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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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初夏ー永野かほ(1)

「ん?あれ、かほぴの言ってた好きぴじゃん?」

 高校の初めての体育祭、友達の早瀬(はやせ)さつきがそう言いながら指をさした方を見た瞬間、永野(ながの)かほは高校受験のための必死の勉強が報われた気がした。

「え、そら先輩?え、ヤバい!本物だ。え、ホントにこの高校じゃん。え、どうしようどうしよう」

「落ち着けかほぴ。死んじゃうって」


 かほにとっては中学一年の夏から、成宮(なるみや)そらは特別な存在だった。同じ学年だった姉に何度も彼女のことを聞いたものだ。あまり仲良くないのか、姉のりんは毎回いやそうな顔で

「知らない」

 と答えるだけだった。かほ自身は彼女のことをいろいろと調べようとしたし、話しかけようとしたりしたが、うまくかわされる。それでもかほは諦めきれず、何とか進学したらしい高校の情報を手に入れた。それだけを頼りに受験勉強を乗り越え、この高校に進学した。入学して2か月、勉強に部活に忙しく、彼女を見る機会はなかった。それでも先輩から話を聞き、彼女がこの高校にいることは分かっていた。彼女についてのよろしくない噂が立っているようだが、これまでリサーチしてきた彼女の性格的にはあり得ない。誰かの嫉妬だろうと、かほは確信していた。

 そして今、目の前をそらがバトンを持って走り抜けていく。ずっと探していたそらをようやく見つけることができた瞬間だった。


「にーなちゃーん、おーい、、、」

 やっとギターの演奏に慣れ、昼休み練習を卒業したかほは、勇気を出して初めて2年生の教室に行き、そらに会いに行くことにした。かほは同じバンドを組む榎田(えのきだ)にいなとそらが同じクラスだという情報をつかんでいたため、まずはにいなに会いに行った。

「あれ?かほじゃん。何してんのこんなとこで」

「あのさ、にーなちゃんって成宮そら先輩って知ってる?」

「成宮さん?同じクラスだけど、、、」

「い、今っているのかなーって」

「んー、、、。今いないっぽい。待ってたらすぐ帰ってくると思うけど」

「そっか、、、」

 うわぁ、いないんだ。待ってても良いけど、、。久々に面と向かってってちょっとハズいかも、、、。どうしよ、、。

 かほが悩んでいると、にいながにやにやしながら顔を覗いてきた。

「え、なに、結構前にも成宮さんのこと聞いてきたけど、もしかしてそういう感じ?」

「ねーえっ!うるさいし!」

「怒んなよー。伝言でもしてあげよっか?」

「んーん。ダイジョブ。自分で言うし」

「そ」

 にいなはそう言うと教室に入っていきそうになったので、一応自分が来たことは言わないように釘を刺しておいた。中学の様に警戒されると話すことすら大変になるのだ。


 次の日、かほはいつもよりも早く起きた。いつもはギリギリで登校するところを、今日は10分も早い。ふと、生徒の群衆の中に銀髪がちらっと見えた。

 そら先輩だ、、、!どうしようどうしよう!

 頭ではそう迷いつつも、歩幅は大きくなっていく。ぐんぐんとそらに近づいていく。

「あ、おはよー成宮さん」

「おはよう、榎田さん」

 にいなとそらがあいさつを交わしている。

 うらやましい、、、。うちもいつか、あんなふうに先輩とあいさつしたい、、、。

 玄関から離れていくにいなを少し睨みつつ、そらのもとへ急いだ。彼女はそんなかほのことに気付かず、下駄箱に靴を入れながら上履きに履き替えていく。このままでは声をかける前に行ってしまう。

 どうしよどうしよどうしよ。

 真後ろまで来て、少したじろいだ。なんと声をかけようか、非常に悩む。その時、彼女が一歩踏み出した。

 行っちゃう。ヤバいヤバいヤバい!


「せーんぱいっ!!」


 そう言いながら咄嗟にそらに抱き着く。

 ええええええ!!!何やってんのうち?!めっちゃ抱き着いちゃったんですけど!必死過ぎてヤバい引き止め方しちゃってるって!

