14.真情、もう1組の兄弟
鸞を見守る霧生久紀、その弟の光樹。密かに求め合う兄弟が、ここにも……
服と食べ物を調達して戻った久紀は、ホテルの前に車を止め、スマホの通話ボタンを押した。
「……久紀? 」
電話の向こうから、光樹の心配そうな声が聞こえた。その声を聞いた途端、胸が一杯になり、久紀は涙をこらえた。
「大丈夫? 」
ああ、と言いたくても、頷くのが精一杯で声にならなかった。
「夏輝兄さんから、皆無事だって聞いたよ。早く帰ってきて」
「……ん」
「空港まで、迎えに行く」
「……ん」
「久紀」
「……ん」
「愛してる」
「……ん」
グッと歯を食いしばり、久紀は電話を切った。何を感傷的になっていやがる、自分が命のやり取りをしたわけでもないというのに……自嘲するように笑いながら、久紀は止まらない涙を拭った。
少し間を開けて部屋を訪れた時、鸞はベッドの上で孔明のTシャツを裸体の上に纏っていた。上背の割に華奢な体ではダボタボに大きく、鎖骨が露わで目の毒なほどに婀娜っぽい。膝を崩して横座りになっている為、太ももまでが露わになっていて、情事の後の気怠気な女のようにも見えてしまう。
「課長……すみません、あいつを取り逃がしました」
横座りのまま久紀を見上げて涙を堪える鸞は、刑事というより、正に姫、である。
「バカ言え、よくやったぞ。無事で本当によかった……鸞、俺の代わりに酷い目に合わせて、すまなかった」
頭を下げた久紀に、鸞は子供のように必死に首を振った。
「助けに来てくださって、嬉しかった」
そんな可愛い事を言うな……久紀にしては珍しく、そんな軽口一つ返せなかった。言葉が見つからない代わりに、久紀は紙袋をベッドの上で逆さまにした。
「これ、姫の体付きは細すぎて、既製品だとサイズが無くてな。スーツは諦めて、これで我慢してくれ」
そう言いながら、久紀は鸞に背を向けて、カジュアルなボタンダウンのシャツと綿パンを並べた。
「下着はこっちの袋だ。俺、車で待っているから」
「いえ、先輩こそ、少し休んでください。私が車で見張ります」
ベッドに置かれたままの車の鍵を取ろうとした孔明の手を制し、久紀がその鍵を握りしめた。
「よせよ、俺を野暮天にするつもりか。肩がまだ痛むだろう、着替えさせてやれ」
すみません、と孔明は素直に頭を下げた。
「それとな、南昌の国際空港から直接羽田に帰れるよう、領事館が交渉してくれている。間も無く、チャーター便を確保できるだろう。動かせない程の重症者はいないから、2時間以内には全員一発で帰れる筈だ」
帰れる……鸞が孔明と笑顔を交わした。
「……先輩、色々と有難うございました。足手纏いなばかりで役に立たず、恥ずかしい限りです」
「良く言うぜ。ハリウッド並みの大立ち回りを姫にも見せたかったよ。愛の力ってヤツだ」
「穴があったら何とやら、です」
孔明は、簡単な食事と水が入ったビニール袋を受け取り、再度頭を下げた。
「いつでも出られるようにしておけ。後で迎えに来る」
久紀は硬い表情のまま、それだけ言い残して部屋を後にしていった。
久紀の言葉通り、きっかり2時間後、半ば追い立てられるように南昌国際空港からチャーター便が羽田に向かって飛び立ったのであった。




