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5.兄の焦燥

孔明兄ちゃん、動く!

 

 鸞の乗った飛行機が、予定していた上海の貴賓用専用飛行場に着いていないと連絡が入ったのは、道成寺を題材にした3年生の授業を終える間際であった。

 瀬良田の事件で謹慎処分となっていた生徒たちも徐々に戻り始めていた。心を震わせるような題材をと心を砕き、高校生には多少早いかと思いつつ、安珍と清姫の濃厚な悲恋を使ってみたところ、中々の反応であった。これほどに身を焦がす相手と、本当の恋をしてほしい。たとえ破れることがあっても、思いの丈を後悔なくぶつけることで、己を成長させるような愛に巡り合ってほしい。目の前の快楽だけに囚われるのではなく、自分の心と体を大切にして欲しい……そう説く孔明の言葉を、若い生徒たちは茶化すことなく真剣に聞いていたのであった。

 同僚の教師が、職員室へとメモを見せるので、結びの言葉もそこそこに、孔明は職員室へ戻った。

「弟さんが……弟さんの乗った飛行機が行方不明と……」

 学長が、言葉を選ぶようにしてそう告げた。

「電話は誰からですか」

「父君からです」

 ならばガセではない。孔明はごくりと唾を飲み、発狂しそうになる心を必死に沈めた。

「学長、勝手を申しますが、明日から一週間、お休みをいただけませんか」

「丁度各学年、遠足や修学旅行で授業が減る頃です。いいでしょう。何かあれば知らせてください」

 黙って頭を深々と下げ、孔明は荷物をまとめて職員室から飛び出した。


 その足で警視庁に向かうと、既にロビーで霧生久紀がうろうろと落ち着かぬ様子で待っていた。

「コウ! 」

 駆け込む孔明の姿を見つけ、久紀も駆け寄った。

「すまん、やはり俺が行くべきだった」

「先輩も上からの命令で外されたと聞いています」

「ああ……今、兄貴が来日した外相の首根っこ押さえて事情を聞き出している。既に外務省も動いている。それより、親父さんだ。激昂して上海に行くって支度始めて……」

 と言う間に、玄徳が駆け足でエレベーターホールから飛び出してきた。

「父上」

「来てくれたか。今から鸞を迎えに行く。亮子を頼むぞ」

「お待ちください。父上が出ては事が大きくなります。中国との交渉は慎重にも慎重を要します、まずは外務省に捻じ込んでもらってからではないと、開く扉も開きません! 国事に影響させてはならない」

「父だぞ、父が息子を助けにいって何が悪い!! 」

「父上……」

 玄徳の荷物を手から受け取り、孔明は近くのソファに座らせた。

「私が行きます。民間人の私なら、どこにでも入り込める」

「おい、コウ……」

 孔明が自分のスマホを久紀に預けた。

「先輩、私のスマホにGPSの追跡アプリを入れてください。それと……」

「外務省の窓口を通じて、臨時職員が数人入国出来るよう手配して貰っている。お前の名前も入れてある」

「先輩!」

「ただし、俺が一緒に行く。兄貴のコネ使いまくって乗り込んでやる。援護射撃は任せろ」

 孔明は頭を下げた。

「恩に着ます……父上、父の代わりに、この兄が必ずあいつを連れて帰ります」

 アプリを操作した久紀からスマホを受け取り、孔明は荷物を玄徳の膝に乗せて一礼すると、身を翻して駆けて行った。

鸞の消息は如何に⁉︎

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