エンカウントー藤堂ひばり(2)
「谷崎かよ」
ひばりは赤髪の大柄男子を見ると、はぁとため息を吐いた。
「あ?お、藤堂じゃん。ひさひさ」
「うるさい。今勉強中」
ひばりはそう言いながら、内心ひやひやしていた。先ほどの体勢は見られていなかっただろうか。るのの方を見ると、動揺を見せないように一生懸命に教科書を読んでいる。
「まじ?俺も俺も。図書館でやってたんだけどさ、うるせぇって追い出された」
「図書館でやんなよ」
勝吾が近くの椅子に座ったことで、後ろにいたもう一人が見え、それがそらだと分かった。
「あ、成宮さん。成宮さんも残ってたんだ」
「あ、うん。谷崎に教えてた」
「え、何知り合い?」
勝吾は驚いたようにそらを指さしながらひばりに尋ねる。
「同じクラスだっつーの」
「へぇー」
勝吾を白けた目で見ていたひばりは、勝吾の目線がひばりの後ろにちらっと向いたのが分かった。誰?と言うように勝吾がひばりに目線を送る。たまらずため息。
「成宮さんここ使う?あたしたち違う教室行くから良いよ」
そう言いながらひばりは勉強道具を片づけ始めた。
勝吾と関わるといつも面倒なことになる。去年はあやうく部活の試合に出れなくなりそうだったのだ。そしてその時に悟った。
こいつには絶対、るのと関わらせない。
「お、良いのか?あざーす」
勝吾は礼を言いながらどかっと後ろの席に座った。そらは勝吾をあり得ないと言いたげな目で見て、ひばりに目を向けて言った。
「大丈夫。私たちもう帰るから」
「は?帰んの?!」
あまりに唐突だったのだろう。勝吾がびっくりしてそらを見た。
「数学の基礎は大体教えたし、もう良いかなって」
「え、冷た過ぎん?」
勝吾の絶望に満ちた顔が、ひばりには面白かった。くくっと笑いを堪える。と、勝吾たちに背を向けて教科書を読んでいたはずのるのが、くるっと振り返った。
「じゃあ、わたしたちと勉強する?ちょうど数学やってたし」
「ちょっ、るの、、、」
「え、マジ?!」
勝吾の目が輝きだした。
「ガチで感謝!えーっと、、、」
「橋本です」
「あ、学年1位の、、、」
すべてが遅い。るのを勝吾と喋らせてしまい、おまけにそらには学年1位だという情報まで出されてしまった。
あー、くそ。やっぱりこうなっちゃった。
「ごめんなさい、橋本さん。ここの問題だけ教えてくれない?どうしても分かんなくて」
「あ、ここはねー、、、」
結局4人で勉強を始めたのだが、ひばりの想像していたことにはならなかった。女子3人は固まり、勝吾はうるさいからという理由で一人だけ一番後ろの席に座らせた。そして勝吾が唸った時にはそらが見に行くという形になっていた。今はそらがるのに解説を求めているが、基本的にはるのがひばりをサポートし、その間そらは自分のやることをやっている。
「おい藤堂ー。そんなんも解けねぇのかぁー」
時々後ろから勝吾が煽ってきたが、ひばりとしては勝吾がるのにちょっかいを出されるよりもずっとマシだ。それにその度にるのがすぐ隣でくすくす笑っている。
あー、、、。うちの彼女めちゃかわいい。
それだけで勝吾の煽りに対するフラストレーションはどこかに消えていくのだった。
「っしゃー!終わり!」
17時30分を過ぎた頃、勝吾が立ち上がって叫んだ。
「やっと終わった、、、」
そらが椅子にもたれかかって息を吐いた。そしてひと伸びしてから片づけを始めた。
「谷崎、終わったんならさっさと帰れ」
「言われなくても帰るわ!あ嘘、ゆーだい待つわ」
「どうでも良いけど。ここで待たないで。勉強の邪魔だから」
「へいへい」
そんな会話をしているうちに、そらが荷物をまとめて終えた。
「じゃ、また明日ね。成宮さん」
ひばりは挨拶をした。
「うん。じゃあ」
そらは帰ったものの、勝吾はまだ教室にいた。友達の部活が終わり次第合流して帰るらしいのだが、言った数分後には机に突っ伏して寝てしまった。
「やっと静かになったね」
るのはひそひそ声でひばりにささやいた。まだくすくす笑っている。この状況が楽しいのだろう。
「るの、何か楽しそう」
「分かる?」
「うん」
「ひーちゃんの友達知れて嬉しいんだ。あの背高い子、あの噂の成宮さんでしょ?」
「あ、るの知ってるんだ、あれ」
「めっちゃ聞くもん!全然違かったから安心したよぉ」
「だよね。あたしも想像と違い過ぎてびっくりした」
そんな話をしていると、後ろから急に声が聞こえた。
「おいそれ、詳しく聞かせろ」
勝吾がいつの間にか目を覚まして、机に乗せた腕の間に顔を挟んでこちらを見ていた。寝ているものだと思いながら話してしまった自分に頭を抱えそうだ。
勝吾は気まずそうに目を反らすひばりとるのに向かって追い打ちをかけた。
「その噂ってどんなのだ?」




