バイクガイドー立花うみ(3)
「駄菓子!だがしだがし!駄菓子屋さんじゃん!そらちゃん、停めて停めて!!」
うみは駄菓子の前を普通に通り過ぎようとしたそらの背中から必死に訴えた。そらは困惑しながらもUターンし、駄菓子屋の横にバイクを停めた。
うみはさっさとバイクから降りてヘルメットをそらに預けると、駄菓子屋の中をのぞいた。店内は狭く、5歩も歩けば店の入り口から奥の棚にまで行けてしまう程の奥行と、人が3人ギリギリ通れないほどの横幅である。その広さの中に、駄菓子がぎっしりと並んだ棚が右手に、コンビニに置いてあるようなアイスケースが左手に配置され、店の奥には会計をする場所らしき机と、床屋に置かれているような一人用のソファがある。机の上には、現金が無造作に入った箱が置かれており、一番奥の壁にはぬいぐるみが7つぶら下げてあった。うみはそのまま店の中に入った。もともと店内の電気が弱々しく、今日は外も曇りなこともあり、体育倉庫を思わせるような暗さだったが、そらにとって中身はもっと夢のあるものだった。
「すごい!ホンモノだ!」
うみは店内をぐるっと一周見た。入り口側の壁にも小さい棚が付いており、そこにはカップラーメンが陳列されていた。壁には色褪せたビキニの女性がポーズをとっているポスターや、知らないサッカー選手のポスターが貼ってあった。
「都会にはこういうのって少ないの?」
そらが遅れて店内に入ってきて、うみに尋ねた。
「でっかいスーパーとかの一角に駄菓子コーナーみたいのはあるけど、こういうザ・駄菓子みたいなのは初めて見た!ちょー雰囲気いいじゃん!」
大喜びするうみを見て、そらはまたふっと笑った。
「ね!ね!せっかくだし海見ながら駄菓子食べようよ!」
うみはそう言うと、そらの返事を待たずに駄菓子を物色し始めた。そらは一度店を出て、もう一度入ってきた。うみはちらっとそらを見る。手に財布を持っていた。バイクに取りに戻ったのだろう。
「お金払わなくても大丈夫だってばー」
「なんか、ついつい」
そらはそう言いながらも財布は持ったままだった。おそらくうみが持って行く駄菓子の代金を律儀に払うのだ。昨日もそうだった。
「こういう小さいお店って、こういうとこじゃないとなかなか無いんだよねー!」
うみは直感でおいしそうなものを手に取っていった。
「ここは結構いろんな人が買いに来るんだよ。コンビニとかにないお菓子とかアイスとかでも、ここなら大体あるから」
「そーなんだー。あっこれ!今日友達が食べてたやつ!高校生でも買ってる人いるんだ」
「うん。大人もカップラーメンとか、アイスとか買いに来るっぽいよ」
「万能じゃんかこのお店ー。そらちゃんも結構来るの?」
「うーん、私はそんなに来ないかな。」
「なーんでよ!駄菓子食べよーよ!」
「まぁ、色々ね」
そらは困ったような笑い方をした。
あ、まただ。
うみは思った。そらはよくこの顔をする。まるで自分を押し殺しているかのような笑顔。うみ自身、そら以外の人にも同じような顔を見せられることがよくあった。自分に一歩下がって遠慮しているような、取り繕ったその顔が、うみは好きではない。
「ねぇそらちゃん」
「なに?」
「どうしてそんな遠慮するの?」
うみは横目でそらを見た。そらは気まずそうに視線を逸らす。
「ホントはうちのこと、嫌いだったりする?」
「え?そ、そんなことないよ?」
「じゃあなんでホントのこと隠そうとするの?」
「別に隠そうとしてるわけじゃ、、」
「うそ」
うみはそらの言葉を遮って否定する。
「うちに遠慮しようとしないで。そういうの、ホントに嫌」
「ご、ごめん、、、」
しばらく気まずい雰囲気が流れる。
、、、またやっちゃった、、、。
うみはこのはっきり言ってしまう性分のせいで、何人も疎遠になってしまった。それはうみ自身が一番わかっていた。しかしここがミサンガの世界であること、ずっとありのままをさらけ出していたことで、その性分にストッパーをかけられなかった。
先ほどまでのうみのわくわくしていた感情はどこかへ行ってしまった。そらは財布を手でいじりながら、アイスケースをじっと眺めている。沈黙が続き、駄菓子屋に設置された時計の秒針が鮮明に聞こえ始めた。うみはこのままではけいないと、沈黙を破る。
「この世界には二人しかいないんだし、遠慮しないでよ。うち、そらちゃんとはそういう関係になりたくない」
うみはファーストコンタクトも相まって、そらには今までの人とは違うものを感じていた。
「うちさ、めっちゃ距離感近いって言われるんだよね。すぐあだ名で呼ぶし、笑うときとかめっちゃボディタッチするし。しかも結構はっきり言うし、自分のことは「私」じゃなくて「うち」って言うし」
そんな『立花うみ』を中学校の頃に出していると、彼女に『大瀬良杏奈』のイメージを持っている生徒はみな遠慮するのだ。うみはそれが普通じゃないと言われているようで、プライベートでも『大瀬良杏奈』の皮を被っていた。
「でもそらちゃんがそれで良いって言ってくれたの、めっちゃ嬉しかったんだよ」
そんな時に出会ったそらは、自分のホントウの姿を見抜いていたし、自分を出してもいい人間なんだと、うみは思った。しかし結局は、他の人と同じ顔をされた。うみはなんとなく裏切られたようで、腹が立ったのだ。
「そらちゃんがそういうので遠慮してんならさ、うちも一人で行動するよ。無理させてごめん」
うみはそう言いながら駄菓子を2、3個だけ手元に置いてそれ以外を全て戻すと、立ち尽くすそらの横を通り過ぎようとした。
「ま、待って!」
うみは腕を引っ張られ、店を出る前に止まった。見ると、そらが両手でうみの腕を掴んでいる。必死さゆえ無意識だったのか、そらは慌ててうみの腕から手を放した。
「ごめん。あの、、、」
うみはそらの方へ体を向けた。目が合う。
「私、怖いんだ。人にホンネを言うのが」




