表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海とミサンガ  作者: 深田おざさ
45/89

体育祭ー立花うみ(2)

 青い空の下、校庭中に4人の団長たちの宣誓が高らかに響いた。体育祭の開幕である。まだ朝だというのに蒸し暑く、日差しも強い。しかし保護者がいることで、皆どこか浮足立っている。準備運動では実行委員があまりやる気のない見本を見せ、いよいよ最初の種目である全員参加の大玉ころがしが始まろうとしていた。

「え、ヤバいヤバい。始まる~」

「っしゃ勝つぞ!」

「黄団に負けんなよー!」

 応援団長を中心に3年生が盛り上がりを見せ、彼らの熱気に当てられた1,2年生がざわつき始める。


『よーい!』

 パン!


 大玉転がしが終わると、玉入れ、徒競走、学年種目が行われて午後の部へ。午後の部は色別ペアダンスに始まり、そこから組体操とダンス、騎馬戦が続き、最後にリレーを行って体育祭が終わる。午後の部は種目が種目なので特に盛り上がり、得点も大きいため午後の部が正念場なのだという。

「ねぇ写真撮ろー!」

「あり!撮ろ撮ろ!!」

 大玉転がしで1位を取ったうみのいる赤団では、玉入れに出場しない生徒たちによる撮影イベントが開催されていた。うみは写真を撮りながらグラウンドの方を見た。ちらっと銀髪が視界に入る。

 そっか、そらちゃん玉入れ出るって言ってたな。

 うみは昨日、ミサンガの世界で互いに出場する種目を確認し合っていたのだ。

 ふと彼女の髪の毛に違和感を感じ、目を凝らした。いつものボブヘアとは違い、ハーフアップを団の色である緑のリボンでまとめている。他の生徒たちも同じように緑のリボンをつけてお揃いにしているところを見ると、事前に決められていたのだろう。

「え待って、緑団の髪可愛くない?」

 桃がそう言って緑団の方を指さした。周りにいた生徒も緑団の方へ視線を向け、良い反応をしている。うみはそらが恰好をお揃いにしているところを見て嬉しくなった。

 そらちゃん、ちゃんとクラスに馴染めてるじゃん、、、!

 感心するうみだったが、すぐさま周りを撮りたいと言ってくる生徒に囲まれてしまい、そらから視線を外すのだった。


「え、ちょっと待って!ウチ結構勝ってね?」

 赤団の団長が興奮気味に騒ぎ始めたのは1年生の学年種目で赤団が1位を取ったあたりからだった。大玉転がしで1位を取ってから、なぜか赤団が強い。予行練習では負けていた玉入れでも1位を取っている。

「オイ!2年!ちゃんと勝ってこいよぉ!」

 次は2年生の学年種目、タイフーンである。4人横一列になって棒を持ち、等間隔に置かれた2つのコーンを左端の人を軸に反時計回りに回っていく。3つ目のコーンで折り返し、再び2つのコーンを周り戻ってくる。受け渡しの際は両端の人が棒を低く持って並んで待っている生徒に飛び越えさせて一番後ろまで行き、今度は棒を高く持って後ろから生徒をかがませて前へ持って行く。そして最前列の4人に棒を渡す。学年種目の中では一番に辛いとされ、両端、特に左端の人は大変なのだ。予行練習ではそらのいる3組に次いで2位だったが、今日はこのままの勢いで1位をかっさらいたいところだ。

 1年生が退場していく間に2年生が入場する。うみたち1組は一番端で、保護者の声が良く聞こえた。

「え、うそだろ母親いるんだけど」

「マジ?」

 そんな男子たちの会話が後ろから聞こえてくる。ふと3組の方を見た。そらが何走目で、どの位置で走るのかが気になったのだ。ちなみにうみは4走目の右端。走る距離は一番長いが、左端で3人分の遠心力に耐えるよりも楽だ。2組の列で少し見にくかったが、そらはすぐに見つけることができた。2走目の右から2番目だった。

 わ、結構早めじゃん。

 そう思って目線を前に戻そうとした瞬間、そらが後ろの女子2人と話しているのが目に入った。それも一言二言ではなく、しっかりとした会話である。

 え、え、そらちゃんが話してる、、、!

