エンカウントー谷崎勝吾(2)
「そういやお前体育祭の種目何にしたの?」
勝吾は二本目のタバコを吸い終わって一息つくと、そらに尋ねた。勝吾は騎馬戦と色別ペアダンス、そして色別リレーと、3種目もやることになっている。もともと運動が得意な勝吾は、人数のことなどを考えずに立候補する上にじゃんけんも強いので、普通なら多くても2種目で自粛するところを3種目も出ることとなった。
「玉入れと学年リレー、、、」
そらはそう言いながら顔が暗くなった。
「なんで嫌そうなんだよ。出たい種目でじゃん負けした?」
「いやそうじゃなくて、リレーが嫌なだけ」
「なんで?去年も出てたじゃん」
去年の体育祭、色別リレーに出場した勝吾はそらの走順の次の順番の走者で、そらの後ろを走っていた藤堂ひばりからバトンを貰った。だから当時から銀髪だったそらには目がいったし、学年の中でも足が速いと言われていた藤堂にほとんど差を縮められない走りだったので驚いた。
「去年は去年でしょ」
勝吾はタイムが遅くなったことを気にしているのかと思ったのだが、そうではないらしい。
「まぁホントにやりたくないなら他の種目に出てるときにわざと怪我して補欠に代わってもらえば?」
「私が補欠」
「なんなんだよ」
勝吾はてっきり学年リレーのアンカーでもやるのかと思っていたので、拍子抜けした。
「補欠なら別にいいじゃんかよ」
「そうなんだけどさ、そもそもリレーに選ばれ、、、」
そらが不自然に言葉を切ったので、勝吾は何事かと思ってそらを見た。口を半開きにしてぼーっとした顔を一瞬視界の端に捉えたものの、咳払いをして何事もなかったかのようにこちらを見た。
「あ、ごめん」
そらは思い出したかのように謝った。
「えっと、、、。リレーは補欠で、、、」
「それさっき話したぞ」
突然会話のキャッチボールができなくなったそらに勝吾は驚き、同時に呆れた。
「なんで補欠でも嫌なんだって。さっき聞いただろーが」
「そうだった。ごめん」
てか普通直前に聞いた内容忘れっか?
勝吾はそう思いながらそらの言葉を待ったが、
「補欠でも走るかもしれないから」
というものだったので、二回聞いて損したとため息を吐くのだった。
しばらく話していると予鈴が鳴った。2人はいつものように時間をずらして教室へ戻ろうとそらが最初に屋上を出ようとする。いつもそらを先に行かせ、足音が聞こえなくなったら勝吾も屋上を後にするようにしていた。勝吾はドアの方へ歩くそらの姿を見送りながら5限が何だったかを思い出した。
「あ、成宮」
そらは勝吾の呼び掛けに、ドアを開いたまま振り返る。
「なに?」
「次数学なんだけど、教科書貸して」
勝吾がそう言うなり、そらは眉間にしわを寄せて勝吾を睨んだ。
「谷崎、授業ちゃんと聞きなよ。もう私、教科書に答え書かないようにしたから」
「はぁ?!」
勝吾は見透かされて思わず大きな声が出た。そらは毎回のように教科書に答えや途中式を書く。彼女曰く、ノートには余計な計算をしたくないかららしい。勝吾はそれを聞くやいなや、苦手な数学ということもあり、5限に数学があるときで屋上に行くときはほとんど毎回のように教科書を借りていた。そして当てられたときはそらの教科書に書かれたものを言えば良いのだ。勝吾としてはこの上なくありがたかった。しかしどうやらそらはそれに気付いたらしい。
「き、聞いてるって。さすがに!聞いてても分かんないだけだって!」
「そっちの方が問題じゃない?」
そらは開けたドアを閉め、勝吾に向き直った。勝吾は何を言われるのかと身構えた。
「先生の言ったこととか自分でメモしなよ。そうじゃないとテスト大変だよ」
「知ってるっての!うっせ!」
勝吾は鼻息荒く言い返したが、その途端に気付く。
「あれ待って。テストいつだ?」
そらは冗談でしょ、とでも言いたげな顔になった。
「来週の水曜日からだよ」
それを聞いた勝吾はほっとため息を付く。
「なんだよー。まだ1週間以上もあるじゃんか。ビビらせんなよ成宮」
2日もあれば徹夜でワークを終わらせたり教科書を一読することができ、ある程度は頭に入る。しかし理解はできないので、計算などの暗記以外の問題に関しては赤点ギリギリになる。それでも赤点を取らないので、勝吾自身に危機感はなかった。
「範囲はどこか知ってる?」
知らないと答える勝吾に、そらは丁寧に教えてくれる。勝吾はそれを聞いた途端に青ざめた。
「おい!めちゃくちゃ広いじゃねぇか!そんなにあんのか?!」
「しかも数学とか確かワークと同じ問題出さないって言ってたよ。担当一緒だよね」
「は?それマジで?」
そらは頷くと、なにか諦めたような顔で屋上のドアを開けようとした。
「ちょ、待て待て。話し合おうぜ」
「もー。本鈴鳴るよ」
「今日放課後、時間あるか?数学と英語教えてくれ」
勝吾が手を合わせ、頼む!と懇願する。そらは少し考えてから
「、、、別にいいけど」
と言った。勝吾はガッツポーズをして礼を言う。
「ガチで助かる!じゃあ図書館で集合しよーぜ」
「分かった」
勝吾は面倒くさそうに屋上を出ていくそらを見送り、遠ざかる足音を聞きながら空を見上げた。
「あー。勉強めんどくっさ」
そうつぶやくと、大きい伸びを一つしてから屋上を後にした。




