体育祭ー成宮そら(2)
藤堂ひばりが教室を出ていき、それを村川れなが追う。しかし何分かして教室に帰ってきたのはれな一人。しかも泣いたように目の下が赤い。
何かあったのかな、、、。
そう思いながらも話しかけには行けない。成宮そらは自分の席で彼女の帰りを待つ。
もし話しかけられる雰囲気じゃなさそうだったら、今日はやめとこう、、、。
先ほどまでの覚悟は消え去り、保身へと走る考えをし始めた。しかしひばりは一向に帰ってこない。そらは席を立ち、彼女が廊下にいるかの確認がてらトイレへ行こうとした。するとひばりの乗った車いすが1組の先にある廊下を通り過ぎていった。押しているのは橋本るのである。こちらに曲がってこないのを不思議に思ったが、そのまま1組側のトイレへ向かう。しかし中に入ろうとしたところで葉山桃たちの声が聞こえたので、思わずトイレを通り過ぎてしまった。そのままUターンして教室に戻るのも周りに不審な目で見られると思ったので、仕方なく先ほどひばりたちが向かった方へと向かう。
このままぐるっと一周して教室へ帰ろう。きっと藤堂さんたちとも鉢合わせすることはないだろうし。
そう思って角を曲がった。そこで待っていた光景が目に飛び込んできた瞬間、踵を返しトイレを通り過ぎて教室へと急いだ。あまりの驚きに口元を手で覆う。
なんであんなところで止まってるんだ。ぶつかっちゃうところだった、、、。そ、それにあれって、キ、、、キ、、、。
一人で悶々と考えながら席についたそらは、ヘッドホンを付け直しながらテスト前の勉強会を思い出してみる。谷崎勝吾と2年3組に入ったとき、一緒に勉強をすることになったとき、ひばりは嫌そうな顔をしていた。だからそらは2人と勝吾をなるへく遠ざけることかできるように振る舞っていたのだ。あのときは単純に2人は仲の良い友達関係だと思っていた。
い、いやでもまだ2人が付き合ってるって決まったワケでもないし、、、。でも、もし2人が付き合ってたら、、、。
「素敵だなぁ、、、」
思わずでた声は、教室のざわめきに消えていく。
結局そらとひばりは話すことなくその日の午前中を終えようとしていた。4限目の授業が早めに終わったので、実質の昼休みである。ひばりはあのあと、朝のホームルーム開始ぎりぎりに教室に戻ってきた。目元がうっすらと赤くなっていたが、誰もそれには何も言わなかった。その後はクラスの皆がいつも通りにひばりに接していたため、彼女と二人きりになれるようなチャンスはそらには巡ってこなかった。
どうしよう、、。このままじゃ何も伝えられない、、、。
そらはちらっと隣を見た。れなや他のクラスメイトに囲まれており、割って入るような勇気も出ない。やはり今日は彼女が一人になるタイミングがないのだろうか。
と、チャイムが鳴った。昼休みである。
「ペアダンス組は今日は体育館集合ー!」
「応援団!急いでー!」
「えっ、今日横断幕もあるの?!」
それと同時に次々とみな教室から出ていく。残ったのはクラスの半分くらいであったが、ひばりの周りにいた生徒はれなを除いて誰もいなくなった。そらは隣でヘッドホンをつけて昼食を食べる。時折隣から笑い声が聞こえてきたが、不審がられないよう目線をそちらに向けないようにしていた。
昼食を食べ終わってスマホを見ていると、横を誰かが通り過ぎた。歩いている様子だったので、ひばりではない。れなだ。そらはちらっと隣へ目線を向けた。そこには車いすの上でぼーっと前を見ているひばりが一人でいた。
今しかない、今しかない、今しか、、、。
そらは極度の緊張で硬直した体を無理矢理に動かしてヘッドホンを外す。教室はいつもの昼休みよりもずっと静かで途端に不安になった。その瞬間ぎぎっとヘッドホンが音を立て、ひばりがこちらを見た。目が合う。鼓動が早い。口を開けたが声が出てこない。かすれて震える。
「あ、えっと、、、」
ひばりも困ったように目が泳いでいる。
「あ、あの、、、」
だめだ。なんて言ったら良いんだろう。どう言っても藤堂さんに変な目で見られそう、、、。
段々と弱気になっていくそらの頭の中に、立花そらと京鵞なみの声が聞こえてくる。
「失敗してもそれだけで人生が詰む訳じゃないでしょ?大丈夫!」
「そらちゃんがその子とちゃんと向き合えば、向こうも分かってくれるって。だから拒絶なんて絶対されない。大丈夫!」
私だって、一歩踏み出すんだ。大丈夫、、、!
そらはもう一度覚悟を決め、まっすぐにひばりを見た。
「藤堂さん、ごめんなさい」
「、、、え?」
頭を下げるそらの上から、ひばりの困惑した声が聞こえた。
「あれからずっと藤堂さんのこと避けてて、、、。私、藤堂さんもそうなんだろうって、何も知らないくせに勝手に決めつけてて、、、!、、、だから、ごめんなさい」
そらはもう一度頭を下げた。数秒の沈黙が流れる。
「成宮さん、、、」
ひばりの声が聞こえたのと同時に、頭を掴まれて上げさせられた。ひばりと目が合う。
「あたしの方こそ、もっとしっかり成宮さんのこと止めてれば良かった。あの後も話しかける勇気が出なくて、、、。謝るならあたしこそだよ」
その声は震えていた。ああ、彼女は本心で言ってくれている。そう思うのに理由などいらなかった。
「ふふっ。はっず、これ、、、、。」
ひばりはそう言うとそらの頭から手を放して目を背けた。
「こーいうの慣れないんだよなぁ、あたし」
「私も、、、」
二人でふふっと笑った。そらの心の中にあった冷たくて重い不安が溶けだしていく。
勇気が出てくる。きっと彼女には言える、、、。
「あの、藤堂さん」
「ん?」
「体育祭が終わったら、ちゃんと話したい。私のこと、、、」
ひばりはそれを聞くと少し驚いたが、嬉しそうに笑った。
「うん。待ってる」