 うみは思わず二度見した。そらからも言葉を発しているようだ。後ろにいるうみと同じくらいの髪の長さの女子が笑っている。

 何か初めてかも。そらちゃんが他の子と喋ってるとこ見るの。

「うみちゃん?どしたの?」

 ダンス練習を経て名前呼びをするようになった桃の声で、うみは引き戻された。

「あ、ううん。何でもないよー!」

 うみは前を向いた。先ほどの光景がまだ残っている。

 なんか、体育祭きっかけで色んな人と喋れるようになってて欲しいなー、、、。

 うみはそう思いながら開始の合図を待った。1走者目の男子たちが待ちきれずに飛び跳ねている。


 パン!


 開始の合図とともに、生徒の席と保護者のいる方の両方から声援がなだれ込んできた。1走者目の男子たちは1番早く折り返し、こちらへ戻ってきた。隣にいた桃が他のクラスの情況をチラチラと確認している。棒が足元を凄い勢いで通って行き、頭の上もスムーズに進んでいく。2走者目に棒が渡った時には、他のクラスより頭一つ分リードしていた。

「来た来た来た!ぶっちぎってる!」

 後ろの男子も興奮して叫んでいる。うみは再び3組の方へ目をやった。ちょうどそらの列に棒が渡り、そらたちが走り出すところだ。すぐに歓声と音楽と実況の中、2走者目の棒がうみたちの足元、頭上と駆けていった。3走者目が棒を受け取って走り出す。目の前が開けた。声援があらゆる方向から聞こえ、左隣からは桃たちの興奮した声が聞こえる。3走者目が戻って来て姿勢を低くした。タイミングを合わせてジャンプ。しゃがんで棒を待つ。


「っゴッ!!!」


 手に棒の重みを感じた瞬間には既に左端の女子は走り出していた。立ち上がった勢いそのままに、砂に足を持って行かれないよう小刻みにステップを踏んでスピードを出す。右端に求められるのは、ただただ走ること。うみは左隣の桃を置いていくくらいの勢いで走りながらコーンを回っていく。折り返した時点で既に息は切れていた。2つ目のコーンを回っていく途中で3組の状況が見えた。緑のハチマキをした男子たちが姿勢を低くして列に突っ込んでいった。うみたちも負けじとコーンを回り終え、姿勢を低くして棒を下げ、ジャンプするタイミングを見計らいながら待っている列に突っ込んでいく。

 と、棒を飛ばせるために離脱した真ん中2人のどちらかの足がうみの足に当たった。姿勢を低くしていたうみは姿勢を保てるわけがなく、、、。

『あーっと1組、、、!っと、3組速いです!』

 生徒と保護者からあっという声や悲鳴が聞こえる中、実況が言いかけて止まった。言葉を詰まらせながらも他の組を実況し始める。

 うみは周りの状況をものともせずすぐに立ち上がって棒を後ろまで持って行くと、今度は頭くらいまで棒を上げて折り返し、5走者目に棒を渡した。ジョグで列の一番後ろに行こうとしたとき、右足に刺すような痛みが走った。列に並び、見ると砂まみれになった足に鮮やかな赤い血が滲んでいた。

「うみちゃん本っ当にごめん!大丈夫?!」

 桃がすぐに声をかけてきた。どうやら当たったのは彼女の足らしい。

「大丈夫!これは大丈夫!」

 そう言ったものの、5走者目の棒を飛んだあとのしゃがんだ瞬間に激痛が襲う。うみは声を我慢しながら右足を前の走者の方へ伸ばしてしゃがんだ。

 これちょっとヤバいかも、、、。

 そうは思っていても声に出せない。この種目が終わるまで我慢だ。右足を気にしながらしゃがむ動作を繰り返していると、いつの間にかピストルの音が2回鳴って種目が終わった。うみたち1組は3位である。1位は予行練習と同じく3組だった。結果発表がされる中、うみは耐え切れなくなって桃に言った。


「ちょとごめん。これダメかも、、、」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