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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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エンカウントー谷崎勝吾(1)

 今日は久々の晴れ。といっても夜中は雨だったため、地面は濡れており、いつにもまして湿気がまとわりついてくる。

 谷崎たにざき勝吾しょうごは屋上へ上り、その濡れ具合を確認した。端の方や少しくぼんだ部分には雨水が多少溜まっているものの、それ以外のところはもう乾いていた。勝吾はいつも昼食を食べるところに座り、スマホを取り出してメールを開いた。

『屋上乾いてたぞ』

 そう連絡すると、さっさとパンの包みをあけて食べ始めるのであった。


「ほんとだ。乾いてる」

 少しすると屋上のドアが開き、成宮なるみやそらが顔を出した。

「おす」

 勝吾は手を上げて挨拶し、その手を自分の口元に近づけてライターの火をつける素振りをする。

「また忘れたの」

「今日寝坊したんだよ」

 そらは呆れながらもスカートの内ポケットに手を突っ込み、水色のライターを取り出して勝吾に投げ渡した。

 勝吾は学校で秘密にタバコを吸っている。憧れた人が学生時代からタバコを吸っていたため、自分もそれに感化されて始めたのだ。しかし勝吾は忘れっぽく、特に急いでいる日には必ずと言って良いほど忘れて来る。そらはそれを予期してライターを持って来てくれるのだ。そんな日は10円をそらに渡す、というルールだった。

「ほいっと」

 勝吾はライターを渡す時に、一緒に10円玉も渡した。そらはそれを受け取ると、弁当を開け始めた。

「流石に忘れすぎじゃない?これでいくらくらいになったんだろ」

「4桁いったか?」

「100回も忘れてるの?」

 流石にそれはないな。

 と思いながら煙を吐く。思えば、今日は久々に屋上でそらと話す日だった。雨や勝吾側の用事で屋上へ行けない日が続き、ゴールデンウィークが明けてから3週目なのに、まだ3回目の屋上での昼食である。

「おい!聞いて驚け成宮!」

 勝吾は思い出したようにパッと立ち上がって得意げにそらを指さした。そらが怪訝そうに勝吾を見る。

「なんと俺!立花さんとペアダンスやることになりました!よっ!」

 勝吾はそう言いながら自分で拍手をする。そらにも拍手を促すように目線を送るが、そらは呆れたように首を振って弁当に目を戻した。

「え?反応うっす」

 勝吾はあまりに薄情なそらに若干困惑した。勝吾はここ一週間の中でも一番の話題を出したと思っていただけに、彼女の反応は予想外だったのだ。

「立花さんだぞ?大瀬良杏奈!いや俺凄くね?マジで。結構うちのクラスで立花さんにベアダン申し込んでる人いたんだけどさー」

「谷崎が選ばれたのって、タバコの件があったからでしょ?」

 そらの言葉に図星を食らう。

「いやそうだけど!お前のお陰かもしんねーけど!」

 そらはやっぱりね、という顔でまた勝吾の方へ目を向ける。

 こいつ、めちゃめちゃ見透かしてくるじゃん。なんか探偵みたいになってんな。

「ちっ。面白味がねーな。ったく」

 勝吾は若干不貞腐れて座り直した。そらは黙々と弁当を食べ続ける。久しぶりの晴れた青空を見上げた勝吾は、その眩しさに目を細めるのだった。

「あちーなー」


 そらが弁当を食べ終わったタイミングで、勝吾はまたライターを借りて火をつけた。

「、、、谷崎は立花さんのことが、その、、好きなの?」

 唐突すぎる話に勝吾はむせた。

「は?」

「ペアダンス誘うくらいだから、そーなのかなー。みたいな」

「あー、、、」

 勝吾は少し間をおいた。タバコの煙が風に揺らぐ。好きか嫌いかで言えば、正直なところどちらでもない。勝吾としては彼女に対しての恋愛的な感情は一切ないのだ。むしろ自分が彼女と付き合えるイメージがまるでない。

「好きっつーか、憧れ?的な」

「憧れ?」

「んーなんか、別に付き合ってどうこうしたいっていうのじゃねーな。サッカー選手とパスパスしたい、みたいな感じ?」

 我ながら良い例えが浮かんだと思い、また得意げにそらを指さした。しかしそらはまだ良く分かっていなさそうである。自分の中で噛み砕いて理解しようとしていた。

「アイドルとの握手会みたいな感じ?」

「あー。まぁそんなんだ多分」

 勝吾はアイドル界隈のことなど何も分からなかったが、まぁきっと同じようなもんだろ、と思いそういうことにした。

「好きとかそういう感情はねーな。今んとこ」

 それだけはきっぱりと言った。変なところから妙な噂が立つのはごめんだ。勝吾にはただでさえ、誰々が誰々と付き合った、誰々が誰々のことが嫌いらしい、といったような噂話が回ってこない。勝吾自身、そういう裏で話されるのが嫌いだと周りに言っているのもあってのことだろう。

「男子って良く分かんないや」

「そーか?女子もゆーてそんなもんじゃね?ゆーだいとかめちゃ誘われてたぞ」

「誰か知らないけど。そーなんだ」

 同じクラスで仲の良いせき雄大ゆうだいは、種目決めの1週間前くらいから女子に頻繁にペアダンスに誘われていた。勝吾自身も何度か女子の伝言代わりにされたので、余計にそれを実感していた。

「けどな成宮。世の中モテる奴が勝ちって訳じゃねぇんだよ」

「へー」

 勝吾のどや顔を一切見ずに、そらはまるで興味のない返事をした。勝吾はやれやれと思いながらタバコの煙を吐くのだった。

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