体育祭ー立花うみ(1)
6月に入り体育祭が近づいてくると、朝のホームルーム前や昼休み、放課後には応援団やペアダンスの集まりが頻繁に行われ、練習が活発になってきた。移動教室の時にちらっと見える横断幕も完成に近づき、着々と体育祭の空気が色濃いものになってきている。立花うみもペアダンス練習に励み、昼休みを完全に潰すこともあった。
「立花さん上手〜!」
毎回のように褒めてくれるのは同じクラスの葉山桃である。彼女といつもいる田辺伊代、長谷川那奈、浦田結花の3人のうち伊代は桃と共にダンス部に所属しており、ペアダンス練習では前に出て見本になっていた。さすがと言うべきか、基本の動きからすでに周りと違っている。
「そんなことないよー!ももちゃんの方が上手いからねー!」
うみは笑いながらそう言うと、さっきの全体での合わせでできなかった動きを動画で確認していく。
「あ、そこはこうやって動くんじゃなくて、体の向き変えながらこうやって動いた方がラクだよ」
桃はうみがダンスが苦手だと言うと、親切にアドバイスをくれるようになった。しかもどれも的確で分かりやすい。
「わ!ホントだ!ありがとうももちゃん!」
「いーえ!」
桃は笑顔でうみから離れていき、伊代や他のダンス部が集まっているところへと向かっていった。
桃はクラスの中心で、女子だけでなく男子とも仲良くいつも誰かしらと話している。男子では特にうみのダンスペアである谷崎勝吾と仲が良く、伊代、那奈、結花の3人、そして結花の前のクラスからの友達2人がいない時は、いつも勝吾の隣にいた。うみ自身は彼女の集団と常にいるわけではなく、前の席の辻美琴ともよく話すし、それ以外の子とも積極的に関わりに行っていた。
「立花さん、次もっかい合わせだって」
振り付けの確認をしていると勝吾が来た。高身長で真っ赤に染めた髪。初めは彼が怖かった。しかしどうやら成宮そらと昼休みに屋上で昼食を共にする仲らしく、ミサンガの世界でそらと会うときに彼女が屋上にいるときは勝吾と居るそうだ。その日のそらはいつもより表情も態度も柔らかい気がする。それを知ってからは彼を怖いとは思わなくなり、そらを大切にしてくれる共通の友達だと思えるようになったのだ。
「はいじゃーいくよー!」
団長の掛け声とともに音楽が流れ、2曲続けて踊った。振り付けは初心者でも本番までには覚えられて動けるような難易度で、技術的な心配はほとんどなかった。一方でペアで顔を見合わせたり、頭をなでたり、手をつないで回ったりと、カップル大喜びの振り付けが曲中にいくつも入り込んでいるため、男子も女子も気になる異性と踊ろうと必死にダンスに一緒に出ようと誘うのだそうだ。
合わせが終わると予鈴5分前になったので、練習は終了となった。各々のクラスへ戻っていく。
「あーあ。メシ食う時間もねぇや」
ボソッと愚痴をこぼしたのは勝吾である。
そういえば谷崎くんとお昼一緒に食べるってそらちゃん言ってたけど、昼練ないときでも最近は教室にいるんだよね。暑いからかな。
うみはふと疑問に思った。後で聞いてみよう、と考えながらうみはいつものように桃たちと離れ、近くのトイレへ向かう。個室に入り、左腕にしている青と白が編み込まれたミサンガをハサミで切った。
ぱちんっ!
「そらちゃーん!!」
うみはミサンガの世界でいつものように教室へ向かう。しかし今日はいなかった。おかしいなと思いつつ念の為に屋上へ行くも、やはり彼女の姿はない。
「え、もしかしてミサンガの世界からはじかれちゃった?!」
こんなことは彼女と出会って1ヶ月も経ってなかったことなので考えもしなかったが、確かにミサンガの世界へのトリガーはうみのみが持っているのだ。そらがこちらの世界へ入れなかったとしても不思議はない。ただずっと二人でいたのだ。急に静かになるのは寂しいものである。
「あ、いたいた。ごめん」
屋上で佇んでいると、後ろから声がした。振り返るとそらがいた。
「わあぁーーー!!そらちゃーーん!!いなくなったと思ったよー!」
うみはそらの姿を捉えた瞬間にどっと力が抜けた。驚くほど安心している。
「どこいってたのー」
「昇降口にちょっと」
「帰ろうとしてたの?体調悪いとか」
「ううん。ちょっとした用事で」
「ふーーーーん」
「ちょ、ちょっと信じてうみちゃん」
そらがたじたじになっているところを見るとどうやら本当らしい。
「しょーがないなぁ。で、どうしたの?」
「体育祭のことでちょっと話してて、、、」
そらはそう言いながら目をそらす。段々と分かってきた。彼女がこうするときは隠しごとをしたいときだ。
「うちのクラスに藤堂さんって人がいるんだけど」
「知ってる!るのちゃんが言ってた!」
うみと同じ部活に所属する橋本るのは口を開けば藤堂ひばりの話をしてくる。なので最近の大怪我のことも知っている。
「その人が怪我しちゃって、、、」
そらがそらしていた目をこちらに戻す。目が合う。
「私、学年リレー走ることになった」




