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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
29/89

梅雨ー藤堂ひばり(3)

「ひばー」

「はい!」

 放課後、大会本番を明日に控えた女子バスケ部はハードな練習はせず、前日調整として軽い練習をしていた。ひばりはいつも通りアップの流れで基礎練習を終えて水を飲んでいると、男子バスケ部の副部長である伊尾木(いおき)雄平(ゆうへい)に呼ばれた。

「なんですか?」

「ちょ、あれ取って。水筒」

 指をさす先にはステージがあり、端にずらっと水筒が並んでいる。

「え、どれですか」

「ほらあの、右はじっこの白」

「あー、あのでっかいやつですね」

「そうそれ!頼むー」

「待っててください」

 ひばりは走って取りに行く。

「これ?」

 ステージ側でそのやり取りを見守っていた先輩マネージャーが白い水筒を渡してくれた。

「それです。あざっす」

「モテモテじゃーん」

「マジでやめてくださいってー」

 ひばりは伊尾木に水筒を届けると、女バスの先輩に囲まれた。

「おいー、ひばー。練習中にいちゃつくなよー?」

「マジで違うんですってー」

 伊尾木は何かとひばりを頼ってくる。何度も遊びに誘われたりもしているが、その度に丁重にお断りをしている。彼は学校の中で人気らしいが、長い付き合いになる女バスの先輩には特に人気はなく、何かあるたびに妬まれるどころか冷やかされていた。

「ホントに付き合ってないのー?」

「付き合ってないですって」

「流石に付き合わんでしょ。ウチらがあいつは性格クズだってずーっと言ってるから」

「そうじゃなくても付き合いませんよ」

 ひばりは大会直前にも関わらず、緊張感のない彼女たちにボールを渡す。とはいっても本番ではしっかりと集中してこれまでも結果を出してきた人たちなので、ひばりは彼女たちを尊敬していた。

「他に誰かいるのかね。彼氏が」

「いないですって。ほらもー、シュー練しましょーよー」

 ひばりは頑張って話題を終わらせようとした。その瞬間に顧問が入って来て笛を鳴らしたので、なんとか助かった。

 ()()のこと、そろそろバレそー、、、。あの人たち、勘だけは鋭いんだよなー。

 ひばりは内心ひやひやしていた。()()がバレると、それこそ冷やかされるだろうし、噂になるだろう。そう考えたひばりは信頼する彼女たちにでさえ秘密にしておくことにしたのだ。


「それじゃ、明日は6時半に校門前に集合すること。明日明後日の2日間だけだし、大会と言っても準公式だけど、相手はクラブチームだから。本気でいかないと負けるよ。気を引き締め直しておくように。以上」

「気をつけ、礼」

「ありがとうございました!」

 練習が終わり解散すると、また伊尾木が近づいてきた。

「ひばー、水筒さんきゅー」

「はい」

「じゃー帰るかー」

 彼はそう言いながら、ひばりの横に並ぼうとした。

「はいはいはいはい、そこまでーーー!」

「すいませーん、うちのルーキーに手ぇ出さないでくれますー?」

 先輩の奥野(おくの)きくと六谷(ろくたに)ことのが間に割って入り、伊尾木を追い払おうとする。

「おいダルいってー」

 伊尾木はそう言いながらも少しづつ離れていく。

「おら、早く帰れ。こっちは明日っから大会なんだよ」

 きくの威嚇もあり、結局伊尾木は部員の男子と帰るようだ。ずんずんと前に歩いて行ってしまった。

「ありがとうございます」

「はーあ、罪な女ね」

 きくのはふざけてそう言いながら肩をぽんぽんと叩いた。

「いーい?家おいでって言われたら、マジでうちらに電話しなよ?」

「助かりますホント」

「じゃーねー」

「また明日ー」

「大会がんばろねー」

「はい、お疲れ様でした!」

 ひばりは先輩たちを見送ると、同じ部活に所属するれなたちところに行き、だらだらと話しながら体育館を出る。

「結局、付き合ってないの?」

「さすがにありえないって」

 れなにも一通り言及され、校門に着く。

「あれ、帰らんの?」

 ひばりが立ち止まったので、れながこちらを振り返る。

「うん。今日料理部あるから」

「あ、じゃあ()()()と帰るんだ」

「うん」

「じゃ、また明日ねー」

「がんばれよレギュラー!」

「ありがとー。じゃねー!」

 れなたちを見送ると、ひばりは一息ついてスマホを取り出して着信を確認する。まだ連絡は来ていない。そのまま校門の壁に寄りかかって傘を差し、先ほど自動販売機で買ったスポーツドリンクを飲もうとする。


「わ!」


 ひばりが口に飲み物を入れた瞬間、後ろから一人の女子が目の前に飛び出してきた。驚いたことで飲み物が変な部分に入り、思いきりむせる。

「あ、ごめんひーちゃん!大丈夫?!」

 彼女はひばりの様子に気付き、慌ててハンカチを取り出す。

「げほっげほ、、。大丈夫。ありがと。るの」

 ひばりはハンカチを受け取りながら、橋本(はしもと)るのに礼を言った。

「さすがにビビった」

 ひばりは落ち着いてからるのに笑いかけた。るのは申し訳なさそうにへへっと笑う。

「じゃ、帰っか」

 ひばりはそう言うと歩き出した。隣をるのが歩く。ひばりはゆっくり歩いて、頭一つ分小さいるのの歩幅に合わせた。時刻は19時を過ぎ、既に太陽が沈んだのかそらは暗く、小雨の中で近くの家からはおいしそうな香りが漂ってくる。周りの帰宅する生徒に抜かれながら、二人は自分たちのペースで歩いて帰りを急がない。

「今日もがっつり部活やったんだ。大会明日だったよね?」

「まぁ今日は調整みたいな感じだったから、そこまでがっつりじゃなかったよ」

「え、なんかプロ選手みたいだった今の」

「なにそれ」

 ひばりは笑いながら、またスポーツドリンクを飲むのだった。


「あ、そうだ。今日のやつ!」

 しばらく歩いていると、るのは自分の傘を閉じ、思い出したように自分のバックをあさり出した。ひばりは彼女が濡れないように自分の傘に入れる。するとるのがバッグから紙の小包を取り出し、開け始めた。

「さっき作ったばっかだよ」

「え、なになに」

 ひばりがわくわくしていると、中から一口サイズのクッキーがあらわれた。

「はい、あーん」

 るのはそのままひばりの口に近づける。

「え、ちょちょ」

 ひばりは慌ててあたりを見渡し、人影がないことを確かめるとぱくっと口の中に入れた。あまじょっぱい風味が口の中に広がった。

「うわ、めっちゃうま」

「でっしょー」

 るのは得意げにそう言うと、そのままひばりの傘の中で歩き始め、ひばりが傘を持つ左手に抱きついて肩に頭をこてんと乗せた。

「ちょ、るの。誰かいるかもよ」

「大丈夫だってー。みんな帰ったよ」

 ひばりはそれを振りほどくことなく歩く。るのは時々離れ、小包からクッキーを取り出してひばりに食べさせてくれる。

 この時間がずっと続けばいいのになー。

 クッキーを食べながら、ひばりはそう思った。しかしこの時間は二人の下校時間が合い、周りに誰もいない時にしか訪れない。それでもひばりにとっては本当に一番幸せな時間だった。



 藤堂ひばりには、誰にも言えない秘密がある。




 藤堂ひばりと橋本るのは、誰にも秘密で付き合う、この学校で唯一の同性カップルなのだ。

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