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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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体育祭ー成宮そら(1)

 朝、クラスの生徒同士の話を聞き、成宮(なるみや)そらは肩透かしを食らったように力が抜けた。藤堂(とうどう)ひばりが休んだ理由を先生はぼかして話していたが、どうやら大けがを負ったようだ。いつも彼女に話しかけている村川(むらかわ)れなも今日は休んでいる。だまされたのでは?と一瞬だけ嫌な予想が頭をよぎったが、昨日の橋本(はしもと)るのの必死なまなざしは本当のものだと、そう直感していた。

 そもそもちゃんと考えたらそれだけのために休むなんて思えない、、、。

 そう思いながらそらは朝のホームルームが終わり授業の準備をしていると、教室の外から自分を呼ぶ声が聞こえた。見るとるのだった。


「ひーちゃん、明後日までは学校に来れないっぽくて、、、」

 そう言って困ったように笑うるのの目の下にはクマができ、目も少し腫れているように見える。よほどひばりのことが心配だったのだろう。

「えっと、足と腕の骨にそれぞれヒビが入っちゃってて、、、。頭も強く打っちゃって、脳震盪の疑いがあるから大事を取って明日も休むって言ってて、、、」

 だんだんと声が小さくなっていくるのの目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

「は、橋本さん、無理しないで、、、」

 そらはそう言ったがるのは首を振る。

「わたしのせいでひーちゃんが、、、」

 そらはこれ以上彼女に話を聞くことはできないと判断して教室に帰した。まずは嫌な予想が全くの見当違いであったことに安心し、そしてそれ以上にひばりの容態が心配になった。






 昼休み、いつものようにミサンガの世界に入ったそらは、トリガーであるミサンガを持つ立花(たちばな)うみのダンス練習に付き合っていた。ダンスはペアで行うということで、そらは男子パートの振り付けでうみの相手をする。そらとしてはまんざらでもない役割だ。今日初めて動画を見たがそこまで難しくなかったので、大まかな動きは大体覚えられそうである。教室で一緒にダンスの振り付けの確認を行っている合間の休憩中、うみが切り出した。

「そういえば今日の朝さ、女の子と話してたじゃん?」

「うん」

 橋本さんのことかな?

 そう思いながら返事をすると、うみは目を輝かせてこっちに寄ってきた。

「るのちゃんでしょ?!橋本るのちゃん」

「あ、え、うん」

 顔が近くて動揺しているそらだったが、うみは気にしないで続ける。

「やっぱりやっぱり?!あの子料理部で、昨日結構喋って連絡先も交換したんだよねー!」

「そうなの?ていうか相変わらずすごい行動力」 

 うみはでっしょー!と言いながらそらの腕を叩く。

「いてっ」

「だからびっくりしてさー!去年同じクラスだったとか?」

「いや、今回のテスト週間に入る直前にたまたま一緒に勉強する機会があったんだよ。そこでちょこっと知り合ったみたいな感じかな」

「へー。テスト勉強かー、、、」

 そう言いながらうみは水を飲むと、急にそらの横腹に頭突きをしてきた。ゔっ!と鈍い声が出る。

「うちも誘ってよー!」

「だってまだ私たちが知り合いだって向こうは知らないだろうし、、、」

「てかなんでこっちで勉強会しなかったんだ!バカかうち!そらちゃん提案してよぉ」

「え、ご、ごめん」

 完全な八つ当たりだったが、思わず反射的に謝ってしまった。

「あーあ。次のテストのときは絶対やろっと!」

 そう言って立ち上がると、うみは再び振り付けの動画を見始めた。さっきまで何十回と聞いた音楽が流れる。

「そういえば、るのちゃんと何話してたの?」

「えーっと、色々と、、、」

 そらがそう言うと、うみはスマホの画面から顔を上げて悪い顔で笑った。

「あれー?そらちゃん。こっちの世界では隠し事はしないって約束だよねぇ?あれぇ?」

「ちょ、ストップストップ!」

「待たないっ!白状してっ!」

「っこ、これはホントに待って!」

 必死そうな声がうみに伝わったのか、彼女は動きを止めた。

「これはもうちょっと待ってほしい、、、。ちゃんと自分の中で覚悟が出来たら言うから、、、」

 そう。いつかは言わなければならない。彼女がこの学校で過ごす中で、きっと嫌でも耳に入ってくるであろうあの噂。それを自分の口から告げることは今のそらにはできなかった。自分に自信をもって、うみに言う覚悟ができてから言うつもりだったのだ。

「、、、。うん。分かった」

 そらはうみが納得しないだろうと思っていたので、彼女が素直に聞いてくれたことに驚いた。

「え、あ、ありがとう」

 そらの言葉に、なぜかうみはまんざらでもない様子だった。






 そうしてあっと言う間に2日が経った。るののいうことが本当であれば、今日はひばりが学校に来る日だ。そらは再び覚悟を決めて教室に入っていく。そこで待っていたのは、クラスメイトに囲まれて車いすに座っているひばりの姿だった。腕と足に包帯が巻かれており、顔色も少し悪い。

「ちょっと顧問の先生と話してくる、、、」

 そらが教室に入ってきたことに気付かないでひばりは廊下に出た。彼女は片手で器用に車いすを操作していたが、れなが慌てて後を追おうとする。と、廊下に出る直前でれなが教室の方を振り返った。目には涙があふれている。

「治るのに時間がかかるし、治ってからも万全の状態になるまでもっと時間かかるって。もうすぐ部活の大会だって、体育祭だってあるのに出れないんだよ、、、?みんなもっとひばりの気持ち考えてあげてよ、、、」

 そうだ。藤堂さんは体育祭のリレー決めの時の熱量が凄かった。行事でそこまで気持ちが入るってことは、部活なんて言ったら、、、。

 さっきまでひばりの状態を見たさに寄って来ていた集団は、ひばりにはどう映っていたのだろうか。そう思うと、そらは何とも言えない感情になった。これは心配か、それとも同情か。


 彼女の廊下に消える背中を、ただただ見つめることしかできなかった。

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