エンカウントー藤堂ひばり(3)
「別に。谷崎が聞いたことある噂と一緒だよ」
ひばりはあえて自分の口から言いたくなかった。そらと話してみて、彼女がそんなことをするような人間とはどうしても思えなかった。だからこそ申しわけない気分になりそうだったのだ。
「いや俺聞いたことねぇよ。そもそもそういうの疎いんだわ」
「なんで知らないんだよ、、、」
ため息を吐く。
「今から友達と合流するんでしょ?そいつに聞けば?」
「めんど」
勝吾がそう言った瞬間、机の上に置いていた携帯に電話がかかってきた。
「お、ナイスタイミングゆーだい!」
そう言うと勝吾は電話に出ると、スピーカーにして机の上に置いた。
『おーす、部活終わったー』
気だるげな声が教室に響く。
「おいゆーだい!成宮ってわかる?」
『え?分かるよ。めっちゃ有名じゃん』
「そいつにさ、ヤバい噂あるんだろ?どんなの?」
ここで聞くな、、、。
ひばりはそう言いたかったが、言ったところで勝吾は聞かない人間だということをすでに知っている。
『え、どっちの?』
「どっち?二つもあんのか?」
ひばりは自分のスカートが引っ張られる感じがして、ちらっと足元に視線を移した。不安そうな顔のるのが、ひばりのスカートをにぎっている。
「で、どんなの?」
『説明ムズぅ。えーっと、』
そう話している最中、教室の前のドアがガラガラと開いた。
全員がドアを開けた人物の方を見る。
『彼氏のいた女子のこと誘って別れさせて、その女子じゃなくて彼氏の方奪ったってやつと、それ注意したヤツを人使っていじめたってやつ
だった気がするー。てか今どこ居んの?履き替えたからそっち行k』
勝吾が電話を急いで切った時にはもう遅かった。教室のドアを開けた彼女に、一部始終は全て聞かれてしまったのだ。
成宮そらに。
そらはノートを持ってドアの前で立ち尽くしており、ひばりたちも完全に思考が停止している。
「あの、成宮さん」
どうにかしなければとひばりは声をかけたが、どうにもできる状況ではなかった。声をかけた瞬間にそらはびくっと身を縮め、その反動で手に持っていたノートを落とした。そして一言も言わず、こちらから声をかける暇もあたえず、教室を飛び出した。ひばりは急いで後を追おうとしたが、机にぶつかって転んでしまった。すぐに立ち上がり廊下を見たが、既にそらの姿はなく、足音すらも聞こえない。と、そらが落していったノートに足が当たった。
あたしのだ。
彼女は間違えて持って帰りそうになったひばりのノートを届けに戻ってきたのだ。そこで自分に関する悪い内容の話をされていた。彼女の立場で考えれば、それがどれだけ残酷なことだろうか。ひばりは取り返しのつかないことをしたと、心の底から焦っていた。
「気まっず」
勝吾は何故かけたけたと笑っている。
「あんた、どうかしてるよ」
ひばりはさすがに引いた。
「いや、言ったの俺らじゃないし。しかも噂だろ?明日にでも自分たちはこんな噂信じてないって言えば、、、」
「黙って!」
ひばりは思わず声を荒げる。るのが体を強張らせるのが分かった。
「、、、ごめん。落ち着く」
ひばりは深呼吸してノートを拾った。先ほどまで3人で勉強している時に使っていたノート。こんなことになるなんて、思いもしなかった10分前。
「ひーちゃん」
沈黙を破ったのはるのだった。ひばりのもとへ寄る。
「今日はいったん帰ろ?成宮さんももう帰っちゃったし」
るのの泣きそうな震える声で、ひばりは多少冷静になった。
るのの言う通りだ。あれこれ言っても何も変わらない。ここにそらはいないのだ。
「、、、、うん、、、」
ひばりは力なく同意すると、片づけを始めた。
1年の冬休み、部活の休憩中に聞いた噂話は、ひばりが知るころには学校中で話題となっていた。
「銀髪の1年生が、人の彼氏取るためにわざわざ女子の方誘惑したんだって!めっちゃ女子人気あるから!」
「あー!あの子か!スタイルめっちゃ良い子だよね!確かに顔カッコいい系で女子人気高いかも」
「実際うちのクラスでブームきてるし!」
「でも噂ホントならヤバくない?」
「しかもそれだけじゃなくて、それに気付いた別の女子がいじめられてるらしいよ!」
「それ聞いた!他の子にやらせてるってやつでしょ?」
「え、ちょっとマジ?今度から見る目変わっちゃうなー」
「ねぇ、ひばは知ってた?」
「いや、初めて聞いたけど」
「えー。もうすぐクラス替えだし、同じクラスとかなったらちょっと怖いかも」
「それなー!ヤバいマジで」
ひばりは不毛な会話だと思った。話したことはないが廊下ですれ違ったことは何度もある。確かにスタイルは良いし、女子に人気だった気がする。でもそんなことをするような人には思えなかった。というより、そんな度胸があるように見えなかったのだ。男子がドアの前で話していたら声を掛けずにうろうろしていたし、体育祭のリレーの時には一緒にいた友達にずっと、心配だ、転んだらどうしよう、と言っていた。
しばらくすると、また別の噂が出た。
「自分の彼氏がそらに心変わりしたことに腹を立てた女が、そらに関するデマを流した」
これも瞬く間に広まった。しかし、別の人にこの噂を流してもらっているんだ。とかで、こちらの噂は信じられていないらしい。
冬休みが開けて学期末までは、学校には来ているらしいが廊下ですれ違うことはなかった。そしてこの噂を忘れかけていた頃、クラス替えで同じ2年3組となる。
クラスでは大人しく、と言うよりも周りを寄せ付けないオーラがあった。授業以外の学校にいる時間はヘッドホンを付け、机に突っ伏している。昼休みには頻繁に教室からいなくなっていた。そこで改めて、彼女が噂のようなことができる性格ではないのではないか、と思い始めてきたのである。それが具体的な行動になったのが、この前のリレー走者決めの一件だった。
「じゃーなー」
ひばりとるのは勝吾を残し教室を後にする。遠のく2年3組の教室の中からは、勝吾が大きなため息を吐き、ぶつぶつと喋る声が聞こえた。
ひばりは横目で教室を振り返った。遠のく教室は天気のせいもあってか、どんよりと薄暗く、まるで先ほどの教室内の雰囲気のようだ。ひばりはふと勝吾の様子に違和感を感じる。
なんであいつ、あんなに反応軽かったんだろう。それになんだか嬉しそうにしてたような、、、。気のせいかな、、、。




