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4.上空 2

レイモンドが動いた!

孤立無援で戦う鸞に、勝機は⁉︎

「仕組んでいたな」

 窓側を向いて蹲るレイモンドを飛び越えるようにして通路にすべり出た鸞は、倒れている警護課の1人が握ったままになっているベレッタ92を両足で器用に拾い上げ、宙に放った。

 右手を拘束されているため、鄭に背を向けて体を起こすことになってしまう。構わず、落ちてきた銃を左手で掴むなり、体を弓なりに反らせて立て続けに二発、撃った。

 頭がつきそうなほどに反り返った鸞のヘソの上を、鄭が放った銃弾が掠っていく。逆さまに標的を狙ったまま、もう一度、鸞は撃った。鄭が悲鳴をあげて後方に吹き飛んだ。趙はもう、肩を撃たれて悶絶している。

「あの時も暗闇で私と互角に渡り合う男がいることに驚いたものだが……私は益々レディの虜だよ」

 体を起こした鸞を引き寄せ、レイモンドが意表をつくように鸞の唇を吸った。そして舌を執拗に捻じ込ませて鸞が口の中に隠した鍵を探した。頑固に舌の奥に隠す鸞に痺れを切らし、レイモンドが空いた手で鸞のスラックスのファスナーを下げ、下腹部に触れた。それでも鸞は気を逸らさず、鍵を守り続ける。

「レディ! 」

「逃してたまるか。あと10分もあれば上海に着く。お前を引き渡すまで、僕は絶対お前を離さない」

 人形のような可憐な顔立ちが、悲壮に歪む。だが、そんな勇ましい決意に満ちた壮絶なまでの表情を、レイモンドはこの上なく美しいと思った。

「キスを、させてくれないか」

 そう嘆願するレイモンドに、鸞は相手にしないとばかりに顔を背けた。

 そのふわりとした髪に右手を差し込んで、レイモンドは鸞の顔を自分に向かせ、再び噛みつくようなキスをした。んん、と喉の奥で反抗の唸り声を上げ、鸞は思い切りレイモンドの額に自分の額を押し付けて、力ずくで硬い肘掛けに押し付けた。後頭部を打ち付け、悶絶の表情を見せるレイモンドの腹部に、鸞は膝を打ち込んだ。

「なめんな!! ……竹内さん、竹内警視! 」

 微かに、女性の呻き声が聞こえる。命は繋いでいる、良かった……そう安心するのも束の間、飛行機は上海の貴賓用の専用飛行場を超え、山奥へと彷徨い込んでいった。

「機長、機長、どうしました」

 まさか……と鸞は頭を抱えた。レイモンドの組織は、それこそ中国の省を1つ買い上げることができるくらいの財力と影響力があると聞いていた。まさか操縦士も懐柔されており、この機はレイモンドの組織の空港にでも連れていかれるのではないか……と。

「竹内警視、起きられますか!! 機長がグルの可能性があります、上海に戻るように対処願えますか」

 だが、帰ってくるのは唸り声だけである。

 着いたらきっと、この機で生き残っている日本人は全員殺される……。鸞は口から鍵を取り出して手錠を外し、気絶したままのレイモンドの手を釣り上げるようにして片方を鄭の手首に固定した。これなら起きたとしても、大の男を引きずらなくては動くこともできない筈だ、時間は稼げる。

まずは撃たれている警察官たちの応急処置を急いだ。警護課の者たちは皆それぞれネクタイを引き剥がして止血し、竹内には鸞が自分のネクタイを解いて肩口をきつく縛り上げた。そして、中国の刑事たちの手首にも、それぞれネクタイで止血してやった。

「なぜ、我々まで」

「拾える命をむざむざ捨てることはない。それだけ」

「でも、私達は君の仲間を……」

「急所を外したんだよね。弾も貫通しているし、出血はそこそこあるけど重症者はいない。ギリギリのところで、君達も矜持を見せたんだ。違う? 」

 きつく縛り上げた時、鄭が顔を歪ませ、そのまま涙を流した。趙も、手で顔を覆い、咽び泣いた。大方、家族を人質に取られたか、ギャンブルで借金を作って首根っこを押さえられたか何かだろうことは察しがつく。

 左肩口を撃ち抜かれている竹内が、寒さに身を縮ませるのを見て、鸞は自分の上着をその体にかけてやった。

「必ず、助けが来ますから」

「桔梗原君……あなたに謝らなくては」

「いいんですよ、大体察しがつきますから」

「見た目以上に、タフなのね。驚いた」

「よく言われます」

 にっこり微笑むと、竹内は呆然と鸞を見上げたまま固まっていた。他のけが人達も、焦点がボヤけたような惚けた顔をして鸞の笑顔を見つめていた。日本人の警官4人のうち、まともに立てるのは3人、1人は腿を弾が掠めていて肉が少し抉られている。立てる3人のうち、利き手をやられているのが2人、だが、あと1人は肩を撃ち抜かれているのでまともに体勢を整えることもできない……要は、全員戦闘不能である。

 助かる筋書きが何一つ浮かばないまま、鸞はコックピットに駆け込んだ。

「機長、計画通りに飛んでください」

 だが、前を向いたまま機長は何も答えなかった。鸞は注意深く横に立ち、込め髪に銃口を貼り付けた。

「もう遅い、ほら、飛行場が見えている」

「引き返せって」

「燃料はない。それに……家族が、レイモンドの組織に囚われている」

 機長の名前は確か、母親が中国人だと資料にはあった。名札を確かめ、鸞はもう一度声をかけた。

「山田さん、レイモンドが無事に警察組織に引き渡されれば、力を削がれ、家族も解放される筈です」

「甘い。あなたはあの男の恐ろしさを知らなすぎる」

 無情にも、飛行機は着陸態勢に入ってしまった。


戦いの場所は、中国に……!

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