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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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前進ー立花うみ

「例えばだけどさ、、、。私がうみちゃんに見せてる顔がホントの顔じゃなくて、もっと別の顔があったりしたらどう思う?」

 彼女がそう聞いてくれた時、そして初めて感情を剝き出して泣いてくれた時、自分が彼女に受け入れてもらえたのだと、本当の友達なんだと、そう思えた。その後、成宮(なるみや)そらが泣き止むまで立花(たちばな)うみは彼女を抱きしめ続けた。

「、、、もう大丈夫」

 しばらくして嗚咽が収まったそらは、2,3回深呼吸をしてからそう言ってうみから離れようとした。

「ごめん、、、」

 うみが腕をほどこうとした瞬間にそらがそう発したので、うみは逆に腕の力を強めた。

「ちょ、立花さんっ!あ、う、うみちゃん、ちょっと、、、!いててっ」

 まだ「うみちゃん」呼びになれていないのか、突発的に出てくるのは未だ「立花さん」である。ただそれはこれから慣れてくるだろうと、最近はうみは言い直させることはしていない。ただ、、、。

「ごめんじゃなくって、何て言うんだっけー?」

「えっ?あっ、ありがとう、ありがとうっ!」

 うみはそらがそう言うと腕をほどいた。

「いいえ~」

 うみは彼女が何に対しても「ごめん」と謝ってしまうことが気になっていたのだ。自分がする行動を迷惑だと自分で思ってしまっているから、ホンネを言うことで相手が迷惑を被ると考えてしまい消極的になっているのではないか。そう思ったうみは、「ありがとう」に言い換えることができるところは言い直させるようにしていた。

「あのねそらちゃん。うちは全然迷惑なんて思ってないし、頼られるの好きだからさ、もっとわがままになって良いよ」

 そういうとそらは決まって、得意じゃないと苦笑いをするのだった。


「そういえばさー、うち部活入ろうと思ってるんだけど、何がいいかなー」

「部活?」

 本の積み上げが最終段階に入ったところで崩れてしまいやる気を無くしたうみは、体育祭で踊るダンスの振り付けを覚えながらそらに言った。

「そ!部活!」

 ステップの確認をしながらそらの方へ目を向けた。そらはう~んと考えながら口を開く。

「うみちゃんが何をしたいかによると思うけど、、、。運動部か文化部かとかは決めてるの?」

「んーん!全然!」

「じ、じゃあ好きなこととかは、、、?」

「んー、自分が何好きかとか全然良く分かってないんだよねー」

 我ながらなんて適当なんだと思ってしまったうみは、思わず吹き出してしまった。

 せっかくなので、と生徒会室の掲示板にかけてある部活動紹介の冊子を見に行く。野球、サッカー、陸上、バスケ、バレー、バドミントン、水泳、卓球、ダンス、吹奏楽、軽音、美術、料理、手芸、、、。ピンとくるものがない。一緒に入る口実としてそらに入りたい部活がないのかと聞くと、案の定答えはノーだった。


「なんで部活入りたいの?」

 冊子をもって図書室に戻ると、そらが聞いてきた。

「だっておかあさん帰ってくるの遅いしさ!つまんないんだもーん!」

 母親の仕事は日によって時間が違う。昼まで寝ていることもあれば、うみが起きた時にはもう家にいないこともある。ただ帰ってくるのは決まって22時過ぎなので、仕事がある日の夕食はたいてい弁当かインスタント系で済ませている。

「夏だからもっかい体重減らさないとなのにー、、、。あ!そうだそらちゃん!夏プール行こうよ!貸し切りプール!」

 うみは思い付きでそらに提案し、テンションが高くなった。

 いっつも混んでるプールしか行ったことなくてまともに遊べなかったから、超良いじゃん!天才かうち!

 しかしそらはそれに答えず、何か思いついたように冊子を見始めた。

「えー、無視?もしかしてそらちゃん泳げないのかな~?」

「いや、全然泳げるんだけど、、、」

「じゃあ反応せいっおらっ」

 うみは照れ隠しでそらの二の腕をパンチした。そらはいつものように

「いたっ」

 と言ってわざとらしく痛がるが、今日は冊子から目を離さない。

「何してんだよー」

 うみは気になってそらの見ている冊子を覗いた。そらは少しびくっとなったが、それでも冊子をぺらぺらとめくっていく。


「、、、これ」


 そう言いながら見せてきたのは、料理部の紹介ページだった。

「自炊できるようになれば、、、って思って。どうかな」

「は?天才?そらちゃん」

 確かに自炊ができれば夕食の問題は解決するし、将来の為にもなる。さっきまで悩んでいたのが嘘のように、料理部に入りたいと思い始めた。

「よーっし!それじゃミサンガの世界から帰ったらさっそく顧問に突撃だぁ!えっと誰センだ?」

「そ、そんな即決で良いの?もっと悩まなくて、、、」

 うみのガッツポーズを見ていたそらが慌てて止めた。

「こういうのはね、やる気があるうちにぱぱっと行動した方が案外うまくいくんだよ。もし合わないなーって思ったら辞めればいいしね」

 にこにこしながら話すうみに、まだ心配そうなそら。そんな彼女を見ていると、女優として仕事をしていた時に監督から言われた言葉を思い出す。自分も初めはそらのように何もかもが心配だった。

「そらちゃん、挑戦し続けることは生きることだよ!失敗してもそれだけで人生が詰む訳じゃないでしょ?大丈夫!」

 うみは自信満々にグッドポーズをした。

「う、うん。分かった」

 そらはそう言うと、パンフレットを渡しながら顧問の名前を教えてくれるのだった。






 ミサンガの世界から帰ってきたうみは、さっそく顧問である木下(きのした)ふみこ先生のところへ行き、仮入部の意を伝えると、快く承諾してくれた。

「でももうすぐテスト期間だらか、テストが終わったらにしましょうね」

 ということで仮入部の期間が決まり、テスト後の楽しみが一つ増えた。



 テストが終わったその日、うみは木下先生に呼び出されて調理室へと向かった。途中でそらを見かけたが、何やら急いでいるかのように階段を素早く下っていった。

「失礼しま~す」

 調理室に着きドアを開けると、そこには数名の生徒と木下先生が立っていた。

「あ、来た来た。じゃあ皆さん、紹介しますね。立花そらさんです。今日から仮入部で入ることになりました~。拍手~」

 そう言いながらパチパチと手を叩く先生に続くように生徒たちも拍手する。うみは部員を見てみた。冊子には男子もいたが、この場には女子だけしかおらず、心なしか人数が減っているようにも感じる。

「今はこの5人と、あともう2人の7人が所属しています。みんな女子なので、のびのびできますよ」

 そう木下先生が言っていると、ドアが開いて一人入ってきた。すいません!と息切れしながら入ってきたところを見ると、本当に急いで来たのだろうと思わせた。

「あぁ、橋本(はしもと)さんやっときましたね。珍しいですね~」

「すいません、ちょっと急用があったので、、、。って、あれ?あなた1組の、、、」

 橋本るのはうみを見つけた瞬間に驚いた様子だった。

「立花そらって言います!今月転校してきたばっかりなので、色々教えてください!」

 うみは改めて今いる6人の部員に挨拶をした。拍手しながらもざわざわしていたのは、クラスで自己紹介をした時と同じだ。

「よろしくね、立花さん。2組の橋本るのって言います」

 るのがそう言ってうみに笑いかける。

「うん!よろしく!」


 こうしてうみは明日の放課後から、仮入部ではあるものの、料理部として活動することとなった。

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