た。そらはそんなうみの気も知らないで嬉しそうに続けた。
「その代わりに他校よりもちょっと休みが長いんだって。あと宿題もちょっと少ないらしいよ」
「そ、、、」
「そ?」
「そういう問題じゃなーーーいっ!!」
気を取り直し、うみはそらと一緒に予定表を見た。
「まぁこれはしょうがないとして、そらちゃん夏休み中に家族で旅行とかする?」
「行かないと思う。私もお母さんも忙しいから」
「そーなんだ。お父さんは?」
「お父さんは、、、」
うみはそらの言葉が詰まったことである程度理解した。どうやら家庭環境が良いといえるような状況ではないのだろう。
そらちゃんもそうなんだなー。
「まーどっちにしろ旅行はないってことで!」
うみは勢いよくそう言ってそらの言葉を遮ると、
「そらちゃん自身も忙しいの?」
と聞いた。そらは当たり前のような顔で頷くと、今度は教室の掲示板に貼ってあった紙を持ってきた。うみが一番上に目立つように大きく書かれた文字を読む。
「夏期講習案内、、、」
「そう。夏休み中に午前中だけ夏期講習があって、、、。あ、これは希望者だけだからうみちゃんは受けなくても大丈夫なやつで、、、」
「なにそれ!っていうことは丸一日遊べる日はないってこと?!」
「あ、ううん。私は国・英・日本史だけだから、えっと、、、月水木の午前中だけだね」
「週3。すっご。それは大変」
「あとは、ちょっとバイトもするから、、、」
「ば、バイト?!そらちゃんバイトしてたの?!」
「夏休みの間だけね!お母さんの知り合いの人が経営してる宿でちょっとした手伝いみたいな感じで」
「うわー。なんか、ある意味満喫してるねそらちゃん」
うみは初めて聞くことに色々と動揺しつつ、そらと現実世界で遊ぶ時間があるのかが不安になってきた。
「じゃ、じゃあとりあえずこれに予定入れてこ!」
そう言いつつ、そらの持ってきた年間予定表を机に広げるのだった。
30分ほどでお互いの予定を入れ終わった二人は改めて予定表を眺める。
「いい感じに二人そろって暇な日が全っ然ない!ヤバい!」
うみは頭を抱え、そらは誤った。
「夏休みに遊ぶってあんまりしてなかったから、もっと意識してれば、、、」
「もう!そういう事言わない!」
うみはそらの額にデコピンをした。そらがいたっと声を出す。
「自分のために頑張ってやってることを自分が否定しちゃだめ!」
うみは自分が弱音を吐くことでやる気がどんどんなくなって言った経験があったので、その頃の自分を見ているようで少しイラっとした。
「夏期講習もバイトも減らしたら、うちが怒るかんね!」
「うん、、」
そらはうみが言ったことが意外だったようで目を大きくしながら頷いた。そんなそらが少し可愛く思えてうみはふっと笑った。
「じゃ、決めてこっか」
うみの女優の仕事などは諸事情で休止中なので仕事の予定はないものの、東京の友達と遊んだり旅行に行く日がある。しかしそれも合計すれば10日ほどで、それ以外は暇な日だ。夏休みの忙しさでいえばそらの方が大いに上回っている。そしてその予定が面白いほどかみ合わず、二人そろって一日暇な日は4日だけだ。
「ま、しょーがない。最悪うちが暇な日はミサンガの世界で遊べるしね~」
「あ、確かに」
うみはその4日に赤で丸をした。
「こんな感じで!とりあえずこの4日のどっかで遊びに誘うって覚えといてねー!」
「分かった、、!」
そこまで決まると、今度は何をするか決める段階に入った。うみがまず思いついたのは海水浴だ。
「あ、でもここら辺の海ってサメめっちゃいるんだっけ?」
「うん。柵とかで対策はしてるって聞いてるけど、やっぱりちょっと怖いよね。だから行くならミサンガの世界でとかの方が良いかも」
