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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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初夏ー立花うみ(1)

 そらと連絡先交換作戦を成功させた次の日、立花(たちばな)うみは少しわくわくしながら登校してきた。今日からは()()()()()()でもそらと意思疎通をすることができるのだ。

 昨日の帰り、そらと少しメッセージのやり取りをしたが、彼女はビックリマークなどは付けず、スタンプも既存のものしか使わず、いかにもそらと会話しているようで少しおかしかった。

 スタ連とかしたら、そらちゃんどんな反応するんだろ。今度やってみよっと。

 うみは悪戯を考えながら教室に入っていくのだった。


「え、それまじ?」

「ほんとほんと。昨日めっちゃ話題になってたよ」

「うわーガチかぁ~!」

 うみの机の周りにはいつものように葉山(はやま)(もも)を中心とした男女のグループが集まっていた。

「あ、おはよ。うみちゃん」

 桃が気付いてあいさつをする。体育祭を通じてクラスの人たちと仲を深め、桃のグループの女子はみな「立花さん」から「うみちゃん」へと呼び方を変えてくれた。

「おはよ!何の話してたの?」

「それがさ立花さん!」

 ずいっと前に出てきて話し始めたのは、サッカー部に所属する関雄大(せきゆうだい)だ。いつも男子たちとふざけているか、男女のぐるの中で笑いをとっているかしている。今日は一段と声を大きくしてうみに説明してくれた。どうやら雄大の好きなアーティストが来日公演をするらしい。

「へー。関くん洋楽よく聴くの?」

「うん。めっっちゃ聴く!邦楽よりおしゃんだよね」

「分かる!わたしも結構洋楽聴くんだー!」

 雄大は人当たりがよく、すぐに誰とでも仲良くなれる。うみは彼と喋ったのは数える程度しかないが、話しやすくすぐに打ち解けてしまった。

「えー、ゆーだいって洋楽派なんだー」

「え、そうだよ?おすすめ教えてあげよっか?」

「いやキョーミないかなー」

「おーい!だるっ!」

「あはははっ!」

 そう言って雄大をいじる女子は多いが、少なからず彼に好意を抱いている人もその中にいる。今雄大をいじった長谷川(はせがわ)那奈(なな)もその一人だ。


「なな、そろそろ積極的になりなってー。ゆーだいめっちゃ鈍感だから気付かないよ?」

「んー、いやー、、、。勇気でないなー」

 昼食の時、桃たちが集まってきて、恋愛トークを繰り広げ始めた。田辺(たなべ)伊代(いよ)が那奈に忠告のような形で促す。それでも那奈は難しい顔をしながら下を向いた。

「そもそもゆーだいって今彼女いないの?結構人気だけど」

 浦田(うらた)結花(ゆいか)がサンドイッチを食べながら言った。すると那奈が泣きそうな顔で結花の方を向いた。

「わかんないよー!でもこの前はいないっぽい言い方してた」

「それっていつくらい前?」

「っと、2か月くらい前、、かな」

「うわー、微妙な時期、、、」

 結花はそう言いながら苦笑いした。

「なーちゃん頑張れ~」

「いいよねー。いよは彼氏いるから」

「いいのかなー」

 そう言いながら困り顔をする伊代には、付き合って1か月になる野球部の彼氏がいた。4組の佐藤(さとう)健也(けんや)である。接点や馴れ初めはうみは知らないが、部活終わりに一緒に帰っているらしい。

「うみちゃんは?」

 ふいに那奈がこちらに話題を振ってきた。

「わたし?!」

「え、確かに気になるかも」

 結花も興味津々で乗り出した。

「共演してたイケメンな俳優とかアイドルとか、わんちゃん付き合ってたりアプローチあったりって、女優ってめっちゃ夢あるよねー!」

「うわー!それ最高ー!」

 結花もそれに賛同する。うみは彼女たちの考えに少しイラっとしてしまった。

 別にそんなくだらない理由でやってないのに、、、。なんかなー、、、。

 うみは感じたことをぐっとこらえ、

「えー、そんなのないよー」

 と笑った。

「あ、いよ。今日からテスト休みだって。今回早いね」

「え、やった!」

 桃と伊代はダンス部に所属しており、どうやら今日からテスト前の部活禁止期間に入るらしい。

 二人が喜んでいるのを横目に、うみは机の上に置いたスマホを見た。()()()()()()である。机の中からハサミをもって席を立ち、人気のないところへ行って腕に結んだミサンガを切った。


 ぱちんっ






「あ、そうだ!」

 うみは教室に入ると昨日のことを思い出し、スマホを取り出してそらに電話した。

『あ、えっ?うみちゃん?もしもし?』

 耳元にそらの困惑している声が聞こえてきた。

「あははっ!電話しただけ~」

『あ、そうなんだ』

「うん。いつもみたいに教室で待ってるね」

『うん。分かった』

「じゃ、またあとでね」

『うん』

 電話を切ると、うみは教室を見渡した。先ほどまで昼食を取っていたりふざけ合っていたりしていたクラスメイトは誰一人おらず、みんなが食べていた弁当やスマホなどだけが置かれている。

