砂浜ー成宮そら(4)
車が全く動いていない大通りを、そらが運転するバイクが走り抜けていく。目指すは隣町の大きな砂浜だ。昔はリゾート地として、夏場の集客力はこの地域のトップだった。しかし近年ではサメの出没が盛んとなり、サメ関連の事件が起こってから客は激減。柵で囲って対策を行うも、その足は未だ取り戻せていない。
「風きもちぃぃーー!」
うみはそらの後ろではしゃいでいた。スマホで何やらおしゃれな洋楽を爆音で流している。おそらく芸能生活の中で、バイクの二人乗りなんて経験したことが無いのだろう。そらはこのはしゃぎ具合に身に覚えがあった。陽太の彼女の後ろに初めて乗った時は、遊園地のアトラクションとは比べ物にならない程の疾走感、爽快感、解放感。バイクに憧れたきっかけでもあった。
「いいよね。バイク」
「うん!」
うみはそらの腰に手を回さず、陽太が後ろの人が乗りやすいように取り付けた改造クラブバーを両手で握っている。そらは振り落とさないよう、慎重に曲がったり加減速したりした。
「誰もいないから信号守んなくてもいーのに!」
赤信号で停まったそらをうみが急かす。
「こーいうのは癖になると怖いから」
となだめるそらに、うみは頭突きした。
30分ほどバイクを走らせ、隣町へ入った。そらは地図アプリで大きな道を探し、そこから20分ほどかけてやっと海水浴場の駐車場にたどり着いた。
「着いたーー!」
そらが迷いながら駐車場を探している間、ずっと後ろで音楽に夢中だったうみのテンションは最高潮だ。ヘルメットをそらに押し付け、一気に走り出す。
「、、、ありがとうぐらい言え」
そらは不満を呟きながらヘルメットを丁寧にしまい、思い切り背伸びをした。
そういえば、初めてこんな長時間座ったな。
腰を指で押しながら、海水浴場へと入っていく。まず見えたのは白い砂浜である。校庭の5つ分以上はある横幅に、グラデーションのかかった砂浜が鮮やかな青い海へと繋がっている。海はいつ見ても広大で、空よりも鮮やかな色で輝いている。
「おぉーーーい!」
うみの呼ぶ声にそらはハッとした。梅雨が明けないとサメの侵入を防ぐ柵が設置されない。今は5月。うみがどこまで泳ぐのか分からない。
「立花さん!!サメいるからストップ!!」
どこにうみがいるのかも確認することなく、そらは叫んだ。
「え?そーなの?こわ!」
声は意外にも横から聞こえた。見ると、砂浜へ続く階段の中間に、うみは腰を下ろしていた。両手を後ろについてそらの方を見ている。
「あ、ここにいたんだ。もう海、入っちゃったのかと思った」
そらは安心してふっと笑いながら近くに座った。
「うーん。なんか、ずっと運転してくれてたのに一人で勝手に楽しんでるのも違うかなって」
なんだ、ちゃんと考えてるんだ。
そらは思わずうみの方へ目をやった。若干傾く日の光に、うみの横顔が照らされる。ふわっとした目元は長いまつ毛で存在が強調され、すっと通った鼻筋の曲線が美しい。細くまっすぐな唇は色合いがよく、輪郭で美人だと認識させられる。あと1ミリずれていたら、というほど絶妙で完璧な顔立ちで、触ると崩れてしまいそうだった。そらは改めて彼女を綺麗だと思った。
「ちょっと寝よー!」
うみはそらの視線に気づかないまま、階段の一段に器用に寝ころんだ。
「海には入らないの?」
「だってサメいるんでしょ?」
「浅瀬なら大丈夫だよ」
「んーーー」
気のない返事をしたうみは、あれほど行きたがっていた砂浜に背を向けて動かなくなった。かすかに上下に揺れる背中で、そらは彼女が本当に寝たことを確認する。
「わがままなヤツ、、、」
そらはぼそっと呟いて、ヘッドホンをバッグから取り出す。
バッグ持ってきて正解だったな。
そらは音楽を爆音で聞きながらそう思った。砂を飲み込み、模様を変えながら引いていく波を、そらはただただ見ている。
そういえば、立花さんってなんで私のこと“妖精”って知ってるんだろう。もうあれのこと聞いたのかな、、、。
そらは彼女が一組だということを思い出し、クラスの人を思い出そうとする。
そうか、ももと一緒なのか。だったらもう、知ってるんだろうな。
そらは当時の記憶を思い出したくなかった。勝手に思考を巡らせた自分にやるせなさを感じ、必死に音楽に集中した。
バカだなー。私。
そらはため息をつき、無心で波を見つめる。しばらくしてプレイリストが一周し、曲が止まった。そらは別のプレイリストを流し始める。
時折音の隙間に聞こえる波音が心地よかった。