 中学時代でもこんなことはしていなかった。自分の奇行に自分で驚きながらも、平静さを取り繕ってそらの前に行き彼女の顔を見た。中学の頃と変わらない、美しい銀髪と整った顔立ち。

 久々に目合っちゃったヤバい、、!

「やーっと会えました♪体育祭で見たとき、やっぱりこの高校だった!って、めっちゃテンション上がったんですよー?」

 かほは余裕のあるようにゆったりとしゃべり、声が震えないように細心の注意を払った。


「お久しぶりです、そら先輩♪」


「かほ、、、。久しぶり」

 そらは動揺しながらも答えてくれた。女子の中では少し低い、聞いていると落ち着く声質を、かほは久しぶりに聞いた。相変わらず目は合わせてくれないが、それでもかほはこうして話してくれることが嬉しかった。

「驚きました?うち、この高校に進学したんですよ♪」

「そうなんだね」

「そうなんですよー!だから先輩、困ったときはめっちゃ頼るんで、かまってくださいね?」

「うん、、、」

 そらはうつむきながら頷いた。中学の頃から変わらない、ずっと何かにおびえている様な話し方。彼女のルックスがあれば簡単にカーストのトップに行けるのに、そらは真反対で、なるべく人の印象に残らないようにしているかのように、かほは思えた。


「あれ、そら」


 かほは再びそらに話しかけようとした瞬間、後ろから声が聞こえた。振り返ると、ベリーショートで見るからにスポーティな女子生徒が立っている。梅雨なのになぜか日焼けしており、白いブルートゥースイヤホンがより目立つ。

「るる、、、!おはよう、、!」

 すると後ろから、かほの聞いたことのないそらの嬉しそうな声が聞こえた。

「ん、おはよ」

 るると呼ばれた女子生徒はかほをちらっと見て、

「知り合い?」

 とそらに聞いた。

「うん。一応、同じ中学の一個下の、、」

「永野かほって言います!」

「そうなんだ。私、外内(とのうち)るる。るる先輩って呼んで」

「はいっ!るる先輩♪」

「うん、悪くない」

「なんか態度がすごい大きい」

 るるが誇らしげな顔をしているのを、そらがつっこむ。かほはその状況が信じられないでいた。

「じゃ、私ら行くから。またね、かほ」

「バイバイです、るる先輩!そら先輩も、また会いましょうね」

「、、うん。ばいばい」

 そらはぎこちなく手を振ると、るると一緒に廊下を歩いて行った。歩きながら、そらとるるは言葉を交わしている。そのそらの姿は、かほが知っているそらの話し方ではなかった。るるの方に顔を向け、目を合わせ、時折ほほ笑む。かほは呆然と立ち尽くしてしまった。

 、、、何あれ。うちとはあんな風に話してくれないのに、、、。

 かほはそう思うも、彼女たちを追いかける勇気はなく、靴を履き替えて自分のクラスに向かうのだった。


「えー!話せたんだ!すご!」

 体育祭でそらを見つけてくれたさつきに朝のことを報告すると、彼女はまっすぐな感情で驚いた。

「さっすがかほぴ。めっちゃ積極的じゃん」

「まぁね。このくらい普通普通」

 かほは自分にも言い聞かせるようにそう言う。

 入学初日、隣の席だったさつきと仲良くなった。彼女は中学校ではカーストのトップにおり、このクラスでもすぐにトップになった。さつきもかほと軽音部に入ったため、授業も休み時間も放課後も、ほぼずっと一緒におり、気が付けばかほはさつきのグループの中心の一人になっていた。そんな中で、かほはそらのことをさつきたちに打ち明けており、グループの中でかほは恋愛面でも普段のように積極的で活発な人間だと思われている。


 だが、、、。


 やばいどうしよう。またやっちゃった、、、。


 かほは、さつきたちが思っているほど、積極的でも活発でもない。強がりかつ八方美人なところが裏目に出て、本来の彼女の性格と乖離してしまっていた。今だって、先ほど下駄箱でそらに抱き着いた奇行を後悔している最中なのだ。



 かほには、誰にも言えない秘密がある。




 かほは強がりで八方美人な、繊細で真面目でめんどうくさい性格なのだ。

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