「確かに確かに。じゃあそうしよっか。んー、なんかあるかなー。そらちゃんはなんかある?」
「んー、何かあるかな」
そらはいつものセリフとともに考えるそぶりを見せる。そらはもともとミサンガの世界がうみ一人のものだったので遠慮しているのか、ミサンガの世界でやることを決めるのはいつもうみだ。
そらとうみは「ホンネを言えるようにこの世界で練習する代わりにこちらのしたいことにはとことん付き合ってもらう」という約束をした。そらはあの約束をした時よりも打ち解け、自分の気持ちも少しづつ話してくれるようになってきたが、それでもまだまだである。彼女の様に内気な性格の子は東京にいるときにもいたので、そらの考えは何となくわかるものの、彼女が本当に隠した本音ははっきりと見えないことの方が多い。うみはそれに時々腹が立つが、彼女のことは嫌いではなかった。
「じゃあさ、そらちゃん」
うみはいいことを思いついた。
「明日までにー、現実の世界でなんかやりたいこと何個か考えてきてよ。うちも考えてくるからさ」
「明日までに」
「そ。色々準備とか必要なのとかあるかもだから」
うみはそらがなぜか申し訳なさそうにしているのに気づいた。
「言っとくけど、ミサンガの世界じゃなくて現実世界で、だからね?現実じゃミサンガの世界の約束は適応しないからね!」
うみは彼女が気にしているであろうことを指摘した。実際言うと、こういうことを言葉にしてくれればうみとしては助かるのだが。
「うん。分かった」
うみの推測が正しかったのか、そらはさっきまでの顔の曇りがなくなって頷くのだった。
ミサンガを切って現実世界に戻ってきたうみは、ミサンガを切る前に入ったトイレを出た。そこで車いすに乗ったひばりと、それを押するのにばったり会った。
「あ、うみちゃん。テストお疲れ様」
「お疲れ」
「二人ともお疲れさまー!どうだったテスト?」
「手ごたえばっちり」
「全力は尽くした、、、」
るのはにこやかに、ひばりはとても険しい顔でそう返してきた。
「うみちゃんはどんな感じだった?」
「うーん、まぁまぁかな!」
うみはそう言いながら笑った。
「ふふっ。そらちゃんと頑張ってたもんね」
「るるは死にそうな顔してたけど、うみは案外大丈夫そうだね」
「もち!私頑張ったもん!」
「じゃ、またねうみちゃん。また勉強会しようね」
「うん!」
あの二人とるるちゃんも誘ってどっか遊びに行くとかの方が、そらちゃん的には気持ち楽なのかな、、、。
二人と別れて教室に入りながら、うみはそう考えた。
「あ、うみちゃんばいばーい」
「急げー!」
うみと入れ替わるように、ダンス部の桃と伊代が荷物を抱えながら教室を出ていった。
「ダンス部えぐいよねー。テスト終わって早々部活とか。やってられないよ」
うみと同じ帰宅部の那奈がそう言いながら荷物をまとめていた。
「あ、そうだうみちゃん、今から結花とごはん食べ行くけど一緒に行く?」
「えっいいの?」
「もちー」
「やった!行く行く!」
「じゃーいこー」
うみは二人と教室を出たところで、ポケットに入れたスマホが振動していることに気が付いた。
「あ、先下駄箱行っといて!ちょっと電話!」
「はーい!」
うみは二人が歩いていくのを背にし、電話をしてきた相手の名前が見間違えでないことを確認して嬉しくなった。
「もしもし!お疲れ!」
『わ、ちょー元気じゃんあんちゃん』
うみのことをそう呼ぶのは、彼女を「大瀬良杏奈」として知る芸能界の親しい友達である。
「めっちゃ元気!ていうかどうしたの?くるみ」
その声の主、モデル活動を主にしている水瀬くるみは、いたずらっぽく言った。
『へへっ。来ちった』




