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1.愛の防音室

PIXIVで『桔梗原家の人々・共鳴編』として掲載していた作品を、改題・手入れをしてこちらにお引越ししました。

兄の愛で花開いた無自覚お色気姫刑事こと桔梗原鸞。彼の魅力は厄介な相手を惹き寄せてしまう……。

1.愛の防音室



 港区は麻布狸穴町。植木坂と鼠坂が交錯するあたりに、古く大きな洋館がある。

 旧華族である桔梗原(ききょうばら)家の屋敷であった。

 

 アール・デコ調に装飾された重厚な扉を開けると、目の前にはかつて晩餐会が行なわれていたこともあるという広いホールがあり、二階の踊り場から壁に沿ってL字に曲がり、手すりが見事な曲線を描いて末広に広がってホールに至る大階段がある。その階段を避けるようにして裏に回ると、かつては古めかしい居室の木製のドアでしかなかったものが、気密性に富んだグレモンハンドルの防音扉になっており、そこだけが突然令和の現在を匂わせている。

 この部屋の持ち主は、かつて美貌のピアニストと謳われたこの家の妻であり母である美鳥(みどり)であった。しかし今は、母の跡を継ぐと思われながら、17歳で母を亡くした瞬間にピアノの道を捨てて、警察のキャリア官僚へと大方向転換をした次男・(らん) の居室であった。元々は防音処理など何もされてはいない部屋であったが、四谷署組織犯罪対策課の薬物銃器対策係・係長として警部の職階にある鸞は、捜査の中で受けたストレスをピアノで解消するようになり、再開を喜んだ警視副総監である玄徳(げんとく)が、即日に防音室化を決めたのであった。


 防音室なのを良いことに、鸞はベッドの上で派手な声を上げていた。

「……もっと……いっ、いいっ……あに……兄上っ、あん……」

 この家の長男であり高校の古典教師である孔明(ひろあき)に後ろから貫かれ、華奢な背中を小刻みに波立たせていた。

「あ、ああ……んっ、もうっ……ああんっ……」

「綺麗だ……素敵だよ、鸞……」

 細く小さい腰の中に己を沈め、孔明は鸞の可愛い囀りに誘われていた。肩越しにこちらに向ける可憐な美貌が、婀娜に歪む。ふっくらした唇からは、絶えず喘ぎが漏れ、孔明の激しい動きにつられ、肘も立てておけずに枕にしがみつくようにして、枕の中で悲鳴を上げた。

 後ろから鸞自身を手で訶みながら突いていた孔明も、鸞の中で思い切り果てた。孔明の手の中の鸞も、派手に迸らせていた。

 既に今夜だけで三度目の交わりである。鸞の乱れ様は徐々に増していき、煽られるようにして満ち果てた孔明も、流石にその細い背中の上に突っ伏した。

「もう、もう……兄う、え……無理ぃ」

「動くな、私がやるから」

 体の下で息を乱す鸞の首筋に優しくキスをし、孔明は鸞の体から離れ、ベッドの脇に置いてあるタオルを取った。

 横たわる鸞の体は、白蛇のように曲線を描いてくねっている。神々しいまでの美しい肢体で、あれほど貪欲に大胆に、自分から搾り取ろうとは。

「どうした」

 鸞の体を拭いてやりながら、仰向けに返した鸞の顔を覗き込み、孔明が尋ねた。

「恥ずかしい……」

 あれだけ体を縦横無尽に開いてクネって喘いで時に跨いで、今更何を言うか、と思わず孔明の口元が緩んだ。

「何かあったか。今日はまだ、満たされていないようにも見える。ダメ、だったか? 」

 思わず自信が揺らぎそうになって訊ねる孔明に、鸞は泣き出しそうな潤んだ瞳を向けて首を振った。

「明後日から……中国に行くことになっちゃった」

「中国……レイモンド・タンの護送か」

「そう。あのスカした奴。本当は本庁の銃器薬物課の課長と、ウチの霧生課長が行くはずだったんだけど、何だか僕が行くことになっちゃって」

「先輩の代わりか」

「そう」

 呼吸が落ち着いた鸞は、少し気怠そうにして体を起こした。

 その間にも、孔明は部屋着のスウェットを履き、持ち込んでいたウイスキーを2つのグラスに注いでいた。上半身は裸のままで、首にスポーツタオルを巻いている。汗で光る背中にも腹にも、まるで鎧のように筋肉が覆っている。鍛え抜かれた武士のようながっしりとした体躯を、鸞は陶然と眺めていた。

