第50話、ある騎士の話⑭【血濡れの狂騎士】
目を開けたら友人だと思っていた男が大切な女の両手を掴み、目を輝かせながら何かを言っていた。
正直、これにはクラウスは引いた。
まさかあのような発言が出来ると思っていなかったので、どのように返事を返したらいいのかわからず、ふと思った事が一つだけある。
(魅了、とけてるなやっぱ)
あの時の禍々しい感じを『目』で見ていたのだが、間違いなくそのような感じはみせず、解かれているのだから目の前のルーナに『天使』と言う言葉をほざいているのであろう。
すると、クラウスの視線に気づいたのか、ルーナが青ざめた顔をしながらゆっくりとクラウスに視線を向けている。
クラウスは再度、引いたような目で二人を見た。
「……あの、クラウス様」
「……なんだ、ルーナ」
「……黙らせてもらっても、大丈夫ですかこの人?」
笑いながらそのように発言したルーナにクラウスは頷き、肯定する。
次の瞬間、良い笑顔になったルーナは容赦なくルフトの顔面目掛けて拳を振りかざしたのである。
ルーナに殴られて数十分後、殴られた場所を支えるようにしながら、ルフトはクラウスとルーナの二人に目を向けながら静かに呟く。
「何か、夢から覚めた感じがするんだが……あと、顔が痛いのだが何故なんだ、クラウス?」
「忘れろ、ルフト」
まるで昔に戻ったかのような口ぶりでルフトはクラウスに声をかける。
顔を抑えているルフトを軽く睨みつけるようにしながら視線を向けていたのだが、ルフトからは殺気と言うモノが見つからない。
少し考えるような素振りを見せた後、ルフトはクラウスに再度声をかける。
「しかし、あの森からこのような村があったなんて知らなかったな……住人は後ろに隠れているてん……いや、ルーナさんと、神父様のシリウスさん。それと老人たちが数人か?」
「ああ」
「……不思議だな」
「何がだ?」
「――今までお前の事、憎い敵だと認識していたはずなのに、今は妙にすっきりしているんだ」
笑顔でそのように答えるルフトの姿を見たクラウスは一瞬驚いた顔をした後、元に戻る。
どの口が言っているのか、クラウスには理解出来ない。
既に、クラウスとルフトの関係と言うものは壊れている。
友人だと思い、好敵手だと思い、クラウスにとっては、信頼できる相手だと、《《そのように思っていた。》》
「……俺を追ってきたのは、『聖女様』か?」
「あ……ああ。『裏切者の狂人を殺してでも良いから連れてこい』と第二王子と聖女様のご命令だ……うーん」
「なんだ?」
「……どうして俺は、お前の事を酷く憎む程、追いかけていたんだ?」
「……」
『魅了』されている事に、ルフトは気づいていないのであろう。そしてそれが命令だとしても、ルフトは『聖女』の話を鵜呑みにして追いかけてきたに違いない。
トワイライト王国の『聖女』はそれ以上に『堕落』させていく。
きっと、攻められたら負けるのは間違いなくトワイライト王国だ。
唇を噛みしめるようにしながら、クラウスはこれだけをルフトに告げる。
「……ルフト、一応言っておく」
「なんだ?」
「確かにお前とは友人関係だったと思うが……お前はあの時、俺ではなく、『聖女』を選んだ。だから、既にお前とは友人関係だとは思っていない」
「あ……そ、それはだな、クラウス……俺も、どうしてあの時お前に……」
「……あの時のお前の行動が、俺は『本心』だと思った、だけさ」
「ッ……」
――二度と、俺にかかわらないでほしい。
それが、クラウスの本音だ。
ルフトはまるで被害者のような顔をしながらクラウスに視線を向けているが、クラウスにとってその顔をされても、もはや靡かない。
例え、『魅了』された被害者とて、クラウスにとってもはや恐怖の対象でしかないのだ。
「……クラウス様」
「なんだ、ルーナ」
「……ルフト様とクラウス様、何かあったの?」
「……まぁ、そんなところだ。ルーナには全く関係のない事なんだがな」
ルーナが心配そうな顔をしながら声をかけてきたのだが、それ以上答えるのが辛くてたまらない。
寧ろ、このまま心配させるつもりはない。
彼女は全く関係ない、ただの少女だ。
手当をしてくれた、命の恩人でもある。
そんな彼女を巻き込むつもりはないと考えながら、次の言葉をどのように返せばいいだろうかと考えていた時だった。
ルーナの身体が、無意識に寄り添う形で、クラウスに向けられる。
「ルーナ?」
「……一人じゃないですよー」
「え?」
「……友達いなくなっても、ルーナはクラウス様の友達ですから」
まさか、そのような言葉を言われるとは思わなかった。
驚いた顔をしていたのかもしれない。
間抜けな顔をしていたのかもしれない。
次の瞬間、顔面が真っ赤に染まり上げてしまったクラウスは急いで顔をそらし、ルーナから目を向ける。
ルーナもクラウスが真っ赤に染まった顔を隠した事で急いで手を伸ばして声をかけた。
「く、クラウスさま……」
「見るな」
「え、でも、顔」
「見るな」
「ま、真っ赤になってますけ、ど……あの、なんか、すみません」
「……」
(けど、それが心地いい……ありがとう)
まさか自分がここまで陥落するとは思わなかった。
クラウスはそのように考えながら、見つからないようにちらりとルーナに目を向けた。
謝っている彼女の姿が少しだけ可愛らしいと、そして。
(なら俺はこれから何があっても、彼女の味方になろう。彼女が、俺の味方になってくれるのであれば)
トワイライトが今どのような状況なのか、わからない。
しかし、信じられない事ばかりだったが、彼女はそれでも自分の傍に居てくれると言う事なのであろうと理解しながら、クラウスは静かに、誰も見ていない所で笑うのだった。
凍っていた『心』が一瞬にして、溶けるように感じた。
クラウス編はこれで終わりになります。
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