開示―藤堂ひばり
副団長たち、女子バスケ部の部員、1年生の頃の友達など、色々な人と写真を撮っていく間にも、藤堂ひばりは成宮そらの姿を探した。村川れなに連れていかれながら振り返った時の、そらの顔が頭から離れない。
せっかく話したいって言ってくれたんだ。今日中に成宮さんと二人になるタイミング探さないと、、、。
ひばりがそう思っても、れなが車いすを押す力を緩めてくれるわけではない。今は彼女の姿を探しながら、写真を撮りながら、一人になれる言い訳を考えているのだ。
「なぁ」
ふと後ろから声が聞こえた。ひばりとれなが同時に振り返る。そこには背が高く、赤色の髪の毛が目立つ男子が立っていた。
「なに?」
ひばりが冷たくそう言うと、谷崎勝吾は腰を低くして近寄ってきた。
「ちょっとお願いがあるんだけどさ、、、、」
「何?今面倒なこと持ってこないでよ」
「マジで頼むって!藤堂にしかできないっ!ホントに!」
ひばりはため息をついて、仕方なく車いすを勝吾の方に向けるようにれなに頼んだ。
「ありがと、れな」
「う、うん。気を付けてね」
れなは勝吾とひばりを不安そうに交互に見ながら歩いていった。
「マジでよかったー!俺らの団だけ最後のミーティングめっちゃ長くて焦った~」
「で、頼みって?」
「あ、そうそう、あのですね」
勝吾はもう一歩ひばりに近づき、姿勢を正して改まって言った。
「成宮に、俺がゴメンって言ってたって、言っといてくんないっすかね?」
「え?」
「いやだから、成宮に、俺がゴメンって言ってt」
「そうじゃなくて!」
ひばりが勝吾の言葉を遮る。
「自分で直接伝えればいいじゃん。友達なんじゃないの?」
「いやまぁ、ダチって言うか、腐れ縁って言うか、、、」
ごにょごにょ言っている勝吾を見て、ひばりは腹が立ってきた。
「自分が悪いって思ってるんなら直接言いに行きなよ!」
「いや~、、、。今は顔見たくないっていうか、なんつーか、、、」
怒りなのか、驚きなのか、呆れなのか、言葉では言い表せない嫌悪感が、胸のあたりにずっしりときた。
「自分が何言ってるかわかってんの?人として終わってる」
「ちょちょ待って、言い方ミスった」
「うるさい!こっち来ないで」
車いすを反転させながら、ひばりは声を荒げた。
「謝りたいけど顔は見たくないって何?そんなの、謝らない方がマシ」
声が震えている。
「心のこもってない「ゴメン」は、「またやります」って言ってるようなもんじゃん!」
ひばりは顔だけ後ろに向け、勝吾をまっすぐに見た。
「今のあんたは全く信用できない。もう二度とあたし達に関わんないで」
そのまま車いすを前に出し、勝吾から離れようとする。てっきり感情的になって、車いすを止めるか蹴るかしてくるのかと思っていたが、そうはならなかった。ひばりは勝吾がどんな顔でいるのかを見たかったが、振り向けばこちらの負けだと思って振り向かなかった。
ひばりは一人で車いすを動かしていたところ、彼女である橋本るのに発見されて教室まで送ってもらった。
「ひーちゃん、今日一緒に帰れる?」
「今日?るの部活じゃないの?」
「んーん。放課後は体育祭の片づけあるから、邪魔になるかもってことで休みになったんだぁ」
「あ、そうなんだ」
「うんうん。他の文化系もおんなじなんじゃないかな?」
その時、ひばりは思いついた。
そうだ、、、!放課後ならうちの教室で活動する文化部もいないし、残ってる人もみんな体育祭の片づけで外にいるはず、、、!