 一糸まとわぬ裸体のまま、鸞はベッドから滑るように下り、孔明の背中にべったりと張り付いた。

「ほら」

 そしてウイスキーのグラスを受け取ると、グビリと喉を鳴らして一気に煽った。

「おまえ、そんな飲み方を」

「シャワー浴びたらさ、ビールがいい」

「私もそう思った」

 いつも朝に洗面所でするように、鸞は背中から孔明の逞しい腰に手を回し、うっとりと背中に頬を摺り寄せた。後ろ手で鸞の腰に手を伸ばし、孔明がその小ささを堪能すると、孔明の太腿あたりに当たるものがあった。

「おまえ、また……」

「どうしよう、おかしいのかな僕……ああ、きっと変態なんだ。兄上の体見てたらもう、堪らなくなってしまって……僕止まらないの、変なんだよ……ああ、兄上のお尻、なんて格好いいの」

 鸞がスウェットを捲りおろし、いきなり孔明の硬く張った尻肉にキスをした。その奥に舌を押し込まれた孔明が、驚いて思わずグラスを落としそうになった。

「おい、待て待て」

 向き直った孔明が、鸞を優しく抱きしめてやった。

「どうした、不安なのか、護送が」

 腕の中で、鸞が頷いた。そしてぬめぬめと色を湛えた漆黒の瞳を悩ましげに潤ませて、長身の孔明を見上げた。眉根を寄せるそのリヤドロの陶器人形のような愛らしい顔立ちを、孔明は両手で包んだ。

「おまえなら大丈夫だ。おまえは私より余程、芯が強い。いつも、そう思っていた。レイモンドとの経緯は何となく聞いている。先輩がおまえに役を譲ったのは……」

「違うよ。レイモンドがそう仕組んだんだ」

 どういうことだ、と孔明は鸞をベッドに座らせた。

「レイモンドは思った以上に中国の上層部に食い込んでいる。僕を担当にする為に、外相の訪日予定を自分の送還日に合わせて変更させたり、向こうでの引き渡し場所を北京ではなく上海に指定させたり、結構やりたい放題ワガママを押し付けてくるんだ、あちらの党本部を通じて」

 先月の銃器取引の大捕物で、四谷署は広東の荒鷲と呼ばれる中国マフィアの大物、レイモンド・タンという人物を逮捕していた。手錠をかけたのは他ならぬ鸞である。大金星を挙げた鸞だが、その時の無意識下での色気にまんまと当てられたレイモンドは、異様な執着を見せ、鸞でなければ聴取にも応じぬ徹底ぶりであった。

 予定している中国外相の日本での警備は、霧生課長の兄である、警備部警護課の霧生夏輝(きりゅうなつき)警視正以下SP軍団が担う。来日と送還が重なり、それぞれの責任者として兄と弟が担ったとて問題はない。しかし、万が一を嫌う警察庁の上層部は、階級の低い弟の方を外し、レイモンドの希望を通すことで、とにかく1日も早く御帰国遊ばしていただくことを第一義としていた。レイモンドが裏で手を引いたとはいえ、いつもの中国外務省の無茶振り以外の何者でもない。

「向こうの当局に引き渡せば良いのだから、すぐに帰ってこられるだろう」

「それが……裏付け捜査の擦り合わせだの手続きだの、面倒らしくて、最低で二泊三日だって」

 何だ3日か、と思わず呟いて、慌てて孔明は手で口を塞いだ。鸞がじっとりとした目で孔明を睨んでいた。

「何、三日も会えなくて平気なの? 三日も兄上とイチャイチャできないなんて、僕は死んだ方がマシなんだけど! 三日も、どうやって我慢するんだよ……死んじゃうよォ」

 さめざめと泣きだした鸞に手の施しようもなく、孔明はベッドの天蓋を仰いだ。


兄を愛しすぎて、止まらなくなった鸞ちゃん。刑事の顔とは別の、弟の素顔とは……。

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