体育祭ー成宮そら(3)
「ねえ、成宮さんっていつからひばと仲良いの?」
午前中最後の学年種目、その2年の部のタイフーン。入場して整列し終わり、競技が始まる直前、そらは後ろに座っていた榎田にいなに話しかけられた。体育祭が始まる前には髪のセットや団にちなんだ緑色のハート型フェイスシールを彼女に張ってもらった。おそらくひばりがこれをにいなに頼んだことで、そう思ったのだろう。
「どうだろう。つい最近かな」
そう言いつつ、テスト勉強の時以来避けていたことが頭をよぎる。「仲が良い」なんて言っても向こうは許容してくれるのだろうか、と考え始める前に無理やり方向転換をして、今まで目の端でしかとらえていなかったにいなの顔を初めてしっかりと見てみた。
目元はきりっとしており、笑顔が魅力的だ。教室に響く豪快な笑い声を出す大きな口はチャームポイントで、誰かと喋る時にはいつもにこっとしていて自然と相手と打ち解けてしまう。そらと同じくらいの長さの黒髪は、そらのようなハーフアップではなく団子にして緑色の装飾でカラフルに仕上げている。彼女は応援団で副団長と仲が良いらしく、頻繁にクラスメイトに声をかけて士気を高めさせようとしてくれていた。
「へー。ってか、うちまだちゃんと自己紹介してなかったわ。うち、榎田にいな。みんなからはにーなって言われてるんだぁ。よろしくね」
話が急激に変わり、気づいた時には笑顔で手を振られていた。
「どうよメイク。結構いい感じでしょ?」
そらがよろしくと言う前にまた話が変わり、顔をじろじろと見られる。
「あ、うん。メイクありがとう」
「いいえー。成宮さん素材良いからやりがいあったわぁ」
そうにいなが言うと笛が鳴った。皆が立ち上がる。ここでピストルの音が鳴ると競技の開始である。にいなは立ち上がりながら
「お互い頑張ろうね」
と言うと、そらがそれに返事をする前に隣の女子と喋り始めた。
会話のテンポ、、、。すごく早い。
そらはそう思いながら、開始のピストルの音を聞くのだった。
『えー!午前の部お疲れさまでした!今多分2位で、結構惜しいトコいるんで、午後頑張って優勝しましょう!』
タイフーンが終わって退場し、1位になったことへの興奮の余韻が覚めないまま、あっという間に3年の学年種目が終わって昼休みに入った。教室に戻る前に団長がメガホンを持って団員の前に立って鼓舞すると、団員たちもそれに応えて声を上げる。熱気が凄い。去年とは全く違った。
『あ!あとー!ペアダン出る人ー!昼休み終わる10分前に、グラウンド集合しといてください!それじゃ!休憩ー!』
そらはいつも通り一人で教室に戻る。前をひばりの乗った車椅子を、にいなとれなが押しながら歩いていたが、自分からそこに入っていく勇気はない。かといって後ろにいることに気付かれて声を掛けられるのも気まずくなる。そう考えながらそらは歩く速度を落とし、気配を消しながら少しずつ距離を取っていった。
教室でいつものようにヘッドホンを着け、周りに無心で弁当を食べていると、目の前から人の気配が消えた。見てみると、先ほどまで教室にいた生徒が誰もいない。ミサンガの世界である。
今日はいつもより早い気がするな、、、。
そう思ったが、ヘッドホンを外して廊下へ出る。
「そらちゃ~ん!」
1組の教室からうみの声がした。そらは1組の教室へ行き、ドアを開ける。
「あ、そらちゃん!おつおつ~」
そう言いながら手を振るうみの右膝には大きな絆創膏が貼ってあり、足首にかけて赤い跡がくっきりと残っていた。
「それ、、、」
「これね、ちょっとやっちゃった」
へへっと笑ううみだったが、どこか元気がない。
「タイフーンの時に大コケしちゃってさ。歩けないくらい痛かったんだよねー」
「そんなに、、、」
「そーなの!で、もう走れないからこっからは見学だって」
彼女の元気がない理由が分かった。これまでの彼女の体育祭に対するやる気を考えれば当然だろう。むしろ彼女が楽しみにしていたのは午後の部なのだ。変わってあげられるなら変わってあげたいと、そらは強く思った。しかしこれを言うと、うみは怒るだろう。そう考えたそらが何と声をかけるべきか迷っていると、
「てかさそらちゃん、その髪めっちゃ可愛いんだけど!遠くから見てびっくりした!」
と言いながら、うみが手招きをしてきた。そらはそれに従って彼女に寄っていくと、うみは子どもが手の届かないおもちゃを欲しがるように髪の毛を触りたがって来た。汗臭いかも、べたべたしてる、と思ったが、「んー」と言いながら手をひらひらさせている彼女の仕草に愛おしさを感じ、気づけばしゃがんでしまっていた。
「うわ。めっちゃ丁寧じゃん。すご」
うみに髪を優しく触られ、そらは少しくすぐったくてぞわぞわする感覚に襲われる。
「うちもこれしてみたい!そらちゃんやってー!」
「あ、うん。あ、でもこれ自分でやってないから上手にできないかも」
「そーなの?えー、だれだれ?」
「えっと、榎田さんって人で、、、」
「あー!それってタイフーンの時に話してた子じゃない?」
「え?あ、そう。良く分かったね」
「ちょくちょくそらちゃんこと見てたもん。でもそらちゃん、全然目合わないんだよねー!」
その言葉にそらは嬉しくなる。
「じゃあ、合わせれるように頑張る、、、」
「え、ホントに頼むよー?」
そらは力強くうなずいた。秘密の約束を交わしているようでどきどきする。
「ね、そらちゃん」
内なるそらがガッツポーズをしている横で、うみがそらに話しかける。その声はいつもと同じ、いたずらっぽくて嬉しそうなトーンに戻っていた。
「今日は何しよっか?」




