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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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梅雨―成宮そら(3)

 二人は小一時間ほど話し、元の世界に戻ることにした。

「あ、そらちゃん」

 うみがハサミを持ってからそらに話しかけた。

「なに?」

「来週からダンスの練習付き合って!うち、踊るのマジで苦手だからさぁ!」

 男女別種目のダンスはもちろん、うみは色別のペアダンスの振り付けも覚える必要があるのだ。

「うん。分かった」

 そらは笑いながらそれに答えた。うみはどんどん新しいことに挑戦し、それにそらを巻き込んで色々なことを経験させてくれる。彼女といれば退屈をする方が難しい。

「じゃあまた明日ね!」

「うん。また明日」

 元の世界に戻るためのトリガーとしてうみが誰にも見られずにミサンガを切る必要があるため、そらは後ろを向いた。ぱちんっと音がする。






 目の前が一瞬白くなって、ミサンガの世界に行く前の状態に戻った。トイレの帰りに廊下を歩いている。

「それでさー!あいつがさー、、、」

 隣を同じクラスの女子が通り、そらに気付くと一瞬言葉を切って完全に通り過ぎるのを待ってから再び会話を始める。そらはそれに気付いているが、振り返って彼女たちに言及することはない。()()()が広まってしまったことと、そら自身が他人と積極的に関わりにいくタイプではないことがあり、完全に()()()存在になってしまった。


 5時間目の授業のチャイムが鳴り、担任の島田が入ってくる。

「おーし座れー!種目決めすっぞー!」

「きたー!」

「イェーイ!」

 島田の声に生徒たちが盛り上がる。島田はそのまま学級委員にバトンタッチし、パイプ椅子を前に持ってきてそこに座った。学級委員がすらすらと種目を黒板に書いていく。

「じゃあまずやりたい種目に手挙げてくださーい!」

 クラス全体が盛り上がる中、そらは玉入れが定員割れすることを願っていた。

「じゃあ玉入れー!」

 学級委員の言葉に、クラスの数人が手を挙げる。全員が文化部で体育祭に渋い顔を向けている生徒だ。その中で小さくそらも手を挙げる。

「じゃあ今手挙げてる人は決定でー!紙回すからそれに名前書いてってくださーい!」


 その後も難なく学年種目が決まっていき、残るはリレーだけとなった。

「リレーガチる?どーする?」

「とりあえず色別はタイム順に出しといたほうが良いよね」

 色別リレーは各学年で男女2人づつ選出し男女混合で行われ、配点が一番高いこともあり熱量が最もある種目である。走者はクラスで最も速い男女各二人を選ぶことが暗黙の了解だった。一方の学年リレーは男女別で行われ、男女ともに6人と補欠2名の計8人が選出される。こちらも配点は高く、力を入れているクラスはタイム順に選出するが、そうでもないクラスは希望者を選出する。しかし手を挙げる人はほとんどいないので結局タイム順に選出されることが多いが、それでも本当に出たくない人がいることもあり、比較的差が開きやすい。

「まぁ、先生としては勝ってもらいたいけどね。職員室でデカい顔できるし」

「先生サイテー」

「生徒利用すんなし」

 島田の本音にブーイングを起こす生徒だったが、結局はタイム順に選出することとなった。

 さて、こうなったことで身を縮めたのはそらである。実はそらは足が速く、1年の頃は色別リレーに選出される程であった。しかし2年になって目立ちたくなかったそらは4月の体力測定で手を抜いて走ったものの、8秒前半のタイムを出している。これがどれだけ響くか。


 そらの心配は杞憂に終わった。タイムとしては学年リレーにギリギリ補欠にも選ばれないくらいの順位で、色別も学年もリレーには選ばれなかったことで、そらは胸をなでおろした。しかし今年はうみのペアダンスが気になる。勝吾が下心丸出しだった場合、それはなんとしても阻止したい。しかし一方でこれからミサンガの世界でダンスの練習を一緒にやっていくことに心躍った。

 めっちゃ複雑な感情だなぁ、、、。

 そらはふぅと小さくため息をつき、席に座り直した。その時だった。


「ちょっと待って」


 そらの右隣から声が聞こえた。ちらっと右に視線を向ける。

 ベリーショートの黒髪が特徴的な、女子バスケ部の藤堂(とうどう)ひばりが手を挙げていた。クラスの中でもカースト上位の女子で、男勝りな容姿と性格から女子にも人気という噂がある。

「どうしたの?ひばり」

 学級委員が藤堂を指すと、それまで騎馬戦の騎手決めで騒いでいた生徒たちが声のボリュームを落とし、藤堂の言葉を待った。藤堂が口を開く。


「リレーさ、ゼッタイ成宮さん入れた方が良いよ」

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