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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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「お前、なんでお父さんいないの?」

 小学生の頃、特に低学年の時は配慮というものを知らない奴が多い。クラスメイトから心無い質問を何度もされてきた。嫌がればその分、

「何こいつ、つまんねー」

 そう言われて冷めた目で見られる。けどうちは嫌がった。必死で働いてくれている母親がバカにされていると思ったから。


「なんの話してんの?」


 ()()()に出会ったのは、小学4年生の時。

「なぁ、こいつん家、父親いねぇんだってさ」

「へー。俺ん家と一緒じゃん」

「え?」

「なんで俺には聞いてこないの?」

 それ以降、遠慮の無い質問が飛んでくることはなくなった。

「俺ん家とおそろじゃん。仲間仲間」

 イエーイ、と言いながらグータッチを求めるあいつが眩しかった。


 今思えば、あの時から惹かれていたのかもしれない。


 それからはあいつと良く遊んだ。あいつは常にグループの輪の中心にいて、一言で言うとやんちゃだった。いつも先生に怒られているし、喧嘩なんて日常茶飯事。なぜか隣にいつも妹を連れ、何度も彼が母親に怒られているところを見てきたし、うちらも巻き添えで何度も怒られた。でも当時はそれが楽しくて、刺激になって、自分の居場所がやっとできたと思えるようになった。

 中学生でもあいつとは一緒にいて、母親が再婚したことを一緒に喜んでくれた。うちは、あいつといることが何よりも楽しかったし、幸せだった。だからあの日のあいつの告白に頷いたことに、今でも後悔はない。


 一度だけ聞いたことがある。なぜあの日、うちを助けてくれたのか。

「無理して笑ってんのが、妹に似てたから」

 あいつはそう言って照れくさそうに俯くのだった。



 今日はそんなあいつの妹の高校2年生の体育祭。今では本当の妹のように可愛い彼女の姿をスマホに収めていく。

「きゃー!!そらちゃんガンバレー!!わー!!1位1位!!」

 彼女のクラスが学年リレーで1位になった時には思わず叫んでしまった。

「ねぇねぇねぇ陽太(ようた)、今のちゃんと見てたー?」

「うるせぇなぁ。見てたって。てかあんまはしゃぎ過ぎんな。バレる」

「なにそれ。じゃあ見に行くよって言っとけば良かったじゃん」

「どーせあいつ嫌がるって」

「ふーーん」

「何だよ」

「別に?」

 うちもあいつも東京からここに来ている。うちは大学に行かない日で、彼女の母親にビデオを撮るついでに自分も見たかったので来たが、あいつは家族になんの連絡もしてないし、何より仕事をサボって来ているらしい。ほんと、素直じゃないんだから。

 うちはあいつをちらっと見た。悲しそうな、嬉しそうな、そんな表情で見つめる先には、見事1位を勝ち取って喜び合う彼女たちの姿があった。


「表情かてぇな、あいつ」


 あいつはそう言いながら無理して笑った。

「ほら、もう帰るぞ」

「えー?!おめでとうって言ってあげないの?!」

「見に来たってバレるだろ!ほら行くぞ!」

「もー!」

 うちはにやにやしながらあいつの後を追う。不器用すぎる優しさがあいつの良さでもあり、同級生から好かれる性格なのだ。しかしそれが実の妹には全く気づかれていないのがまた面白い。

 でもうちには分かる。2人はちゃんとお互いを大切に思い合っていて、心はしっかり繋がっている。

 うちはそんな2人と、何もかもが楽しいと思えた青春を過ごせたことが何よりも嬉しい。


 ばいばい、そらちゃん。また会いに来るからね。

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