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海とミサンガ  作者: 深田おざさ
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砂浜ー成宮そら(3)

 うみの突然の提案から20分ほど経った今、そらはほんの4時間前に通った大通りを自転車で戻っていた。景色とともに通り過ぎる車やバス、トラックは1台たりとも動いていない。

 立花さんの言った通りだ。本当に人どころか動物までいない。

 いつもなら電線に止まっている雀も、ごみ置き場で目を光らせるカラスもいないのだ。

 そらは曲がりかけて止まっている軽トラックの内側を自転車で抜ける。どうやらこの世界になった途端、生き物が動かしていた物はその場で止まるらしい。慣性すら働かないようで、車にはエンジンすらかかっていない。


 海に行こうといううみの提案を、そらは快諾した。そら自身も混乱を落ち着けたかったため、何かしらのアクションが欲しかったのだ。

 学校から海までは歩いていける距離だったが、そらは自分のバイクで行くのはどうか、と提案した。こんな誰もいない世界で、昼間からバイクを堂々と走らせてみたかったのだ。しかし学校からバイクのある家までは遠く、学校にバイクで来る先生はいなかった。そこで学校の駐輪場から鍵の刺さったままの自転車を借り、家まで戻ることにしたのだった。


 そらはペダルを漕ぎながら、色々なことに思考を巡らせる。

 なんで私はこの世界に来れたんだろう。ていうか今思ったら、さっき本物の女優と話してたんだ、、、。初めて有名人に会ったな。

 そらは大通りから外れて家へ続く坂を登った。立ち漕ぎで途中までは進めたものの、力尽きて自転車から降りた。

 ゴールデンウィーク中ずっと家に籠もっていたそらは、なれない暑さに天を仰いだ。青の中で雲はゆっくり流れ、少し蒸した風が吹いた。じわっと汗をかいた首筋に風があたり、涼感へと変わっていく。

 そうだ、誰もいないんだ。

 そらはワイシャツを脱ぎ、バサバサと振り回しながら残りの坂を上り始めた。その音だけが虚しく響き、改めて人がいないことを実感するのであった。

 家につくと、そらは鍵を探した。

 今日の朝、お兄が乗って帰ってきたのだから、どうせいつも私が置いてるところにないだろう。

 と思いながら兄の部屋を漁る。実際、脱ぎ捨てられたジャージのポケットに入っていた。そらは、兄の部屋の灰皿で小さくなっていくタバコや、リビングの開きっぱなしのまま置いてある家計簿をみて、生活感のあるなかに人の気配が全く無いことに強い違和感を覚えた。その瞬間、誰もいないはずなのに誰かに見られているような気がして、そらは逃げるように家を出た。

 バイクにエンジンをかけると、いままでの静寂に慣れていたことや、少し怯えながら家を出たことで、エンジン音がいつもより大きく聞こえた。


 そらがバイクで学校へ近づいていくと、うみが校門のコンクリート塀の部分に座り、足をぱたぱた動かしているのが見えた。こちらに手を振っている。そらは動くうみを見て安心した。それはまるで遭難して一人で彷徨ったところに、救助隊が来た時のようなものだった。

「おーーーーい!」

 そらは遠くで手を振るうみに叫んだ。

「ぅわーーー!」

 近づいて車体が見えたのか、うみは感激した様子だ。

「なんかかっけぇ~!」

 そらはバイクを校門の横に停め、一度降りた。

 大きい黒のボディは太陽の光を反射して輝いている。車体が大きいものの、そら自身も平均よりもずっと背があるため違和感はない。それでも陽太から譲り受けたものなので少し大きく、停車の際は車体を斜めにして片足で支えなければならなかった。

「ほんと?ありがと」そらは目を輝かせるうみをみて少し照れた。

 まさか制服を着たまま学校まで来れるなんて。しかもお昼。

 そらはこの世界に感謝した。おそらく普通の世界では、こんなこと一度もできなかっただろう。陽太に運転の仕方を学んだものの、そら自身は無免許で、このバイクは大型。警察に捕まったら言い訳などできないものである。

「このバイク高そう!何円した?」

「んー、何円だろ。これ兄貴のおさがりだから分かんないや」

 そらは笑いながらサドルを開け、もう一つのヘルメットを取り出した。自分たち以外誰もいないとはいえ、転倒事故が怖い。

「いいなー。うちも大きくなったら免許取ってバイク乗るんだー。ゼッタイ」

「私は無免だから、早く免許取れる年齢になりたい」

「わ、いけないんだー!」

「タバコ吸ってた人がなnイテっ!」

 なんかこの人暴力的だなぁ。

 そらは殴られた二の腕をさすりながらそう思った。うみはそっぽを向いたが、ハッとして急いでそらからヘルメットを貰う。

「急ごっ!夕方までに着きたい!」

 そらはそこまで距離はないように思ったが、うみがせかすので、何も言わずにタンデムステップを出した。うみがヘルメットを被る。体が小さいので、大きいヘルメットとは不釣り合いである。首が折れてしまわないかそらは一瞬心配になった。

「よしっ!行くぞ~!」

 うみが元気そうな声を出したので、そらは前を向いてエンジンをかける。ぼるぅん、という排気音と共に、体が小刻みに揺れはじめる。

「目指すは隣町のひっっっろーーい砂浜だぁ!」

 うみの掛け声と共に、そらはバイクを前進させた。

 誰もいないのに思わず安全確認をしてしまった。

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