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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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梅雨ー成宮そら(1)

 ミサンガの世界で立花(たちばな)うみと約束をしてからおよそ一週間が経った。5月も中旬から終わりへとさしかかり、すっかり雨模様が続くようになっていた。じめじめした空気は不快なほど肌にまとわりつき、我慢しがたい気温は日に日に高くなっていっているようだ。一年の中で何をするにも最もやる気の出ないこの季節にも、相変わらず学校はいつも通りに授業を進めていく。2年にもなると、ずる休みなのか、ぽつぽつと欠席も出てきた。

 成宮(なるみや)そらは他の生徒とは違い、最近になって学校に行くことが楽しみになっている。1日に1回はミサンガの世界で思いを寄せるうみと二人で過ごすことが習慣となっているからだ。タイミングは昼休みの終わりの方で、視界が一瞬真っ白になることが合図で、その世界がやってくる。


「今日はね、価値観一致ゲームするよ!!」

 この日も雨だったが、二人は外に出て、折り畳み傘をこうもり傘にしてどれだけ雨水を貯められるかを検証していた。20分ほど苦戦した結果、貯まった雨水を全てひっくり返し、二人そろってびしょびしょになったところで切り上げて校内に戻ってきていた。

 

現実世界の学校では今日から衣替えの移行期間に入ったため、そらのクラスでもワイシャツやポロシャツの生徒が何人かいた。そらは長袖のワイシャツを二回折りして登校し、ミサンガの世界でうみと会った。うみもワイシャツで長袖を三回折りしていたが、水色の髪留めを袖に付けていたりシュシュをミサンガを付けている側と反対の腕に付けていたりして、いかにもおしゃれな高校生の恰好をしていた。そらはうみのじわりと汗ばむ肌に少しどきっとしたが、顔に出ないように、そして見過ぎないように取り繕うのであった。


「どんなゲーム?」

「お題に直感で答えて、揃ったらやったー!って感じのゲーム!」

 うみはそう言いながら机を向か合わせ、準備室から持ってきたホワイトボードをそらに渡した。あまりにもざっくりした説明に、そらはふっと笑った。

「大体分かった」

「よっしゃ!じゃあお題は交互に出してこー!」

「分かった。じゃあ立花さん、先にお願い」

()()()()、、、?何だってぇー?」

「あ、えっと、う、うみちゃんから、、、」

「ラジャ!!」

 そらはまだ慣れない呼び方に少し口ごもる。これはうみがそらに課せた決まり事だった。


 うみのわがままに付き合う代わりに、そらがホンネを言えるようにする練習をする。


 ミサンガの世界でそう約束をした次の日、ミサンガの世界でうみがそらに言った。

「これからこの世界の中で、うちのことはうみちゃんって呼ぶこと!」

「な、何で急に?」

「うち、遠慮されるのが嫌いって言ったでしょ?だから名前呼びで距離感近く行こう!ってことで」

「なるほど」

「あと、感想沢山言うこと!」

「感想?」

「そう!すごい景色見たらきれい!って言ったり、やる気でなかったらめんどくさーい!って言ってみたり、晴れた日はやったー!って言ったりとか、とにかくぱって頭に出てきたこと言って!そういうのが自分のホント出す一番簡単な方法だからさ!」

 そらは自分のためにうみが色々なことを考えてくれていることにそこで気付いた。

「ごめん、私のために、、、」

「ちょい!!そこはさ!ごめんねじゃなくてありがとねって言う!」

「あ、うん。ありがとう、たちば、あっ、うみちゃん」

「よろしいよろしい」

 そう言いながら、うみは得意げに鼻を鳴らすのだった。


「じゃあえっとー、ペットとして飼うならどの動物!」

 さっそくうみがお題を提示し、二人でホワイトボードに書いていく。

「書けたー?」

「うん」

「じゃあ行くよ!せーのっ!」

 そらはうみがやったようにホワイトボードをうみに見せた。うみのホワイトボードには「猫」と書いてある。

「えーー!トカゲって!爬虫類いくかーっ!」

 うみはそらのホワイトボードを見て思わず立ち上がった。そらはうみの勢いに驚いてペンを落とした。

「普通は哺乳類っしょー!」

「最初は犬ってしようとしたけど前飼ってたことあったから、ここはまだ飼ったことないとこにいこうかなって」

「だとしてもわんちゃんかー!」

「うみちゃんは何で猫なの?」

「うちちっちゃい頃わんちゃんに噛まれたことあって、それ以来トラウマなんだよねー。ほらこれ」

 そういいながらうみはワイシャツをたくし上げて、二の腕をそらに見せた。綺麗な白い肌に少し凹凸ができており、古傷の跡が見えた。

「うわ、結構深い」

「でしょー」

 心配するそらに向かって、なぜか得意げなうみ。

「何かカッコよくない?古傷」

「中学生男子みたい。いてっ」

 そらはうみに叩かれながらペンを拾う。

「じゃあ次っ!そらちゃん!」

「えとじゃあ、今食べたいお菓子は?」

「うわー!迷うー!何しよ!」

 一人でわちゃわちゃしているうみの姿が愛おしく、そらは書くこともせずにただ彼女を見つめていた。

「なにー?書けたの?」

「あ、ごめんまだ、、、」

「何してんだよー!」

 けたけた笑ううみの声を聞きながら、そらは慌てて書こうとしてペンを止める。

「ごめん。私お題なんて言ったっけ」

「うそでしょ!」

 あぁ、最近ダメだ。うみちゃんの前だとちょっとテンパっちゃって、、、。絶対変なやつって思われてるよ。

 そらは心の中でそう思いながら、恥ずかしくなってうみから顔を背けた。

 あの約束をしたあと、毎日のようにこちらの世界で一緒に遊んでいる二人だが、そらはうみに向ける感情を隠すのに必死だった。彼女とは本心を出し合うということを約束したが、この感情を出してしまうことで今の関係を崩したくないとそらは思っているからだ。しかし隠そうとすればするほど不自然な言動をしてしまい、その度にうみが大笑いする。


「書けたよ」

「おっけ!じゃあ行くよ!せーのっ!」

 二人はうみの掛け声に合わせて、またホワイトボードを互いに向け合うのだった。

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