 やっぱりこっちは落ち着くなー。

 そう思いながら、うみはミサンガの世界の中で大きく深呼吸をするのだった。


「ねー!聞いてよー!さっき友達がさー!」

 そらが教室に入って来るや否や、うみは先ほど伊代たちに感じたもやもやをそらに愚痴としてこぼした。

「ね?ひどいよねー!」

「うん」

 うみはそらの反応に少し違和感を覚えた。いつものそらとどこか違う。

「そらちゃん、なんかあったの?」

 そう聞くと、そらは図星だったようで大きく動揺した。

「な、なんにもないよ」

 しかしそらはそれを隠して無理にほほえんだ。うみはそれにまたむっとした。

 毎回こーやって隠すんだよなー。そらちゃんだってうちみたいに愚痴ればいいのに。

 しかし今回はうみはそれに対してあえて何も言わず、ふーんと流した。

「じゃ、そらちゃん、今日はですねー、」

 うみは切り替えるように声のトーンを上げてそらに話しかけた。


「海!行こっか!」


 うみとそらは久しぶりに海へ向かうことにした。何日も続いた雨でなかなか外に出れなかったので、今日は外で目一杯遊びたくなった。そらはバイクを取ってくる、と言って自分の家に向かったので、うみは学校の正門前で待つことした。正門前の道路に寝ころび、久しぶりの青空を眺める。雲がゆっくりと流れ、生ぬるい風がほほに触れる。

 そらちゃんまだかなー、、、。

 うみは自分がそう思っていることに若干驚いた。最初は自分しかいなかったミサンガの世界に、全くの赤の他人が入ってくることが嫌だったのに、いつの間にかそらがこの世界にいることが当たり前になってきていたのだ。

 うち、そらちゃんと居ることに慣れちゃってるんだなー。

 そんなことを思いながら空をぼーっと眺めていると、そらがバイクに乗って帰ってきた。

「ごめん、おまたせ」

「んーん!」

 そらは慣れた手つきでサドルからヘルメットを取り出してうみに渡すと、タンデムステップを出してうみが乗るのを待った。

「っし!準備完了!」

 うみはヘルメットをかぶると、そらの後ろにまたがった。

「じゃあしゅっぱーつ!久しぶりに海行くぞー!」

「わわっ!うみちゃん揺れないでぇ」


 移動中、そらはテンションが上がるようにハイテンポの洋楽を流し始めた。そらはそれを聴きながら曲名を当てた。

「え、なんで知ってるの?!」

「うみちゃんがこの前すすめてくれたの覚えてる?そのあと聴いてみて、曲調が好きだったから何度か聴いてるんだ」

 そらのその言葉に、うみは嬉しくなった。自分の好きなものを紹介しても、適当にはぐらかされたり流されたりすることがほとんどなので、ちゃんと聴いてくれることがあるのかと思った。

「今度!いろいろ紹介したげる!!」

「うん、ありがとう」

 二人はうみの流す洋楽を聴きながら、隣町の海へと向かった。


「とうちゃーーく!」

 うみたちは海に着くと、そのまま砂浜へ向かった。

「わー!久々の海ーー!」

「風気持ちいいね」

 そらはぐっと伸びをしてから砂浜の上に寝ころんだ。うみはそれを横目に靴を脱ぎ捨て、海に向かって走っていく。

「ひゃっほーーう!!」

 うみは制服を脱がずに海にダイブした。まだまだ冷たい海水が一瞬で制服に染み込み、鋭いひんやりした感覚が全身に走る。

「ぎゃー!冷たいっ!!」

「うみちゃん、大丈夫?」

 そらが心配してこちらに向かってきたので、うみはいたずら心に駆られて海水をすくってそらにかけた。

「わっ!冷た、、、!」

 そらはもろに頭から海水をかぶり、全身びしょ濡れになって縮こまってしまった。その姿が面白く、うみはけたけた笑った。

「もー、、、」

 そらはやられてはいるものの、まんざらでもなさそうな顔である。

「まだ海水冷たかったー」

 うみは砂浜に上がると、そらと一緒に堤防の方に歩いていく。

「もうすぐ梅雨明けるし、夏本番になったらちゃんと海入ろうね」

 そらはうみの言葉に反応し、うみの方へ顔を向けた。

「うん、入ろう、、、!」

 目がきらきら輝いている。うみは、そらがよっぽど海水浴が好きなんだろうなと思った。


 二人は堤防に座り、海に来る途中のコンビニから頂戴したお菓子を開けて海を眺めた。

「テスト終わったらなにしよっかなー」

「なにしよっか」

「そらちゃんはなんかやりたいことあるー?」

「うーん、、、。何かあるかなぁ」

 そらはこういうところであまり自分を出さない。そこがわがままなうみの性格に合っているのかもしれないが、そらの気持ちもちゃんと尊重したいというのがうみの考えである。

「なんかあったらさ、遠慮しないで言ってね」

「うん。ありがとう」

 そらはまた元気のない微笑みをこちらに向けてきた。

「そらちゃん」

 うみは、さすがに耐えられなくなった。

「もう一回聞くね」

 隠さず話してくれればいいのに、、、。それが友達じゃないの、、、?

「なんかあったの?」

 そらはそれを聞いて少し目を大きくしたが、一瞬で元に戻った。

「ううん。なんでも、、、、」

 またさっきと同じ答えが返ってくるのかと思ったが、そらは言葉を途中で止めた。そして首を振り、うみの方へ体ごと向けた。そらと目が合う。


「うみちゃん、ちょっと悩んでることがあって、、、。聞いてくれますか」


 その言葉に、うみは大きくうなずいた。


「もちろん!」

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