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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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梅雨ー藤堂ひばり(2)

 ひばりの言葉に、クラスの空気が一気に変わった。騎馬戦の騎手決めに騒いでいた後ろの方の塊は驚いてひばりとそらを交互に見る。そら自身も、何言ってるんだと言わんばかりにこちらを横目に見ていた。

「成宮さん去年色別のリレー出てたじゃん。今年はリレー出ないの?」

「ちょ、ひばり、、、」

 後ろの席のれなが小声で制服を引っ張る。

 正直ひばりにとって()()()なんて心底どうでも良いものだった。それに今は体育祭のリレーの話をしているのだ。本気で勝ちたいのなら、噂がどうこう言って何もしないよりも彼女を出すべきだと、そう思った。

「私は、、、」

 そらは何か言いかけたが、そのまま黙ってしまう。

「去年はあたしと同じ走順で全然距離詰めれなかったから、相当速いと思うんだけどさ。立花さん今年の50m走タイムいくつ?」

「んと、8秒前半くらいだったと思う」

 ひばりはそれを聞いて目を見開いた。

 絶対嘘だ。あたしが7秒72だから、そんなに遅いはず、、、。

「藤堂さんは部活やってるけど、私帰宅部だから。衰えたのかも、、」

「嘘。手抜いたでしょ」

 ひばりはできるのにやらない人が嫌いだった。まるで一生懸命にもがく自分をあざ笑っているかのように感じるのだ。彼女はいつもそうだ。決して自分のことをはっきりと出そうとしない。授業でも、運動でも。そして今この瞬間もそうだ。

「藤堂」

 担任の島田先生の声が聞こえ、そらからそちらへ視線を移す。視界に入る生徒が心配そうにこちらを見ていた。


 あ、雰囲気壊した。


 ひばりは察する。さっきまでの活気は無くなり、もうやめてくれと言わんばかりにこちらを見つめていた。後ろのれなはまだ制服を引っ張っている。と、島田が口を開いた。

「さっきは勝ってほしいって言ったけど強要はしない。藤堂のやるなら真剣にやりたいって気持ちは十分わかる。ただみんなそれぞれ違う人間だから、勿論そうじゃない考えの生徒もいるんだよ。藤堂、そこを考えてあげられたら、みんなが楽しめるんじゃないかな」

 先生の言う通りだ。あたし一人の気持ちで決めていいわけじゃない。

 ひばりは頷いて、そのまま黙ってしまった。

「成宮」

 気まずい沈黙を破ったのは島田だった。そらが島田の方へ視線を向ける。

「どうしたい?さっきも言ったけど、強要はしないから」

「私は、、、」

 そらはそこまで言い、また黙ってしまった。ひばりは横目で彼女を見る。手を机の下で握りしめているのが見えた。

「あ、間をとって補欠とかならどうかな」

 我慢しきれなくなり、学級委員が口を開いた。何とかこの場をうまくまとめようとしてくれている。ひばりはそれを感じてフォローした。

「それなら実質走らないようなもんだしね」

 ひばりとしては彼女に走ってもらいたかったが、これ以上は粘っても仕方ないと割り切った。そらは少し考えてから、何か諦めたように深くうなずく。

「分かった。補欠やるよ」


 その後は男子たちのお陰で活気が戻り、騎馬戦の騎手や徒競走の走順をあらかた決めたところで6限のチャイムが鳴った。ひとまず連絡事項と来週の予定、掃除当番の確認と終わりの挨拶を済ませ、そのまま流れ解散となった。

「成宮さん」

 ひばりは部活に行く前に、そらに話しかけた。そらがこちらを見てヘッドホンを外した。

「ごめん。さすがに自己中だった」

 そう言うと、ひばりはそらに頭を下げる。自分勝手に突っ走った挙句、クラスの空気を壊してしまった。それだけでなく彼女にも迷惑をかけたと、心から反省する。

「ううん。私もごめん。はっきり言えてたらあんなことなんなかったと思う」

「いや、、、」

 ひばりは彼女のことをフォローしようとしたが、うまく言葉が出てこなかった。肯定するのも否定するのも違うと、直感でそう思った。

「じゃあ私、そろそろ帰るね」

 結局そらに気を使わせてしまった。

「あ、うん。、、、じゃあね」

「うん」

 そらはそう言うと、ヘッドホンをつけて教室を出ていった。

「ねぇー!マジで焦ったって!」

 彼女がいなくなるや否や、先ほど制服を引っ張ってきていたれなが駆け寄ってきた。

「ごめん」

 ひばりはれなに謝り、

「みんなも、空気壊してごめん」

 と残っていたクラスメイトにも謝る。

「良いって」

「ドンマーイ!」

「ガチで焦ったわー」

「それな!」

「あはは」

 ひばりは彼ら彼女らの言葉を聞いて一安心するのだった。

 にしても、、、。

 ひばりは改めてそらのことを考える。全くやる気がなさそうで、いつも気だるい雰囲気を出していると、同じクラスになってからひばりはそう思っていた。ただ今日初めて彼女と喋った印象と、さきほどの机の下で握りしめた拳を思い出すと、本当はそうではないのかもしれないのではないかと考えが変わってきた。

 また来週、ちょっと話しかけてみよ。

 ひばりはそう決心すると、バスケ部の練習のために教室を後にするのだった。

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