体育祭ー藤堂ひばり(2)
「体育祭が終わったら、ちゃんと話したい。私のこと、、、。」
ひばりはそらにそう言われて少し驚いた。彼女が自分からその話をし始めてくれるとは思ってもいなかったからだ。そらの行動に勇気を感じ、それを自分に向けてくれていることが嬉しかった。朝にはるのに自身の不甲斐なさに涙しているところを助けてもらい、今はそらに手を差し伸べてもらっている。
さっきからみんなに助けてもらってばっかりだ、、、。
ひばりは照れながら返事をした。
「うん。待ってる」
そらはその言葉を聞くと、安心したように静かにうなずいてヘッドホンをつけて前を向いた。それと同時にトイレへ行っていたれなが戻ってくる。
「ん、なんかあった?」
ひばりの顔に嬉しさが出ていたのか、そうれなに聞かれるのであった。
5限と6限は体育祭の練習である。本来はこの時間に応援団や横断幕係の顔合わせをしたり、それぞれの種目決めや走順や作戦を考えたりするのだが、体育祭に力を入れている団やクラスはそれよりも早く準備を開始する。特に応援団はテスト前に顔合わせをするのが恒例で、横断幕も同じくらいのタイミングで作成が始まる。ひばりの所属する2年3組も体育祭に力を入れていたため、種目決めはもうとっくに終わっている。なので今日は各種目で確認も兼ねてのリハーサルを行う予定だった。ひばりは体育祭に出場することはおろかグラウンドや体育館に足を運ぶことすら困難だったので、ペアダンスや玉入れのみ参加するクラスメイトと教室で待機である。
「ひば、うちらひばの分までガチで頑張るから!」
そう言って教室を後にするみんなを、ひばりは見送っていく。すると色別リレーと学年リレーの走者と補欠メンバーがこちらに集まってきた。
「みんなどうしたの?」
「ひば的にはさ、補欠の子をそのまま色別走らせた方が良いか、学年の方から一人色別にやって学年に補欠入れるか、どっちの方が良い?」
ひばりは去年と同じく色別リレーの走者であったため、そこに穴が出てしまったのである。
「うーん、学年から一人色別に入れた方が良い気がする」
自分のせいで、、、。という考え方をしないように頭の中でメンバーのタイム表を作る。
「補欠って当日のトラブルとかで、って気がするし」
「だよね。じゃあうち色別いっても良い?」
「うん。良いと思う。つぐみは陸部だしね」
玉上つぐみはクラスの女子で3番目のタイムを持っている。ひばりがクラスの女子で1番早いので色別に選ばれてはいたが、実際に走ることを意識すると彼女の方が頼もしい。
「分かった。じゃあ補欠の子で学年行ける人ー?」
つぐみはそう言って挙手しながら後ろを振り返るが、補欠メンバーから手は上がらない。だよね~と言いながらつぐみは笑った。ひばりはちらっと補欠のメンバーを見る。彼女はまっすぐにこちらを見ていた。
「、、、。成宮さん」
ひばりはそらの名前を呼んだ。メンバーが一斉に彼女へ向く。
「学年リレー、やっぱりダメ、、、かな、、、?」
種目決めでああなってしまったので、自分の意見を押し付け過ぎないように注意しながらダメもとで頼んだ。ひばり自身もあれから彼女と関わっていく中で、人前に出ることが苦手なのだということをなんとなく理解していた。
そらと目が合った。それは種目決めでひばりに向けられた目とは違う。
「私、やるよ。学年リレー」
そこに集まっていた誰もが驚いただろう。ひばりはぐっとこみ上げる感情を無理矢理抑え込みながら力強くうなずいた。
「ありがとう、成宮さん」
ひばりがそう言うと、つぐみも笑いながら
「助かったよ」
と言った。そらは少し照れくさそうに目を背けるのであった。
それからあっという間に6月に入った。女子バスケ部では大会が本格的に始まり部員たちが熱量を上げていく中、ひばりは怪我の影響でスタメンを外れてしまっていた。全治に向けて無理はせず、たまに練習に顔を出す程度に留まっている。
体育祭に関しても競技を行うことは控えることになっていた。今日はいよいよその体育祭本番である。日に日に蒸し暑さが増していく中で体調を崩す生徒も出てきてはいたものの、昨日はクラス全員が出席していた。今日も全員出席してもらいたいものだ。ひばりは今日も車いすでの登校で、昇降口でるのと合流する。彼女に押してもらいながら自分の教室に向かった。
「ひーちゃん、今日暑いから体調気を付けてね」
「ありがと。るのもね」
「うん。ありがとう」
るのに教室まで送ってもらい、そこで分かれる。教室では榎田にいな率いる女子応援団がデザインを揃えたメイクやヘアアレンジなどを行っており、教室に入ってくる女子も片っ端から掴まっていた。
「なにこれ、、、」
「みんなで一致団結しよう!って副団長が考えてくれたやつだよ!全員にこれやってあげてるんだぁ。あ、ひばもやったげる」
「え、あ、ありがと」
にいなにヘアアレンジをしてもらっていると、そらが教室に入ってきた。
「おはよ。成宮さん」
「おはよう」
「にいな、あたしの終わったら成宮さんにもやったげて」
「え、うちが?」
ひばりの提案にそらが驚く。にいなも良いの?と言いたげにそらの顔をちらっと見た。ひばりとしては競技に出場することはできないが、心を一つにしてそらとも体育祭を楽しみたいのだ。
「良いかな、、、?」
ひばりはそらがこの押しに弱いことは分かっている。
「じゃ、じゃあ榎田さんが迷惑じゃなかったら、、、。お願いします、、、」
ひばりはにいなと目を合わせた。
「分かったよ!やーるーよー!えーっと、成宮さん、えと、ひば終わるまでもうちょい待っててね」
「あ、うん」
にいなとそらが話していることろを初めて見たひばりは少し嬉しくなった。
「二人とも体育祭頑張って」
ひばりのその言葉に、
「うん」
とそらが不安そうに、
「任された」
とにいなが嬉しそうに返すのだった。