「ごめん、るの。ちょっとだけ遅くなっても良い?」
「え?うん、大丈夫だけど、、、」
るのの声が途絶えたので、ひばりは不思議がって後ろを向いた。るのが不満そうな顔でこちらを見ている。そんな顔も可愛いな、と思っていると、るのはひばりに顔を近づけた。
「ひーちゃん、何か隠し事、してるでしょ?」
「へ?」
「へ?じゃなくて、か・く・し・ご・と!」
「してないしてない!どうして急に、、、?」
「だってさっきから元気ないし!谷崎くんと何か喋ってた時に怒ってたし!」
「ちょ、何で知ってるの」
「ちょっと目に入っちゃっただけ!」
るのは文字通りぷんぷん怒りながら、ひばりの車いすを小刻みに揺らし出した。
「おりゃ!おりゃ!わたしにだってこのくらいの力あるし!」
「や・め・て・る・の・な・に・し・て・る・の・ほ・ん・と・に」
がくがく震えさせられる車いすの上で、同じように声が振動する。
「わたしもちゃんと頼ってよ!そんなにひ弱じゃないし」
「、、、、、、わ、分かった」
るのの押しに負け、ひばりは話し始めた。そらと二人で話したいことがあるからと言われたこと、勝吾がそらに謝罪をしていたことを伝えるように言ってきたことを。
「成宮さんと?やったね!」
「うそ。ひどい」
るのはひばりが話すたび、表情をころころ変えながらしっかりと聞いてくれた。るののこういうところも、ひばりは大好きなのだ。
「こんな感じ」
ひばりはすべて話し終わって、一息ついた。心の中にあったもやもやが晴れていく気がした。
「こんなに色々あったんだねぇ。頑張った頑張った」
るのはひばりの頭をなでようとして、ここが学校だと思い出したのか、途中でやめて困ったように笑った。
「あ、こんなとこにいた!ひばー!あれ?はっしーもいるじゃん!」
榎田にいなが走ってこちらに向かってくる。
「どうしたの?にいな」
「今教室でしまちゃんがアイス配ってるねん!はよ行かんと溶けてまうでんがな!」
「え、今配ってるの?」
ひばりはにいなのエセ方言には触れずにアイスの方に驚いた。
「そうだよ。クラスグルに連絡来てたでしょ?『今日は帰りのホームルーム無しで、アイス欲しい人は教室来て!』って」
ツッコミを待っていたれなは少し不満そうだ。
「み、見てなかった」
「あーもーほら、さっさと行くよ!」
ひばりは車いすのため、階段を上り下りすることはできない。そこでエレベーターに乗っていくのだが、エレベーターは2年生の教室とは別の号館に設置されている。そのためエレベーターで上がった後、渡り通路を使って教室に行かなければならない。
ひばりとるのはエレベーターから降りて渡り通路を急ぐ。ひばりはアイスが溶ける前に、と急いで先に走っていったが、ひばりが急ぐのには違った理由があった。
ホームルーム無しはマズい!成宮さんが先に帰ってたら今度こそ話すタイミングが、、、!
そらがわざわざアイスのために教室まで行っているとは、ひばりには想像ができなかった。渡り通路を抜け、角を曲がって教室が見えた。と、そのタイミングでそらが教室から出てくる。教室に一番近い階段は、渡り通路から教室へつながる廊下とは反対側にある。そらがこちらに背を向け、ヘッドホンを付け直しながら、階段へと歩いていく。
「あ、立花さん、、、」
次の瞬間、一人の女子が階段を上ってきた。それはひばりでもテレビで見たことがある、大瀬良杏奈もとい、立花うみであった。そして驚いたことに、るのが手を大きく振って彼女を気付かせ、そらの方を指さした。彼女はそらの方を指さして確認し、そらの肩をぽんぽんと叩いた。
そらは彼女に気付くとひどく動揺した様子でヘッドホンを外し、彼女が指をさしている方向へ振り返り、こちらに気付いた。そらはこちらに向かって歩いてきて、彼女の方も教室に戻るためにこちらに向かってきた。彼女の教室は一番渡り通路に近い教室なのだ。
「立花さん、ありがとうね」
「ううん!ナイスタイミング!って感じだったね!」
「あの、ごめん。気付かなかった」
「あ、ううん。こっちこそ急に呼び止めてごめん」
二つの会話が入り混じる。
「じゃ、またね!」
うみはそう言いながらるのに手を振り、ひばりにも手を振った。ひばりも
「ありがとう」
と言いながら手を振ると、彼女は自分の教室に入っていった。
「あ、でさ、成宮さん」
うみの衝撃が大きすぎたが、そらへ言おうとしたことは忘れていない。
「放課後って、時間ある?」
「うん」
「放課後にさ、さっき話せなかったこと、、、、。話してほしい」
「うん。分かった」
そらはそう言うと、安心したように笑った。
「明日でもいいかなって思って。帰ろうとしてたんだ」
「ホントにごめんね。今からちゃんと聞く」
そらと話しながら教室へ向かっていると、にいなが教室から顔を出した。
「おっそい!アイス溶けちゃった!」
にいなが持っていたアイスは完全に溶け、パッケージの中で色のついた液体に変わっていた。




