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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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出会いー立花うみ(1)

 多くの人が誰にも言えない秘密を抱えているように、女優・大瀬良杏奈(おおせらあんな)にも秘密はある。それは本名が立花(たちばな)うみであることだ。芸名と本名を分けたのは母親で、プライベートを守るためだと、うみは言われてきた。実際本名を知っているのは、家族、芸能界の友人、同じ学校の人だけで、それ以外の仕事で会う人などは知ることはない。

 芸能界デビューは14歳の頃、学校を舞台としたドラマの脇役のそのまた脇役で出演した。それを見ていたらしい人気アーティストのМVにヒロインとして出演すると、それをきっかけにブレイクしたのだ。うみにとって芸能の仕事は非常にやりがいのあるものとなった。


 さて、そんなうみは今、海の見える田舎街へと引っ越し、母親のいとこが校長をしている学校へ行くため、母親と共に車に乗っていた。

 これから行く高校は私立で、他校との関わりが少ないこと、偏差値が高く校風も良いことなど、多くの点でうみのプライベートが守られやすい環境であることは間違いなかった。幸いうみ自身も勉強が得意だったので、入学後に授業についていけなくなるという心配もほとんどない。

「ねぇお母さん。やっぱりこの車目立つよぉ」

 二人の乗車する車は青い高級外国車。出発してから周りを見ていたうみは、不安そうに声を上げた。周りはバス、軽トラ、原付などが多く、自動車があったとしてもワゴン車や軽自動車ばかりだということに気が付いた。

「えっ、そう?じゃあ黒く塗る?」

 そういう問題じゃないよ。

 うみは再び外を見る。時折見える海は朝日に照らされて輝き、青い色は全く見えない。と、横を一台のバイクが通った。黒く大きなボディに二人跨り、後ろの人が脱ごうとしたヘルメットを前の人が被せ直している。そのバイクはしばらく直進すると、脇道へと逸れていった。

「今のバイクカッコよかったね!」

「えー、どこ?」


 学校には駐車場がないため、一時的にコンビニに車を置き、ついでに昼食を買うためにコンビニに寄ることにした。うみはゴールデンウィーク明けから別の学校での生活を始めるため、初日から6限まであるのだ。

 うみはゴールデンウィークが始まるタイミングで引っ越したので、休み期間中は荷ほどき、学校の見学と教科書の購入などを行い、休みが休みでなかった。

 ここ数週間の疲れがまだなくならないうみだったが、新しい生活にはわくわくしていた。

 今から行く高校にはどんな人がいるのかなー。優しい人が沢山いたらいいなー。

 そんなことを思いながら母親が会計を済ませるのを隣で待っていると、後ろから視線を感じた。気になってそちらに目をやる。

 後ろには赤髪の大きな男子が立っていた。うみはびっくりしてすぐに前に向き直った。

 い、今の人、制服が私の行く高校のやつだったけど、、、。

 うみは母親に聞いた校風を思い出す。はたして後ろの生徒は、それに当てはまっていただろうか。そう思いながら、コンビニを後にするのだった。

 まぁ、さすがに同じクラスじゃないでしょ。3年生だな、きっと。

 安心しろ、と自分に言い聞かせながら、うみは校門に続く坂を上る。思ったよりも急で長かった。


 学校に着くと生徒が大勢行き来する昇降口は通らず、職員玄関から入った。そのまま校長室へと急ぐ。校長室で校長、クラス担任、学年主任と少し話した後、三人は職員会議へ行った。校長室にはうみと母親だけが残る。

「緊張する?」

 母親はうみに気づかって尋ねた。

「ううん。逆に楽しみ」

 母親はうみの返事を聞くと、安心したような、少し悲しそうな顔をした。これまでずっとわがままを叶えてくれた母親に、うみは心の底から感謝していた。転校の話もうみの方から提案したのだ。

「いつもありがと。おかあさん」

 うみはそう言うと、右手で左手首に触れた。そこにはミサンガがついている。鮮やかな青を基調としていて、白いラインが入っているシンプルなデザインだが、うみは気に入っていた。

 友人からもらったそのミサンガを、うみはその日からずっとつけている。ミサンガには、切れると願いが叶うといういわれがあり、前の学校では流行っていた。


 そんなうみの持つミサンガには、秘密があった。

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