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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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体育祭ー藤堂ひばり(1)

 一人でいるといろいろと考えてしまうことが嫌だった。藤堂(とうどう)ひばりは病院のベットで過ごした2日間、何も考えないようにしていた。そうしなければ、不安、怒り、やるせなさ、、、色々な感情に押しつぶされておかしくなりそうだったからだ。

 退院してすぐに学校に行った。教室に着くや否や、クラスメイトに囲まれる。

「えっ、ガチじゃん。大丈夫?」

「いつ治るの?」

 心配や興味の声が混じり合う中で、

「体育祭どーすんの」

 という小さな声が聞こえた。聞き逃せなかったのは、病院の天井を2日間眺めながら無心になろうとしていた時に何度も頭をよぎったからである。

 あたしのせいで皆に迷惑がかかる、、、。足引っ張りまくってる、、、。

 何もできない自分に腹が立ったのと同時に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。喉の奥がつっかえて今にも泣きそうになる。

「ちょっと顧問の先生と話してくる、、、」

 何とかそう振り絞り教室を後にした。廊下に漏れる教室からの声が聞こえるたび、お前はあっちへ行けと退けさせられているような気がする。

「ひば!」

 後ろから村川(むらかわ)れなが走って来た。

「危ないから一人で行かないのー。うちが押してあげよう。ほら、顧問のとこ行くんだっけ?」

「、、、うん」

「おし、じゃー職員室へレッツゴー!」

 彼女はいつものようにハイテンションで車いすを押す。ひばりは前にいる生徒たちがこちらに注目しているのに気づいて顔を伏せた。

「ひば、体調悪い?」

「、、、んーん」

「悪かったら言うんだよー?」

 れなはいつもこうだ。ふざけている時は誰よりもはっちゃけるくせに、周りをよく見ていて不器用な優しさでサポートする。今はその優しさが胸に刺さる。涙があふれてきた。

「ちょちょ、ひば?」

 それに気付いたれなは慌てて人目のないところに車いすを移動させた。

「どうしたんだよー。ほら」

 そう言いながらハンカチを手渡した。ひばりはそれを受け取りながら声を絞り出す。

「、、、ごめん、、、。何でもない、、、。何でも、、、」

 少しの沈黙。時折遠くから生徒たちの声や先生たちの声が響いてくる。

「ひば」

 れなの声が正面から聞こえた。

「ちょっと待ってて。すぐ戻ってくるから」

 そう言うと、正面にあった気配が消えて足音が遠のいていった。


 2分くらい経ったか。嗚咽が止まり落ち着いてきたときに後ろから声がした。

「ひーちゃん」

 それはれなではなく、橋本(はしもと)るのの声だった。

「るの、何で、、、」

「ちょっとね。で、どこ行こうとしてたの?」

「えと、職員室、、、」

「じゃ、ちゃちゃっと行っちゃお!」

「でもれなが、、、」

「その人に頼まれたの!」


 顧問の先生には容態と完治までのおおよその期間を直接伝えた。先生は心配をする訳でもなく、肩を叩いて

「はよ治せ」

 とだけ言った。ひばりにはそれがありがたかった。

 ひばりとるのは職員室をあとにして、教室へ向かう。

「でねー、結局材料足りなくて、ごぼう無しきんぴらごぼうになっちゃったの。でもこの場合ってきんぴらにんじんって言った方が良いかな?」

 彼女は怪我のことや体育祭のことなどには触れずに、ひばりのいない2日間の出来事を楽しそうに話してくれた。ひばりは改めて、周りの人たちに恵まれていると感じた。

 ふと体操着姿の男子生徒たちが横を通り過ぎた。

「そろそろ横断幕できるな」

「間に合ってよかったー!」

「ガチで最優秀頼む!俺らけっこー時間割いたんだからさぁ」

 どうやら横断幕の制作陣らしい。ひばりは通り過ぎるときに目を合わせないように視線を下に向けた。自分の足が視界に入る。途端にまた体育祭に出られないことを考えてしまい、悔しさがにじむ。

「るの、ごめん」

 無意識にるのに謝っていた。

「部活も体育祭も出れないし、今もこうやって車いす押してもらったり、気づかってもらったりして、、、。迷惑かけてばっかりだ。あたし」

 喋り出すと、地の底にあったと思っていた気分がさらに落ち込んでいく。

 あーあ。ダメだな。あたし。


 ぱちんっ!


 両頬に刺さるような痛みが走り、思わず目をつぶった。いたっと声が出る。

「そこまで」

 るのが両手でひばりの頬を叩いたのだ。めったにされないことなので、ひばりはきょとんとしていた。

「わたしの大好きなひーちゃんのこと、だめな人みたいに言うのそこまで、、、!」

 るのはそう言うと、ひばりの両頬から手を放して車いすを押し始めた。

「迷惑かけてばっかりって、それは違うよ。ひーちゃん。わたし好きでやってるんだもん。この時間、すっごく幸せ」

 るのは曲がれば教室につくはずのところを通り過ぎた。だんだんと生徒がいなくなっていく。

「それにクラスの人たちだって、ひーちゃんに迷惑そうな顔してた?」

 ひばりは先ほどの教室の風景を思い浮かべる。みんな心配そうな顔で見ていた。

「顧問の先生だってそう。ね?誰も迷惑だなんて思ってない。だから、、、」

 るのの腕が後ろから伸びてきて、ひばりの体を包んだ。とても暖かい。

「だからそんな顔しないでよ、、、!ひーちゃん、、、!」

 そう言われて初めて、また涙が出ていることに気が付く。泣いていることを自覚すると、いままで抑えていた感情たちがあふれ出してきた。

「ホントは不安で、あたし一生バスケできなかったらって、一生歩けなかったらって、、、!大会とか体育祭とか何もできないのがめっちゃ悔しくて、なのにみんな優しくしてくれるから、もう訳分かんない、、、!」

 言葉の整理もできず、あふれ出る感情を吐き出していく。途中からるのの嗚咽も聞こえた。

「なんでるのも泣いてんの」

「ゔぅ、分かんない」

 二人してふふっと笑い、静かにキスをした。


 涙のせいか、すこししょっぱかった。

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